「小十郎」
「また、ですか?政宗様」
「分かってんだろ?」


右手を伸ばし、斜めに走った傷跡をなぞった。



    『前哨戦』



合戦に赴く前夜、政宗は決まって小十郎を部屋に呼びつける。
行軍の最終確認のためではない。
昂った気を静めるために小十郎と褥を共にするのだ。


「さっさと脱げよ」
「そのように急くのは一国の主として…」


何か言おうとすればすかさず口を塞がれる。
唇を舐め上げ、歯列を割って押し入る政宗の舌を、小十郎はやれやれといった心持ちで受け入れた。


「今宵はいつも以上に興奮しておいでですな」


肌に掌を這わせながら、常より息の乱れた主に声をかけた。
三日月に歪めた笑みが更に深くなる。


「明日は武田のオッサンとことだぜ?当世最強と謳われた騎馬隊とやり合えんだ。興奮して当然だろ?」
「確かに。ただ、お一人で突出するような真似はなされませぬよう。大将は奥でゆったりと構えているくらいが丁度よいものです」
「んなことしてられっ…ぁっ…」


穏やかな声音とは裏腹な指先が、的確に欲望を暴き立てた。
武骨なそれは内部をも侵食し、猛りはとろとろと蜜を零す。


「武田には、かの真田幸村がおりましたな」
「ああ。あれほどの男と仕合えるとは…武士として、最高の誉れだ」


幸村と刃を交えたときのことを思い出しているのだろう。
目がきらきらと輝いている。
小十郎が齎す快楽に蕩けながらも、その顔はさながら遠足前夜の子どものようであった。


「…また単騎で攻め入るおつもりですね?」
「ぅっ…」


咎めるように、一際深く突き入れられる。
内壁をゆるゆるとなぞられ、強く上下に扱かれる。
政宗の腰が震えた。


「折角のPartyだ。楽しまなきゃ損だろ?」
「ついてゆく成実殿や私の身にもなって下され」
「俺について来らんねぇようなヤツは、ウチにゃいねぇよ。そうだ、お前にはあの戦忍を分けてやる。なかなかの手練れだぜ?」
「それは戦い甲斐がありそうですな」


戦で血が滾るのは小十郎とて同じこと。
興奮をそのままに、指戯が激しさを増す。


「んっ…は、ぁっ……!」


政宗は、彼にしては呆気なく吐精した。
達した後の気だるさに瞳を濁らせながらも、肉欲は未だ治まることを知らない。


「小十郎、お前も来いよ。erectしてんだろ?」


しどけなく開かれた脚が誘うように絡みつく。
行儀悪く腰に巻きついてきた足首を掴んで、小十郎は己が主に屹立を突き入れた。




政宗は、小十郎が自分を貫く瞬間に見せる表情がたまらなく好きだった。
全てを預けられるこの男が、情欲に濡れた目で射抜く一瞬が心地よい。


「っ…ぁあ…こじゅろ……」
「政宗様…」


弟のように、我が子のように見守る眼差しに包まれる。
柔らかな抱擁と激しく掻き乱す怒張とが、更なる高みへと追い遣った。

絡みつく肉壁の愉悦に、小十郎の目も細まる。
早くなる腰の動きを追って、締め付けは強さを増した。
背に回された爪が、快感を訴えて骨まで食い込む。
混ざり合う感覚に頭の芯まで侵されて、そして。


「ふ…」
「う、ぁ…」


荒れ狂う快感に、白く意識を弾けさせた。




「さぁ政宗様、そろそろお休みになられませい」
「なんだよ。もう腰立たねぇのか?そんな歳じゃねぇだろ?」
「まだ気が静まりませぬか。絵巻物でも読んで差し上げましょうか?」
「そんなpillow talkいらねー…」


冗談とも本気とも取れぬ顔で寝かし付けようとする股肱の臣に、興奮冷めやらぬ竜が襲い掛かるまで、あと5秒。



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