うららかな午後の陽射しを受け、政宗と幸村は丹精された庭を眺めていた。
のんびりと流れる時間に今が乱世だということを忘れそうになる。
政宗は煙草を燻らせながら、ずんだ餅を頬張る幸村を眺めていた。
「…アンタさ、結局のところ俺とヤりたいの?」
「何をでござろうか?」
唐突に政宗が尋ねる。
きょとんとしている幸村に殊更卑猥な言い方で説明してやった。
刺激が強すぎたのか緑色の餅を咽喉に詰め、目を白黒させている。
予想通りというか、幸村は顔を真っ赤にしてお決まりの台詞を叫んだ。
「ま、政宗殿!はれんちでござるぞ!!」
「言っておくが俺はCherryにカマ掘られるなんざゴメンだからな」
「ちぇりー?釜?」
隠語に暗い幸村に、政宗は呆れつつも教えてやる。
今度は盛大に鼻血を噴出した。
「なんとはれんちな!!!ご自重下されっ!!」
「アンタこそ鼻血を自重しろ」
大声で喚く幸村目掛けて紫煙を吐き出してやった。
政宗とて幸村のことが嫌いなわけではない。
己にはない真っ直ぐさを持ったところは好感が持てるし、羨ましくもある。
だがそれはそれ、幸村と懇ろになりたいとは思わなかった。
そもそも幸村の方はどういうつもりで奥州にやってくるのだろうか。
摺上原で刃を交えた折、長篠で会って以来自分のことが頭を離れなかったとは言われた。
いきなり抱きつかれた政宗もある意味幸村のことが忘れられなかったが、摺上原での勝負も有耶無耶になったまま、今は暢気に茶など啜っている。
幸村が自分をどうこうしたいと思っているとは考えにくい。
だからこそ、幸村の心情が知りたいのだろう。
政宗は無条件に与えられる好意に慣れていないのだ。
結局のところ、いつか来る別れが怖いのだ。
愛しい相手に触れたいと願うは人の常。
幸村とて男だ。色恋について全く知らない訳ではない。
だが政宗を抱きたいのかと聞かれると違うような気もする。
「政宗殿は触れられるのがお嫌いか?」
「相手によるな。アンタみたいな猪ヤローの突撃喰らいたい人間はいないだろうよ」
「あれはっ!合戦場でのことゆえつい抑制が効かなかったのであって…」
拳を握り締めて訴えれば分かってるよ、とくつくつ笑われる。
歳は幾つも変わらないというのにどうにも勝てないのが口惜しい。
それならば相手の意表を突くこととしよう。
すっかり忘れ去られた智将としての軍略を示すことにした。
「ならば政宗殿。某を…その…」
「Ah?はっきり言えよ」
「いえ、ですから」
お耳を拝借、と政宗の耳に口を近づけるものの口篭る。
さっさとしろと殴られて漸くぼそぼそと言葉を紡いだ。
途端に黄金の右でアイアンクローを喰らう。
赤い鉢巻をした額がみしみしと軋んだ。
「No kidding!誰がアンタのカマ掘りたいって言ったよ?」
「だが掘られるのはお嫌だとおっしゃったではござらんか!」
「当たり前だ!そもそもアンタとヤる気はねぇっての!だ〜か〜ら、腕を交差させて胸を隠すのはやめろ!頬を赤らめるな!上目遣いにこっちを見るんじゃねぇ!!!」
あまりの気持ち悪さに、政宗はHELL DRAGONをブチかます。
池まで吹き飛ばされた幸村は盛大な水柱をあげて沈んだ。
政宗は思わず「馬鹿めが」と呟いてしまった。
「うちの旦那もあんたとコトに及びたい訳じゃないと思うよ。ただ竜の旦那のことが好きなのさ」
「Hold your tongue!忍なら忍らしく出てくるんじゃねぇよ」
「おーコワ。そんじゃあ忍らしく旦那を引き上げてきますかね」
「とっとと連れ帰れ。そして二度と来るな」
「はいはいっと」
音もなく現れた佐助に動じることもなく、それだけを吐き捨てると政宗は奥の間へと去ってしまった。
やれやれと肩を竦めると、引き寄せの術で鼻血で赤く染まった池から上司を引き上げた。
時は戦国乱世。下克上が横行する時代。
どちらが掘られるのか。
政宗と幸村の戦いは続く。
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