「むぅわさむねどぬぅおおおおおおおっっっっ!!!」
「Shit!暑苦しいぞ、幸村!!」
元気いっぱいに抱きついてきた幸村に、回し蹴りで答える政宗。
長い脚は見事胴を捕らえ、吹き飛ばされた勢いのままに池へと落下した。
「久方ぶりにお会いしたというのに酷いでござるよ〜」
「てめぇよぉ…自分の体温がどれだけ公害になってるか分かってんのか?」
若さって何だ?立ち直りが早いことさ、を実践して廊下に這い上がってきた幸村をぐりぐりと足蹴にする。
彼なりの親愛の情の表し方だった。
「アンタが近くにいるだけで体感気温が5度は増す気がするぜ」
「これも政宗殿への熱き想いゆえでござる!」
「俺を想うなら氷漬けになってから来い」
脚にしがみ付いてくる幸村を引っぺがして、政宗は部屋に引っ込んでしまった。
余程暑いのが嫌いらしい。
「部屋にいるより木陰にでもいた方が涼しくはござらんか?」
「一日庭にいる訳にはいかねぇだろ」
「ならばどこか小川にでも水浴びに」
「お天道さんがきつくてな。木陰に着く前に煮えちまう」
「政宗殿〜…」
禅問答のように終わりの見えない会話に、幸村ががっくりと肩を落とす。
どうにかして涼んでもらいたいという思いが分かっているのだろう。
必死に涼をとる方法を考えている幸村を見て、にやにやとした笑みが隠せない政宗だった。
幸村の百面相は見ていて飽きない。
「…よし!これだ!!」
「Ah?今度は何だ?」
火を入れたばかりの煙管から唇を離して、いつの間にやら接近していた幸村を見上げた。
会心の策でも思いついたのか、目がきらきらと輝いている。
相変わらず犬っころみてぇな奴だと政宗は思った。
「んで?お次はどんなideaで俺を楽しませてくれんだ?」
「心頭滅却すれば火もまた涼し!暑いときこそとことん熱くなりましょう!!」
まさに妙案とばかりに幸村は叫んだ。
「汗を掻くと涼しくなるのだと以前佐助が申しておりました!これから一つお手合わせ願いたい!」
「そう来たか…まぁいい。その話、乗ってやるよ」
立ち上がると奥の部屋への襖を開けた。
その部屋の中には何もなく、ただ薄暗かった。
「政宗殿?」
「一汗掻かせてくれんだろ?」
早く来いとばかりに顎をしゃくる。
幸村には政宗の言わんとしていることが全く分からなかった。
「鍛錬場に行くのではござらんのか?」
「んなとこでヤりたかねぇよ。流石にここは風が通らねぇか…」
「第一狭すぎましょう。また部屋を壊して片倉殿に叱られますぞ」
「そこまで激しいのがいいなら…Uh?アンタ、何の話してんのか分かってんだろうな?」
「手合わせの話でござろう?」
「…まぁ、確かに手合わせだわな」
「ならばいざ鍛錬場へ」
やっぱり噛み合っていなかった。
思わず額を押さえたくなる。
「ま、好都合か」
お子様には教育的指導が必要だろう。
勝手に決めると、政宗は大袈裟に頭を振ってみせた。
「俺がしたいのはここでできる鍛錬なんだがなぁー」
「ここでできるのですか?」
「Ya.」
「ならば構いませぬが、一体どのような方法で?」
「知りてぇか?」
「是非にも!」
「男に二言はねぇな?」
「はい!」
「Good. いい覚悟だ」
こうして幸村は、深読みするということを知ったのだった。
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