「てめぇら!荷は積み終わったんだろうな?」
「Yes, sir!」
「新しい褌は用意しましたか?」
「Yes, sir!」
「OK!そんじゃあ行くぜ!」
「Yeaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaah!!!」
「いやちょっと待ってよ!台風来てるから!流石に無理だから!」


成実の諫言空しく、伊達全軍は南に向けて進軍した。



   『男盛りの俺たちへ 〜褌☆パラダイス〜』



「結構早く着きましたねぇ」
「よく無事に来られたモンですよ…死ぬかと思った…」
「台風ぐれぇでだらしねぇぞ、藤五」
「だらしなくねって!普通の反応ですよ、藤次郎様!」


泣く子も黙る爆走愚連隊、奥州の伊達軍一行は台風を突っ切って四国までやってきた。


「よしおめぇら!遅くなっちまったが、俺からsummer vacationをpresentだ!思う存分遊びやがれ!」
「Yeaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaah!!!」
「最高ッス!筆頭!」
「思いっ切り泳がせてもらうッス!」


政宗の言葉を合図に、伊達軍の面々は海へ飛び込む。
下ろしたての褌が目にも眩しい。


「鬼が島へようこそ。歓迎するぜ」
「おー。来てやったぜ…ってアンタ、何だその恰好は」


政宗らを出迎えた四国の雄、長曾我部元親は黒い着物を頭から被っていた。
日頃の露出っぷりとはえらい違いである。


「どうしたチカちゃん。暑さで頭沸いたか?」
「チカちゃん言うんじゃねぇ。これは紫外線対策よ!」


ばばばばん!と効果音が付きそうな勢いで偉そうに踏ん反り返ると、元親は説明しだした。


「お天道さんてのは恵みをくれるばかりじゃねぇ。お肌に悪ぃもんもくれるのよ。だからこうして遮ってるって訳だ!」
「貴様!日輪を愚弄するか!」
「どぅわ!」


ご満悦の元親目掛けて、いきなり現れた元就が輪刀で斬りつける。
成実は早速胃が痛くなってきた。
政宗は沸いて出た元就を気にするでもなく、ざんばらな髪を結いながら元親に話しかける。


「んなモン被ってたら溺れるぜ?」
「俺ぁ泳がねぇからいいんだよ」


何の為に海に来たんだと言いたげな政宗の視線も意に介さず、西海の鬼は輪刀を頭に刺さらせたまま満足気に自分の領土である四国の雄大な海を眺めていた。

長曾我部さんも結構アレな人だ。
それが成実の感想だった。


そもそも伊達軍一行が四国へやってきたのは元親に誘われてのことだった。
慰安旅行の行き先を吟味していた政宗の許へ、元親から一通の手紙が届いたのが先月のこと。
文面にはおきまりの挨拶をかっ飛ばして「今度遊びに来いよ。今なら団体30名以上3割引にしてやるぜ」とだけ書かれていた。


「遊びに来い、か…。小十郎、どう思う?」
「は。鰹、ですな」
「私、たたきが好物なんですよねぇ」
「Alight!決まり、だな」
「えぇ!!!即決?!」


そんな訳で四国行きが決定した。


「大体海だけなら松島辺りで十分だったんすよね…。何も鰹のためだけに四国くんだりまで来なくても…」
「まぁまぁしげくん。たまには戦以外で遠出ってのもいいじゃないですか」
「いいんですけどねー」


綱元の珍しい慰めの言葉も成実を和ませるものではない。
視界には青い海をバックに元親に跳び蹴りをかます政宗の姿があった。
あの元親を見ているとこれだけでは済みそうにない、どうにも嫌な予感がするのだが、それが杞憂であって欲しいと成実は願う。
だが嫌な予感ほど中るというのは、いつの時代でも当てはまることのようであった。


「西海の鬼さんよぉ、海来て泳がねぇなんて据え膳食わねぇimpo野郎と一緒だぜ?」
「政宗様!下ネタはご自重召されよ!」
「海は好きだがな。紫外線は浴びたくねぇのよ。つーか蹴るな!」
「着物のまま泳がれたらいかがです?」
「海で着衣泳は危険じゃないっすか?綱元さん」
「『西海の鬼』なのですから大丈夫でしょう」
「んな無茶苦茶な…。長曾我部さんが泳ぎたくないってんなら俺らだけで泳ぎましょうよ、藤次郎様。暑くなってきたし」
「それもそうだな。しかし何だ?急に暑さが増したような…」
「おおっ!そこに居るは独眼竜殿ではござらんか!」


砂浜に響く声に一同振り返れば、赤い鉢巻を靡かせ猛ダッシュで駆け寄ってくる人影が一つ。
政宗のライバル、真田幸村であった。


「あー…気温上昇の原因はアンタか…」
「ほう、奇遇よのう。独眼竜」
「うわっちゃ〜。何この組み合わせ」


幸村の後から甲斐の虎・武田信玄と忍の猿飛佐助もやってくる。


「アンタらもsummer vacationかい?」
「団体30名以上3割引ってのに惹かれてさ。うちの旦那、よく食べるから食費が嵩むんだよね〜」
「長曾我部さん、そんなに観光事業に力入れてどうするんすか?」
「滅騎をな、もっと改良してぇのよ」


滅騎を徳川軍の本多忠勝のように飛べる仕様にするのが元親の夢であった。
最終的には乗れるようにしたいらしい。
正に男のロマンである。


「ここで会うたのも何かの縁!独眼竜殿、勝負だ!」
「O-kay!いいぜ、かかってきな!」
「殿、刀はここに」
「Thanks、重綱。いくぞ、真田幸村ァ!!!」
「参る!伊達政宗ぇ!!!」


褌の上から鞘の下がったベルトを巻きつけた政宗は、六爪を抜刀すると幸村に斬り掛かった。
幸村も二槍を振り回して迎え撃つ。
剣圧で周囲の砂を吹き飛ばし、蒼紅の激闘は続いた。
雑兵たちはやんややんやと囃し立てている。


「…これ、慰安旅行でしたよね?」
「いいんじゃないですか?殿も楽しそうですし」


いつもと変わらない光景に、成実は遠い目になった。
四国くんだりまで来た意味が全くない。
確かに楽しそうではあるが、多少は心休まるときが欲しいと成実は切に願った。


「あいつが殿のライバルですか…」


重綱は政宗と壮絶な斬り合いを演じている幸村を見つめていた。
静かな声音とは裏腹に眼つきは険悪そのものである。
政宗にライバルと認められた男・真田幸村を見るのはこれが初めてであった。

殿命の重綱にとって、幸村は腹心である父親の次に気になる存在だ。
あの政宗が好敵手と認めた相手だからである。
政宗が「真田幸村だけは自分で討ち取りたい」と語っているのを聞いて以来、要注意人物として記憶されていた。


「真田殿は殿のお気に入りですから」
「ちょ、綱元さん!重坊を煽るようなこと言わないで下さいよ!」
「お前の腕じゃ真田にゃ及ばねぇな」
「安心しろ。真田幸村を殺る前にあんたを殺ってやるから」
「ガキが舐めた口利くじゃねぇか」
「だーっ!待った待った!親子喧嘩禁止!」


今にも極殺モードに入りそうな小十郎と重綱に、成実は必死の形相で仲裁に入る。
その隣では蒼紅の熾烈な戦いが続いていた。
足軽たちの応援も最高潮である。


「今日も平和ですねぇ」
「ふん、全員焼け焦げよ」
「おめぇ、他に言うことないのかよ?」
「儂が見ておるぞ!幸村ぁ!」
「はいっ!ぅお館さばぁ!!!」
「上等!Let's party!Ya-ha!」
「…あー、温泉とかでゆっくりしたい」


佐助の呟きは、眩いばかりの波へと消えた。


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少し前に半分ほど書いたものが出てきたので、完成させました。


(2009/05/06)

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