茫漠たるこの虚無を、埋める術などありはしない。
『Numb』
惜しい男を亡くした
と、悼むべきか
好敵手が消えてしまった
と、嘆くべきか
「…どっちでもねぇな」
調子を取るように煙管を煙草盆に叩き付けながら、政宗は憮然とした声で呟いた。
腹這いに寝そべり行儀悪く頬杖をついたその眉間には、心中を表すかのような深い皺が刻まれている。
真田幸村。
初めて会ったときから自分の獲物と決めていた。
欲しいものは手に入れずにはいられない性分ゆえ、幾度も幸村の元へ赴いては死合いを挑んだ。
刃を交えるたび湧き上がる歓喜と興奮。
今なお鮮明に甦るあの感覚。
倒す瞬間を求めているのに、いつまでも戦えればよいと子供染みたことを考えていた。
だが―
決着がつくことはなく
あの男に引導を渡したのは自分ではなく
もう戦うことができない、ただそれだけが
「ムカつく」
もう一度会いたい
甘い意味ではなく、この渦巻く想いを相手にぶつける為に
会って、もう一度会ったなら
「思いっ切り、ブン殴りてぇな」
(2008/07/06)
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