「勝負だ、真田幸村ァア!!」
「望むところ!いざ参る!伊達政宗ぇええええっ!!!」


ひたと睨み合えば音を立てて燃え上がりそうなほど熱く、視線が交錯する。
全身を駆け巡る高揚感が堪らない。

がっちりと絡め合った脚と脚。
引き倒そうと力を籠めれば骨が当たって地味に痛かった。


「It's show time!Ya-ha!!」
「うぉおおおおおおっ!!!押せ押せぇーあ!!」


それでも負けられないと互いに奮闘する。
二人がやっているのはそう、足相撲だ。

それは数刻前のこと。
得物の話に花が咲いたときのことだった。


「政宗殿は刀を六本もお持ちになられる変わった構えでしたな」
「まぁな。アレにはちょっとしたコツがあるんだ」
「そうなのですか!是非ともご教授いただきたい」
「Okey-dokey. こうやって持つんだよ」


長い指を器用に柄に絡め、政宗は軽々と六本の刀を構えてみせた。
室内で真剣を構えるのはCoolじゃないと思ったのか、鍛錬用の木刀(錘付き)で代用する。
おお!と幸村が感嘆した。


「某もやってようござるか?」
「できるモンならやってみな」


できないと思っているのか、余裕の笑みを浮かべて政宗が木刀を渡す。
見下す視線にぞくぞくしたが、武術に関しては自信があるだけにMといえどかちんときたらしい。
軽く口元を引き攣らせて、幸村は六爪を構える。
だが木刀は指の間から滑り落ちてしまった。


「な?コツがあるっていったろ」
「ぬ、ぬぬぬ…」


拾い上げて再度挑戦するもまた滑り落ちてしまう。
ただ掴む分には片手に三本持つなど容易いというのに、いざ構えるとなると難しい。
握力だけの問題ではないようだ。
指の股で掴めるようになってもそれで斬りかかるなど至難の業に思えた。


「アンタにゃ無理だって。ガキの頃から両手で得物持つのに慣らしてるからできるんだ」
「某とて二槍にございまするぞ!」
「アレとは全然持ち方が違うじゃねーか。ま、この俺に追い付こうなんざ10年早ぇんだよ」


そこまでいわれては幸村とて引き下がれない。
元々熱くなり易い性質ゆえ、すんなり諦めることなどできなかった。


「確かに六爪は某には無理なのかも知れぬ。しかし!このまま引き下がったのではお館様に顔向けできん!!政宗殿、某と勝負してくだされ!!」
「All right…いいぜ。かかってきな。だが普通に手合わせしたんじゃ面白くねぇ」


そういうと政宗は奥の間へと幸村を案内した。
絨毯が敷かれたそこにあるのはテーブルと椅子のセットである。


「男なら腕っ節で勝負、だろ?」


こうして二人の大人気ない勝負の火蓋は切って落とされた。
だがしかし。


「政宗様!いくら力が入ったからといって机を壊すとは何事ですか!」


エキサイトし過ぎた二人は力を籠める余り、テーブルを叩き壊してしまった。
高価なテーブルがただの木塊と化す。
小十郎に叱られて、幸村は項垂れ、政宗はそっぽを向いて聞いていなかった。
政宗の所為で小十郎のお説教が更に長くなったのはいうまでもない。

漸く説教が終わり、仕方なく庭で試合おうとすればそれも小十郎に止められてしまった。
小十郎曰く「お二人が試合えば城が吹き飛んでしまいます」、だ。
ついでに日も暮れ、夕餉の時刻となっていた。


「こうなったらアレっきゃねぇな」


苦肉の策で二人は足相撲をすることにしたのだ。
就寝前にこっそり行えば流石の小十郎も口は出せないと踏んだのだろう。
修学旅行中の学生並の考えであった。
だが政宗も幸村も本気なのだから手に負えない。


「さっさと降参した方が身のためだぜ!You understand?」
「何の!これしきで負けたりせぬ!」


こちらでも両者の力は拮抗し、勝負がつかなかった。
たとえお遊びの勝負であっても負けることは互いのプライドが許さない。
躍起になるあまり二人の夜着の裾は捲くれ上がり、襟元は乱れていた。


「政宗殿!はれんちですぞっ!」
「Ah?アンタもどっこいどっこいの恰好だろうが」


低く笑って足の甲に腿を摺り寄せてやる。
ただでさえ高い幸村の体温が更に上昇した。
劣情を刺激されたのか、心なし目が潤んでいる。


「Give upした方がいいんじゃねぇか?もう限界なんだろ?」
「卑怯ですぞ、こんな」
「それに反応してんのはどこのどいつだよ?」
「くっ…」


少しだけ幸村の力が緩んだ。
これを好機と政宗は膝に力を入れる。
だが腐っても真田幸村、簡単に引き倒されたりはしなかった。
膠着状態に飽きてきた政宗はある提案を持ちかけた。


「このままじゃ埒が明かねぇ。勝負の方法を変えるとしねぇか?」
「どのような方法にするので?」
「時間も時間だからな…」


絡めていた脚を跳ね上げ、政宗は幸村に襲い掛かった。
吐息が触れ合いそうな距離まで顔を近付け、秘め事を告げるように囁く。


「床勝負、と洒落込もうじゃねぇか」


幸村の顔は火でも噴きそうなほどに真っ赤になった。


「は、ははははれんちでござるぞ!」
「嫌ならいいんだぜ。試合放棄で俺の勝ち、ってことにさせてもらうから」
「そんなぁ〜…」
「夜は長ぇんだ。愉しくやろうぜ」


くつくつと咽喉の奥で笑う政宗の声はこの上なく楽しそうで。
唇を寄せれば上機嫌で受け入れた。

相手が焦れるまで我慢した甲斐があったというものだ。
手の上で踊る方も悪い気はしないのだろう。


「ではもう一勝負お相手願おう」
「上等。これからがpartyだ」


幸村は政宗の掌に、恭しく口付けるのだった。



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帯を解き、しっとりと汗ばんだ肌を撫ぜる。
縺れ込むように布団に雪崩れ込んだ二人は互いの肌を暴き合った。


「…っ…政宗殿…」
「焦んのはCoolじゃないぜ」


政宗が裾から手を差し入れ腰骨を撫で上げれば、幸村が夜着を剥がして首筋に舌を這わせる。
吐息が熱を帯びてくるのを感じながら、触れ合う肌の熱さに己を高ぶらせた。


「政宗殿っ…」
「もう我慢できないのか?随分早ぇGive upだな」


ゆるゆると内腿を撫でられ、幸村は堪らないとばかりに政宗の名を呼んだ。
焦らされるほどに下腹部は熱を擡げてくる。
じらしている政宗の瞳も熱を孕んで蕩けそうな光を帯びている。
その瞳に、どくりと血が滾るのを感じた。

遠慮がちに幸村が政宗の額に口付けを落とす。
それでは足りないとばかりに、政宗は自分より体温の高い唇を舐った。
舌先で唇を割り、呼気をも貪らんと深く深く舌を絡める。

篭絡されたら負けだ。頭では分かっている。
だが限界に達しそうな昂りをこのままにしておけるほど、幸村は色事に手馴れていなかった。


「ぅおおおおおっ!!!!某もう我慢の限界にござる!政宗殿、ご覚悟召されよ!!」
「Shit!この暴れ犬が…!」


興奮を隠さぬまま覆い被さると、幸村は政宗の下帯を取り払った。
政宗は悪態を吐きながらもされるがままである。


「アンタって、はれんちはれんち叫ぶ割には欲望に忠実だよな」
「うぅ…返す言葉もござらん…」
「ま、そのほうがいいんじゃねぇの?」


満更でもないのか、引き締まった背に手を回す。
抱き寄せて舌を吸い上げると、幸村も必死に舌を絡めてきた。
唾液が糸を引いて顎を伝う。
弾む吐息にも構わず、唇を貪った。

そろそろと秘所へ伸ばされた指の感触に顔を顰めながらも、政宗は爪先で幸村自身に悪戯する。
涙目で見上げてくる幸村がたまらなく愉快だ。


「だらだら涎垂らしやがって。我慢の足らねぇヤローだ」
「そういう政宗殿こそお辛そうだが?」
「Ha!アンタに心配される程じゃねぇよ」


軽口ついでに耳に噛み付いてやる。
幸村はそれを是と取ると、押し入った指で性急に内部を解してから静かに屹立を突き立てた。


「くっ…」


圧迫される感覚に息が詰る。
武田の忍辺りが見つけたら仰天するくらいに爪痕を残してやろうかとも思ったが、相手にしがみ付くことは政宗の矜持が許さない。


「うっ…政宗殿っ…」


ゆっくりと腰を進めた幸村は自身を納め、政宗を見遣る。
情欲の滲んだ瞳に頭の芯がくらくらした。
薄く笑みを浮かべた唇に喰らい付き、政宗の体を揺さぶる。


「はっ…ああ…」
「っ……いいぜ、もっと来いよ」


引き攣るような痛みと快感に目を細め、擦り寄る首筋に歯を立てた。
低い呻き声と共に質量を増す幸村に咽喉を鳴らして笑う。


「アンタも好き者だなぁ?こんなにおっ勃てやがってよぉ」
「それはそちらの方であろう?某の腹に当たっておりますぞ」


限界が近いのはお互い様だ。
視線を絡め、下肢を打ちつけ合う。

瞼の裏を白く染めて、二人は絶頂に達した。






「先にがっついてきたのはアンタだ。アンタの負けだな」
「勝手に勝負の内容を変更なさったのは政宗殿ではござらんか。政宗殿の負けでござろう?」
「Ah?それに関しちゃアンタも承諾したじゃねぇか。何ならもう一勝負いくか?」
「望むところ!手加減致しませぬぞ」
「上等…かかって来な」

「お二人とも、いい加減にお休みになって下さい」


こうして奥州の夜は更けてゆくのだった。


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