「そのように飛び出した目では戦場で敵につかまれてしまいましょう」
「ならば小十郎。お前が切り取ってくれ」


真っ直ぐに見つめ返す小さな主の目は澄み渡っていた。




   『傷跡』




懐紙を口に銜えさせ、小十郎は政宗を畳の上に押さえつけた。
怯えた様子はない。
それが小十郎には辛かった。


疱瘡によって政宗の右目は失われ、眼球が飛び出してしまった。
それにより母の愛は更に弟である竺丸へと注がれるようになる。
失明だけが理由ではないにせよ、それは政宗の心に深い傷を作った。

これがただの子どもであったなら、哀れだと思われるだけであっただろう。
だが政宗は藤原氏の血を引く伊達の跡取りだ。
このようなことで立ち止まることは許されない。


「政宗様、参ります」


短刀が、鈍く月の光を弾いた。









一筋の涙を流すこともなく、政宗は気を失いそうになるほどの痛みに耐えた。
噛み締めた唇が白くなっている。


「…よくお耐えになられた。それでこそ我が殿です」


傷口を消毒し、真新しい白布で覆った。
残った左目は不敵な光を湛えている。
その眼光の強さが頼もしくもあり、悲しくもあった。


せめて、この傷の一部でも自分が背負えたなら
そう願わずにはいられない


「こじゅっ…!!」


片方しかない目を見開き、政宗が叫んだ。
切り取ったばかりの目玉を小十郎が飲み込んだのだ。
吐き出させようと飛びつくがもう遅い。


「何をするのだ!馬鹿者!!」


母親に罵られたときにも顔色一つ変えなかったというのに、真っ青になって震えている。
小十郎は政宗の細い肩にそっと手をおいた。


「非礼をお許し下さい。これは小十郎が望んだことです。お気になされてはなりません」
「お主がそこまでする必要はないのだぞ。これは俺の業だ」
「貴方の業ではありません。このようなことにお心を砕かれずともよいのです。もっと強く、大きくおなりなさい」


天を翔る竜のように
その傍にあることだけが、自分の望みなのだから


俯いて唇を噛み締めていた政宗が小さな手を伸ばしてきた。
小十郎の頬に爪を立てる。
左頬に走る痛みを気にするでもなく、小十郎は政宗を静かに見つめていた。

「なぁ、小十郎。俺は全てを背負える武士になりたいのだ」


ぎりぎりと喰い込ませた爪を口へと運ぶ。
神聖な儀式のように丁寧に血を舐め取った。


「誰よりも強くなる」


一点の曇りもないその表情に、小十郎は深く頭を下げた。


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フライング小十郎。
あの頬の傷は政宗がつけたものだったらよいな、と思って書きました。


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