踊る阿呆に見る阿呆
同じアホなら踊らな損ソン



   『Just Do It!』



真田幸村が猿飛佐助から伊達軍の動向に関する報告を受けたのは、空の青が眩いある日のことであった。


「珍妙な訓練とな?」
「そ。片倉の旦那が指揮してんだけど、なんつーか陣形にしてはおかしいっつーか」
「騎馬や鉄砲を用いているわけでもないのか?」
「武器は一切持ってない。等間隔に並んで手をこーんな風に振ったり突き出したり」


身振りで再現する佐助の奇妙な動きに、槍を振り回していた腕を止める。
体術にしてもおかしな動きだった。


「独眼竜殿のことだ。南蛮渡来の武術なのやも知れん」
「にしちゃあ殺気がなかったんだよねー」


真田主従は揃って首を捻るが、一体何の訓練なのか皆目見当がつかない。


「そうだ!某も見に行くとしよう!」
「はぁ?旦那も?旦那ってば全然気配が忍べないじゃない」
「なに、遠くから覗き見るだけだ。気取られることもあるまい」
「そう上手くいくかねぇ…」


佐助の心配などお構いなしに、幸村は信玄に許可を取ると奥州へと出発した。





「あれが例の鍛錬か」
「そ、おかしいでしょ?」
「確かに…」


木の上から見渡せば、伊達軍の足軽一同が規則正しく並んでいた。
陣頭で指揮を執っているのは片倉小十郎だ。
小十郎の怒声が飛ぶ中、足軽たちは足と手を動かしている。


「もう少し近付いてみぬか?」
「これ以上はヤバいっしょ。独眼竜に見つかっちまいますぜ、旦那」
「大丈夫だ!」
「いや大丈夫じゃないって!それに…」


佐助の忠告など聞くはずもなく、幸村は木を降りて演習場近くの茂みへと移動した。
仕方なく佐助も後を追う。
幸村は最大限気配を殺すが、既に手遅れであった。


「覗き見たぁイイ趣味してんなァ、真田幸村ァ」
「伊達殿っ!」
「うわっちゃ〜気配してたもんね〜」


お約束のように伊達政宗が現れる。
まだ抜刀していないところを見ると、やはり軍事的な演習ではないのだろうか。
逃げる準備だけはしておきつつ、佐助は政宗の様子を窺う。

だが肝心の主は警戒心がなさ過ぎた。


「伊達殿、これは一体何の鍛錬でござるか?」
「単刀直入に聞き過ぎだよ、旦那ぁ!」


幸村には戦場での勘以外備わっていないのだろうか。
胃薬持ってきてすごくよく効くヤツ!と叫びたいのを堪える佐助の目には光るものがあった。
正直しんどい転職したい。
忍のくせに忍んでいない佐助も大概ではあるが。


「アンタ、一応敵国の人間だって自覚ないのか?」


政宗は嘆息するが、珍しくすんなりと教えてくれた。


「いつきんとこの村でやる祭りで出し物をすることになってな。Danceを練習させてたんだ」
「だんす、とな?」
「踊りのことだ。Coolだろ?」
「おおっ!よく分からんがすごいな、独眼竜殿っ!」
「たりめーよ!独眼流は伊達じゃねぇ、You see?」


よく分かってないのに褒めるのはいかがなものだろう。
クールさがさっぱり理解出来ない佐助は胸中で疑問に思ったが、言葉にして政宗の機嫌を損ねるのは得策ではないと黙っておくことにした。
敵総大将にバレた以上、極力穏便に帰るしかない。

幸村は足軽達の統率のとれた動きに感動したのか、歓声を上げながら踊りに見入っていた。
小十郎の指揮の下、伊達軍足軽隊は軽快なダンスを披露している。

結局、真田主従は通し稽古を最後まで見学することとなった。





「土産まで頂き、誠にかたじけない」
「いつきが持って来たのと小十郎が育てた野菜だ。美味いぜ?」
「ありがたく頂戴する。次は戦場にて相見えようぞ!」
「Ha!楽しみにしといてやるよ」
「いやぁ〜色々とすんませんねぇ〜。それじゃあここらで失礼しますわ〜」


冷や汗だらだらモノだった今回の偵察(もとい見学)もどうにか終わり、佐助はほっと胸を撫で下ろした。
独眼竜はもとより、竜の右目あたりに極殺モードでたたっ斬られてもおかしくはないのだ。
ずっと生きた心地のしなかった佐助であった。

そんな佐助の肩を政宗が優しく叩く。
労いの気持ちを存分に込めて、いるはずなどなかった。


「豊作祝いの祭りの前だ、今回だけは見逃してやる。…が、次はねぇぞ?」
「あははははー。分かってるよ、竜の旦那。だから肩握り締めるのやめてー!俺様繊細なの!」
「忍にすることは何でもアリ、なんだろ?」
「人の台詞パクらないでよ!しかも都合よく変えないで!」


これも仕事のうちだというのなら、早く戦のない世が来て欲しい。
信玄による一刻も早い天下統一を心から望む、佐助であった。


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足軽ダンスが印象的なアニメのOPネタです。
アニメでは幸村が政宗のことを「伊達殿」と呼んでいたので合わせてみました。

(2009/05/11)

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