その瞳の奥にあるものを求めて、手を伸ばし続ける
触れてはならないものだとしても
求めてやまない自分を愚かと笑いながら
『焔、焦がれて』
「今宵の月は格別に美しゅうござるな」
「だろ?月見にゃちぃと寒い季節だが、冬のが月も星もよく見えんだよ」
ほれ、と酒を勧めればかたじけない、と応じる杯。
注しつ注されつしながらもうどのくらい飲み干しただろうか。
手を翳している火鉢が不要なほど体が温まっていた。
月を肴に一杯やろうと誘ったのは政宗の方だった。
趣味人で知られる政宗はこの月で短歌でも詠むつもりだったらしい。
幸村はあまり風流に通じている方ではなかったが、月見酒なら話は別と上田の焼酎片手にやって来たのだった。
こうして静かに向き合うのは初めてである。
常にはない雰囲気に落ち着かない気分になりながらも、酒を酌み交わしながらゆったりと流れる時間を楽しんでいた。
ちらと政宗を見遣れば、左しかない眼を伏せるようにして酒の味を楽しんでいる。
日頃あまり見ることのない穏やかな表情に胸が温かくなるのを感じた。
否、そうではない
己が求めているのはこんなものではなかった筈だ
楽しくない訳ではない。
だが物足りなかった。
空になった杯に酒を満たしてくれる政宗の手を見つめる。
荒々しい太刀筋を思い出し、思わず掴んでしまった。
「Oops、どうした?」
「いや…」
詫びようと顔を上げれば視線がぶつかった。
心の蔵が高鳴る。
今は静かな色を湛えているが、切れ長の眼は紛れもなく戦場で対峙したときのものだった。
ああ、これだ
この身を焦がさんばかりの焔を己は求めているのだ
掴んだままの手を引き寄せて、当惑顔の政宗に覆い被さった。
つ、と目元をなぞれば政宗は不敵な笑みを零す。
「どうした、酔っちまったか?」
挑発的な態度の政宗に「そうかも知れぬ」と答えた。
己が身に燻る想いは恋情ほどの甘美さを持ち合わせていない。
それでもこの想いに名をつけるのならば、やはり恋なのだろうか。
「酔うているのでござろうな」
この隻眼の竜に。
この焔に。
優しさとも温かさとも違う想いが体を蝕む。
じりじりと焼き付く理性が鳴らす警鐘は耳に入らなかった。
蒼は紅より熱く、この身を焦がす。
腕の中で 月が 嗤った。
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