春が来る
ゆるやかに、沸点を目指して



   『ダンデライオン』



「行くぜェア!真田幸村ァ!!!」
「参るっ!伊達政宗ぇええええっ!!!」


咆哮が戦場を駆け抜ける。
雷を孕んだ白刃が、炎を纏った穂先が、寒気を切り裂いて一直線にぶつかり合った。
その衝撃は砂塵を巻き上げ二人を包み込む。


「うぉおぁあああああああっ!!!」
「Let's show time!Ya-ha!」


力が拮抗すると見るや、両者得物を引き寄せ更なる攻勢に出た。
視界が晴れるのも待たず、二合、三合と斬撃を繰り出してゆく。
相手の出方を伺う余裕など二人にはなかった。

斬りつけ、突き、薙ぐ。それだけの動作が互いを高めあう。
ただただ相手に己が技量をぶつけてゆく。
全身全霊を籠めた一撃が交わるたび、歓喜が脊髄を走り抜けた。
煮え滾るような衝動だけが全身を支配する。


「Ha!疲れてきやがったのか?動きが鈍ってるぜ?真田幸村」
「何の!まだまだぁああっ!!!」


鍔迫り合いの距離から先に仕掛けたのは政宗だった。
政宗の挑発に応じて幸村が突進してくるのを身を捩って捌くと、槍のような長さのある武器にとって隙になりやすい手元を襲う。


「随分と分かりやすい仕掛けでござるな!それでは俺は倒せん!!!」
「たりめーだ!この程度でやられるようなヤツ、俺のrivalとは呼べねーよ!!!」


穂先を返して政宗の胴を狙えば、弾かれ今度は足元を払われる。
それをかわして蹴りを囮に一撃を放った。
剣術と体術の応酬。
軽口を叩き合いながらも、動作は一分の遅滞も見せていない。


「いいねいいねェ!戦の華だねぇ!」
「そなたと出会えたこと、感謝する!」


この、抑えきれぬ感情を何と呼ぼう。
純然たる興奮に快感を覚える。
政宗の奇を衒った剣捌きも、幸村の大振りな槍捌きも、相手の喉笛だけを求めて軌跡を描いた。

白刃は求め合うように絡み合い、離れてはまた絡み合う。
正に舞うが如く。
荒々しくも華麗な舞は、留まるところを知らず加速していった。
呼気が荒くなるごとに、双方の笑みは深くなってゆく。

このまま死合い続けていたい。
そう思うほどにこの血腥い逢瀬は二人にとって最高の快楽であった。


だが、終わりの刻は訪れる。
日没を迎え、両軍引き鉦と共に撤収を開始したようだ。
まだまだ戦い足りないというのに。
そう思うもののこのまま続けるわけにもいかず、二人も得物を収めた。
二人とも殴られ斬られしたために血や泥でぼろぼろである。


「いい恰好だなぁ、真田幸村」


自分も似たり寄ったりの恰好ではあるが、羽織の前が開いている分怪我の目立つ幸村を揶揄して政宗は片頬を上げた。
手には殴りつけたときに偶然外れた幸村の赤い鉢巻が握られている。
差し出されたそれをやや憮然としながら奪い取って、そのまま踵を返して立ち去ろうとした。
しかし、鉢巻に手を絡めたところで幸村の動きは止まってしまった。

持ち主の手に戻る寸前、政宗は本日の戦利品を軽く引っ張ると、その先に唇を寄せたのだ。
血と泥で更に深く赤く染まったそれに政宗のやや血色の悪い唇が触れる様を、幸村は瞠目して見つめている。


「ど、くがんりゅうどの…」
「今度は、アンタの首を貰い受ける」


血が、また沸き立つのを感じた。
昂然と微笑む政宗から目が離せない。
咽喉がひりつくような渇きは、この男以外に潤せないのだろう。
瞬きも忘れて、幸村は政宗に手を伸ばした。

襟元を乱暴に引き寄せ、白い衣服に覆われた首筋を無理矢理露わにすると、そのまま歯を立てた。
興奮そのままに噛み付き、証しを残す。


「この噛み跡が消えるまでに、貴殿を倒しに参ろう」


不敵な若虎の笑みは、竜を熱く、滾らせた。


「Ha!楽しみに待っててやるよ」


熱烈な挑戦状に指を這わせ、政宗の笑みも更に深くなる。


次に死合うは噎せ返るような花の香りの中で。
花よりもなお馨しい血潮を以って彩を添えよう。
再戦の日は、そう遠くない。



Nec possum tecum vivere, nec sine te.

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奏人さんとお題を出し合って書かせていただきました。
因みにお題は
 ・奏人さん→「ダンデライオン」
 ・雨城→「あたためてあげる」
でした。
奏人さん、ありがとうございました。
(2007/03/02)

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