Y−パラメーター、S−パラメーターを LTspice で利用する方法を試してみました。
● デュアルゲート MOS-FET は、SPICE モデルが現実とうまく合致せず、皆様苦労していらっしゃるよう
です。 今回は BF998 を例にとりました。 これはやや旧世代 (12V 電源) の VHF, UHF 帯域用 dual gate
MOSFET です。
BF998 データシート
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BF998
SPICE モデル
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まずは Vds 8V, Id 10mA 動作時のY−パラメーターをシミュレーション測定しま
した。 BF998-yp1.asc, *.plt を参照して下さい。 これらのファイルは YpSp.zip
中にあります。 以下同様です。
.meas の結果を整理すると: (BF998-meas.txt 参照)
freq Y11re Y11im |Y12| deg |Y21| deg Y22re Y22im
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
0.4GHz 0.000747968 0.0058355
3.23559e-005 -99.0796 0.0262803 -21.0246 0.000226965 0.00170022
0.6GHz 0.00173602 0.00880063 3.5526e-005 -102.577 0.026566
-31.2998 0.000357033 0.00249077
0.8GHz 0.00324316 0.011813 2.41398e-005 -103.834 0.027124
-41.5254 0.000490956 0.00323987
● いっぽう、データシートからYパラメーターの値を読み取りました。(datasheet-yp.txt 参照。 MAXIMA
を使い、グラフ画像の Y 座標から Y パラメーターの値を計算。)
freq gis bis (mS) |Yrs| (uS) deg |Yfs| (mS) deg gos bos (mS)
――――――――――――――――――――――――――――――――――
0.4GHz 0.489 5.10 64.7 -89.4 15.7 -25.1 0.122 2.23
0.6GHz 1.09 7.55 98.6 -89.4 23.7 -25.1 0.185 3.30
0.8GHz 1.91 10.0 134 -81.0 31.8 -25.4 0.279 4.31
前項の .meas で得た結果と比較すると、まあ傾向はなんとか合っていますね。 数値は
2倍以上も違うこともある。 角度はおおざっぱな目分量程度。 しかし支配的と思わ
れる Y11im, Y21 (+arg), Y22im だけを見ると、違いは意外と少ないようです。
● データシートから読み取った 0.8GHz でのY−パラメーター値を基に、それを SPICE
の機能モデルで表現してシミュレーション測定してみます。 表示周波数範囲が
狭いことにご注意下さい。(yp2.asc 参照)
.meas の結果を整理します。
freq Y11re Y11im |Y12| deg |Y21| deg Y22re Y22im
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
0.8G 0.00191 0.01 0.000134042 -81.4103° 0.0318121 -25.4633°
0.000279 0.00431
Y12 の位相角の周波数変化の傾向が逆で、Y11re, Y22re の周波数変化がありま
せんが、狭い周波数範囲を見るならなんとか合っています。
● 確認のため、入出力に 50Ω整合回路をつけて双方を比較します。
入力は整合させ、出力は最大振幅に調整しました。 利得は機能モデルの方が大きく、
なんと 4.5dB の差があります。
(amp1.asc, amp2.asc 参照)
入力リアクタンス成分のみを整合させた場合は利得差が少し縮まって 3.95dB になりま
した。 まあ似ているといえば似ていますかね。(amp3.asc)
この利得差は、SPICE モデルをシミュレーション測定した場合の 0.8GHz |Y21| が 27.1mS で
あるのに対し、データシートから読み取った |Y21| は 31.8mS であるのが主原因でしょう。
NXP 社の AGC 特性測定回路の条件では GS = 3.3mS, GL =
1mS
ですが、上記の例は入出力
いずれもコンダクタンス少なめの条件になっています。 もしかすると不安定気味かも知れ
ません。 最初に SPICE モデルをシミュレーション測定したら、やたらに利得が低いので、
ついつい利得を高める修正をしてしまいました。
● NXP 社の同じ用途の新製品として 5V 電源動作の BF1211 があり、S−パラメーター表が公開されて
います。 SPICE の機能モデルで表すにはY−パラメーターのほうが便利なので、パラメーターを変換し
ます。 YpSp.zip 中の BF1211-spyp.mc.txt を使いました。
これは MAXIMA のバッチファイル (プログラム) です。 結果は:
MHz Y11re Y11im |Y12| deg |Y21| deg Y22re Y22im
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
50 1.289086E-4 6.662382E-4 4.850142E-6 -86.5689 0.02964
-1.53991 6.663319E-5 2.675913E-4
100 1.481477E-4 0.001334 9.618298E-6 -88.3251 0.02965
-3.03714 6.862763E-5 5.342708E-4
200 2.13625E-4 0.002651 1.5183E-5 -77.872 0.02973
-6.14604 7.03882E-5 0.00108
400 5.424442E-4 0.005324 3.612436E-5 -85.4133 0.02999
-12.5633 1.337016E-4 0.002138
800 0.002144 0.01094 4.746835E-5 -71.5947 0.03203
-26.4237 3.35046E-4 0.004329
後日、BF1211 をさらに高利得化した BF1212 があることに気付きま
した。 http://www.nxp.com/models/spicespar/BF1212.html から
たどった BF1212 の SPICE モデルが BF1211 と同じだったので、ノイズ特性はともかくS−パラメーターは同じ
なんだろうと早合点してしまいました。
● 機能モデルを少し改良し、前項の 800MHz でのY−パラメーターを使ってシミュレーション測定
しました。(yp3.asc)
C4 と同容量のコンデンサーを C1 と並列に接続すべき、とか R4 の電流が V2 を
流れないのはおかしい、とか問題点はありますが、Y12 が小さな FET を
考えるなら、大まかには表現できていると思います。
計算をサボっているので Y12, Y21 の位相角は手動で調整します。
(1) R4 式の係数を調整して Y12 の位相を合わせる。|Y12| が変わってしまうので C4= 式の係数を調整する。
(2) f21 を変更して Y21 の位相を合わせる。|Y21| が変わってしまうので、g21= 式の係数を調整する。
.meas の結果を整理しました。 とても良く合っています。 もちろん狭い周波数範囲でしか通用しませんが。
y11re = 0.002144, y11im = 0.01094
|y12| = 4.7441e-005, arg = -71.5403°
|y21| = 0.0319822, arg = -26.4225°
y22re = 0.000335046, y22im = 0.004374
BF1211 のデータシートには Y パラメーターのグラフも載っています。 ざっと
目分量で読み取りました。 ほぼ一致しています。
Vds = 5V, Vg2 = 4V, Id = 15mA, freq = 800MHz
Y11re = 2.1mS, Y11im = 11mS
|Y12| = 47uS, arg = -70deg
|y21| = 32mS, arg = -25deg
Y22re = 0.32mS, Y22im = 4.1mS
● これを元に 50Ω入出力整合回路をつけた増幅器に仕立てます。 データシートの PG 測定値には
f = 800MHz, GS = 3.3mS, BS = BS
(opt), GL = 1mS, BL = BL (opt)
という断り書きがあるので、あらかじめ整合回路だけを取り上げて動作確認をしておきま
した。(Draft1.asc, Draft2.asc 参照) 増幅器回路 (amp4.asc) を次に示します。
整合周波数がやや合わなかったので、L1=10.21n-0.01n, L2=15.08n-0.26n で簡便に微調整してい
ます。 これは Y12 を無視していたからで、実効 Ci, Co を計算し直し、Draft1, Draft2 の
段階に戻って定数を求めたほうが正確です。
● AGC 特性はどのように表現したらいいでしょうか。 どうせ整流して AGC 電圧を作るの
ですから、位相については無関心でいいでしょう。 BF1211 はとても素直な AGC 特性を持ってい
ます。 これを機能モデルで表しました。(agc.asc 参照)
V(1) が AGC 電圧で、B1 はこれを利得係数に変換します。 AGC 電圧と利得係数の関係は
おおむね指数的なので exp() を使います。 利得の飽和は atan() で表現しま
した。 V2 が信号源、B2 が増幅器 (減衰器) です。
BF998 のように単純でない AGC 特性を持ったデバイスなら、B1 式の atan() を望みの関数で
置き換えればいいでしょう。
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