第七十回:誕生日と私


6 月 24 日が近づいてきた。
皆様ご存知の通り、聖誕祭である。

街はお祭りムード一色。信者であろうとなかろうと、老若男女が盛り上がっている。 この日がカップルのための日だと勘違いしている若者も少なくないらしい。 店も商魂たくましくセール中。また、各地では記念行事も行われているようだ。

我々の間でも記念セッションが予定されている。演奏されるレパートリーはもちろん、 聖誕祭の主役、1944 年 6 月 24 日に生を享けた稀代のギタリスト、生きる伝説、 ジェフ・ベックその人の曲である。

さて、このセッション、ジェフ・ベック ML (というメーリングリストが 在るのです)主催で今までに数回行われてきたのですが、セッションではなく 「ライブオフ」という名称なのですね。メンツをきっちり決めて、 ちゃんと練習もして本番に臨むという、いわば「ミニ・ライブ」なわけです。 対して私は、セッションの初顔合わせならではの緊張感や偶発性に楽しみを見出す、 というと聞こえはいいんですが、要は事前の練習をしないだけ、ええい黙らっしゃい、 なワケでして、若干方向性の違いを感じていたのですね。

今回、主催者の一人である T 氏から「たまにはどうですか」というありがたい お誘いがあり、そうだなぁ、みんなの顔も見たいしなぁ、それよりなによりオレ、 まずは演奏という行為に飢えてるしなぁ、と思って事前打ち合わせ ML に参加してみたのですよ。

かなり話は進んでいて、当日の進行表、なんてものが流れている。拝見すると、

15:00 〜 18:00 リハ
18:00 〜 21:00 本番

…。リハですよ。リハ。さらにおれは子連れ参加ときているから、 あまり遅い時間まではいられない。とすると、スタジオにいられるのは リハの時間だけだ。その時間に「あ、おれその曲知ってるっす。叩かせて叩かせて えへえへえへ」とやるわけにもいかなそうだ。

残念ながら、参加は見合わすしかなさそうだ。

で、一つ提案をしてみた。このやり方を批判するつもりは全然ないし、 今回はこのまま開催して頂くとして、また別の機会にはもうちょっと気軽な セッションというのもやってみませんか、と。すなわち、

  1. まず、ML で候補曲を流す。まだこの時点でメンツを想定する必要はなく、 「おれ、The Pump 演りてえ」というレベルで良い。
  2. 挙がった候補曲に対して、各パート演奏者が「あたし、El Becko でピアノ」 「おれ、Space Boogie でドラム」「僕 People get ready でヴォーカル」という風に 名乗りを上げていく。ところで、そんなヤツばっかりいたら、それはスゴい セッションになりそうである。
  3. 最低構成メンツが揃った曲が「採用曲」となる。最低構成メンツの面々は、 取り敢えず構成ぐらいはさらっておく。
  4. 当日、「あ、おれその曲知ってるっす」というヤツが現れたら、元々 演る予定だった人間と話し合うなり殴り合うなりして、どちらが演奏するか決める。 あるいはメンツを入れ替えて複数回同じ曲を演ってもよい。
というものだ。しかしこれ、今冷静に見直してみると結局、 「セッションなんて演ってナンボのモンじゃい」 「見てるだけなんてやってられっか」「良いセッション即ちおれが演奏できる セッション」「おれに叩かせろおれがおれがおれが」という、 空前絶後のエゴ丸出しですな。とほほほ。深く反省。

まぁロックのセッションってのは、ちょうど良い準備具合はどこなのか、という バランスのとり方が難しいんだよな。例えばジャズのセッションで、スタンダードでも 演りましょーかなんて時は、ほとんど事前の打ち合わせなんていらない。誰かが 「んぢゃグリーンドルフィン」って言ったら、その時点で楽器持ってるヤツが パラパラと目の前のセンイチめくって、ピアノがテキトーにイントロ弾き始めて、 って感じだが、ロックには「構成」や「リフ」といった決まり事が比較的多い。 全く無視はできないが、完コピするのもなぁ。じゃ、間をどの辺で取るのか、 という問題。

そのバランスの取り方が似通った連中同士でやるセッションは演りやすい。 が、似通っていないところに乗り込んで行った時の新鮮さ、ひりひりした感じは 絶対に忘れてはいけないとも思う。だから今回も、本当は参加したかったな。 ま、また機会はあるだろう。

そんなわけで、クリスマス同様静かな 6 月 24 日を過ごすことになりそうだが (どうせクリスマスも静かだよほっとけ)、ま、それはそれでいいのだ。 なぜなら、最近はどちらかというと 6 月 18 日の方が大事だからだ。

そう。それはポール・マッカートニーの誕生日である。やはりロックバンド至上、 最も偉大なバンドはビートルズなのだ。そして、ビートルズ四人の中で一番の 音楽的才能を持ち、実質上の核であったポールの誕生日こそ、盛大に祝うべき なのだ。

なんてことは全っ然思ってなくて。たまたま この人の誕生日と一緒だってだけなんだけどね。

そんなわけで、もうすぐ一年、なのです。


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