第五十八回:ロックドラムと私


高校生の頃、「これは何という人だ」と意識して聞いたドラマーというと、 例えば、高橋ユキヒロ、ジェフ・ポーカロ、イアン・ペイス、コージー・パウエル、 ニール・パート、なんて辺りが思い浮かぶ。 みんな、ロック・ドラマーだ。 つまり私のドラムの原点は、残念ながらロックにあると考えざるを得ない。 実際周りの人間の、自分に対する認識は、こりゃまた残念ながら 「ロック・ドラマー」であろうと思う。 自分の演奏に関して感想を頂くと、大抵「うるさい」という答えが返ってくることも その証ではなかろうか。とほほほ。

その私が、「ロックドラムの可能性」というものに関して、 最近、非常に消極的になっている。

ロックなんてジャズに比べりゃチョロいチョロい、とか、俺様はロックを 極めた俺がロックだ最早俺の知らないロックは無い、とか、 そういうことを言いたいのではない。 しかし、その、なんだ、こう、燃えないのですね。めらめらと。 ロックというフォーマットの中で、次に自分が手に入れるべき技術は何か、 それが無いわけでは決してないのだけれど、漠然と手を出しそびれているという 感じか。

いや、そうではなくて、単純に首都高バトルにモティヴェーションをじゅるじゅると 吸い取られているだけではないかという話もあるが、取り敢えずそれはさておき、

あの頃の燃えるような情熱を取り戻すべく、刺激を与えてみることにした。

ロック魂回復処方箋その一はディープ・パープルの "ライブ・イン・ジャパン" で ある。

高校時代、今までも何度か触れた通り、一番多く演奏したのはハードロックだった。 その中でも、ディープ・パープルはよくコピーしたバンドの一つ。 私がエレキギターを手にしたのも、友人 K 君の弾くハイウェイ・スターが 大きなきっかけの一つだったし、リッチー・ブラックモアはアイドルの一人だった。 あの「たらららたららら」という有名な速弾きギターソロが自分で出来たときは、 俺は天才だ、もうギタリストになるしかない、近い将来、ジェフ・ベック、 ジミー・ペイジと共に「新・三大ギタリスト」とか 言われちゃうに違いない、と勘違いしたものであった。

蒸し暑い通勤電車の中で CD Walkman のスイッチを入れると、ぴー「LOW BATT」… ぷしゅー(←脱力している音)…そうかしばらく使ってなかったからなぁ… というわけで気を取り直して電池を入れ替え再挑戦。 をを、ジョン・ロードのハモンドが流れてくる。 一曲目はもちろんハイウェイ・スターだ。 手が動いてしょうがない、という感じのイアン・ペイスのドラミングは 疾走感満点。ああ、このフレーズ、コピーしたなあ。

今聴いてもかっこいいし上手いと思う。なんだけど、「よっしゃコピーしたる」とか 「そうだっ俺もやるぜ、待ってろイアン・ペイス!」なんて気にならないのだ。 穏やかに懐かしい。「ぐぉぉぉぉかっっっっちょえぇぇぇぇ〜!!!」 というより「いやいや。良いですな。ほっほっほ」という長屋のご隠居みたいな 状態だ。いかん。これではいかん。

というわけで、ロック魂回復処方箋その二はジノ・ヴァネリの "ナイトウォーカー" である。

ざっくりとジャンル分けをするならば、AOR のアルバムである。 そんなものでロック魂が回復するのか?いやいや馬鹿にしてはいけない。 このアルバム、若き日のヴィニー・カリウタがドラマーとして参加しているのだ。 二曲目、"シーク・アンド・ユー・ウィル・ファインド" での衝撃は今も 忘れない。歌物のバックでこんなに叩いていいのか!と私に思い込ませてしまった、 非常に罪深いアルバムである。今私と一緒にバンドをやっていて、りおのドラムは うるせえなぁ、とお思いの方。悪いのはジノ・ヴァネリです。私ではありません。

で、聴いてみると、やっぱりすごい。派手でいて、洒落ている。 タテのセンがきっちりと合っていて荒い感じがない。しかし勢いがあり、凄みがある。 パターンにも「手垢にまみれた」感じがない。 自分のバンドでオリジナル曲を作る際、、 どんなドラムを入れるかイチから考えて演奏したとき、 やはりこのレベルには及ばないだろう。いやまぁ世界のヴィニー・カリウタと 自分を比べるというのは思い上がりも甚だしいのだけれど、 志だけは高く持とうという心意気に免じて勘弁して欲しい。え、だめ?

これは、ちょっと効いた。練習しなきゃ駄目じゃんという気になった。 でも決定打ではないな。

先日、11 月 12 日の日曜日、 私の所属するバンド The Pulse が一年ぶりにライブを演った。 この時、タイバンのドラマーとして友人の K 氏が参加していた。 この K 氏、私の友達アマチュアドラマーの中で五本の指に入る人だ。 地に足のついたどっしりとしたビート感や、確実なテクニック、 面で押してくるような音圧感と音色が素晴らしい。

私は時々、架空のバンドを組んでみることがある。友人たちを想像しながら、 ちょっとプログレっぽいバンドやるならギターはコイツでベースはアイツで、 ドラムはもちろん俺、とか、実現性は非常にゼロに近いけれどゼロじゃない妄想を 膨らませて時間をつぶしたりするわけ。

で、当然、どんなバンドを組むときでも、ドラムはやっぱり俺しかいないぜ、と なってほしいわけです。それが目標。ところが現時点では、 残念ながらそうならないバンドもある。 例えば、ハードロックバンドなら K 氏かなぁ、ギターは俺、というような。 K 氏はそういうニクい人なのである。 ところで、「それってあんたがハードロックバンドでギター 弾きたいだけじゃないの?」というツッコミは却下します。

そういう、上手い人のドラムを生で聴いて、 「やるなっ!」とか「負けるかっ!」なんていう悔しさや競争心を感じたり、 あるいは自分がライブという状況下、人に見られながらドラムを叩いて 「キマったぜ!」とか「しもた!」とか思ったりすることが、 やっぱり一番の処方箋なのかもしれない。 そう痛感した日曜日。

とはいえライブを見に行くとか、ましてやライブに出演するとか、 なかなか面倒なのも事実。ロックというか、音楽に対するモティヴェーションを 上げなきゃいかんということか。上げるためには? うーん。

去年、新譜と来日によって私にモティヴェーションというか感動を与えてくれた ジェフ・ベックであるが、 「10 年に一度」「クルマをいじる金がなくなったら」というインターバルでしか CD を制作しないはずの彼が、なんと前作から一年ちょっとの 11 月 15 日に 新譜 "You Had It Coming" を発表した。 期待に胸を膨らませて CD をプレイヤーのトレイへ載せる。ボリュームを上げる。 ギターが姿を現す。そして最初の感想が、

…首都高バトルの BGM みたいだ…

あわわわ。すみませんすみませんベック先生。 それにしても今の私は、ロックという音楽の流れから、 思った以上に離れてしまっているのかもしれない。

ロックドラムって、どんな匂いだったっけな。


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