Sonny Emory - 本名、ソニー・江守。ブラジル系の日系三世。
若い時分には差別と貧困に苦しんだが
現在は大きなコーヒー農園を営み悠々自適の生活を送っている。
というのは真っ赤な冗談で、現在の Earth, Wind & Fire のドラマーである。 前任者のフレディ・ホワイトに比べ、リズムは正確、端正なテンポ感、 コンテンポラリーなテクニックの持ち主。 ファンクというよりはフュージョンを感じさせる。ライブでは 長いドラムソロもフィーチャーされ、よく動く手足は大した物だ。 なのでソニーの勝ち、といかないところが音楽の面白いところで、 EW&F の全盛期、バンド全体がうねるようなリズムを出していた頃、 ボトムを支えていたフレディのドラムが好きだ、 というファンは多いと思う。私も、リズムがグルーヴィに進んでいく感じに 関してはフレディに軍配を挙げたいし、ファンク・ミュージックにとって 曲がグルーヴィに進んでいくことは最重要課題であろう。だから、正直なところ、 「EW&F のドラマーとしての」ソニー・エモリーに対する私の評価は あまり高くない。 ただ、ライブを見る限り、長いソロ以外にもダンスや ラップなどを披露し、ドラマーとしてはかなり盛大にスポットライトを浴びて 目立っている。EW&F のメンバーは彼を大きく認めているのだと思う。 私にはわからない、彼の良さがあるのかもしれぬ。 ところで。 以前の駄文でも触れたことがあるが、私はこの Earth, Wind & Fire の コピーバンドである Earth, Wind & Fiber というふざけた名前のバンドに 参加している。つい先日、一年ぶりくらいでこの EW&Fiber がライブを行った。 また、別の駄文で触れたが、私はドラムソロが大好きである。 で、この EW&Fiber でドラムソロを演るときは必ずと言って良いほど、 三枚目なお笑いソロを繰り広げておったわけです。 ところが今回は、何故か直前までネタが思いつかなかったのだ。 考えてみれば、ドラムソロというのは、普段目立たないポジションである ドラムが脚光を浴びる数少ないシーン。決して笑わせるというか笑われるというか そういう場面ではないはずだっ。だから今度こそ二枚目で行くんだっ!と 高らかに宣言する私。 で、私が密かに自分に課した今回のお題(?)は 「ソニー・エモリーの華麗なスティック回しをコピー」である。 1990年、東京で行われたライブの模様を収めた映像が今回のお手本。 ドラムソロ後半。ソニーがちょっと早めの 16 ビート・リズムを叩き始める。 そして一拍半のリズムで左右のシンバルを右手で連続してショット。 この時、左から右へ移動する際に、スティックをぐるりと一回転させるのだ。 それを何度か繰り返した後、 今度は両手のスティックをぐるんぐるん回しつつシンバルを乱打する。 ちなみにこの時ソニーが持っているスティックには夜光塗料が塗られているか何か、 とにかく光るよう仕掛がしてあって、暗闇の中でスティックがぐるぐると 舞っているように見えるのだ。ハイライトである。観客は大歓声大拍手。 これを一週間やそこらでコピーするというのは土台無理な話なのだ。 分かっているのか。俺よ。 ビデオをスロー再生しながら動きをチェックし、 会社の休み時間まで利用して指を痛めながら(これ、結構痛いのですよ) スティックを回した結果、 片手だけならば確率50%程度で成功するようになってきた。 しかし50%。半分は失敗。天気予報で「降水確率50%」と言われれば 傘を持ちたくなるのが人情というもの。そういう確率である。 さて、どういうシナリオにするべきか。 私の取るべき道は大きく分けて三つになるのではないかと思う。それを ここで整理してみよう。
と、こんなマルチエンディングのストーリーを考えながら、 成功確率は上がらぬまま、あっさりと本番の日がやってきた。 美しいバラード、After the love is gone が終わる。 さあ、ドラムソロの時間だっ。 私がこのバンドでドラムソロを演るときは笑いを取らなければいけない、 そんな呪縛から今回こそは逃れるのだ。そういう思いでソロを開始したはずなのだ。 別のバンドでソロを演った時に、見に来てくれた友人に「あれっ、今日は お笑い無し?」と聞かれたときの脱力感を忘れるな。行くぜ! 回れスティック! 人生は無情だ。お笑いの呪縛は私を開放しなかった。 数度回したところで、スティックは我が手を離れ、もう客から完全に認識できる 場所へと放物線を描き落下したのである。 そしてその直後、私の頭脳は、そして身体は、それはそれは速やかに シナリオ C の実行を開始してしまったのである。 ってそれはお笑いが染み付いているんじゃないのか。俺よ。とほほ。 頭を掻いてスティックを拾い、アフロのカツラを一旦脱いで 客に向かって大袈裟に「落としちゃいました。すみません」の お辞儀をしつつ、私は後悔していた。 何故、あらかじめ「結局失敗してハリセンで殴られる」などのネタを 仕込んでおかなかったのか。嗚呼。馬鹿馬鹿。 ドラムでこんな風に緊張するのは久しぶりだ。もし次のスティック回しを失敗したら、 もはやそれに続くシナリオは存在しないのだ。成功させるしかない。 確率は 50 %。うおおお。 その気合をもっと別な場所に使えばもう少しマシな人生を歩んでいたのではないかと 思われるほどの気合をもってして、結局スティック回しはなんとか成功。 安堵しつつ叩く Let's Groove の心地良さよ。 でもさ、ソニー・エモリーだって、これ、練習したんだよねえ。 スティック回しの練習って結構みっともないと思うなあ。 私も休み時間、会社の机に座り、「そこにシンバルがあるつもり」で ぐるぐるスティック回して周りの人間にナニゴトかと思われたりしたんだけれど、 ソニーだって最初はぽろっと落としてソロ止まっちゃったりするわけでしょ。 あるいはドラムセットの無い所で、集中するあまり口が開いちゃったり 目線が宙を彷徨っちゃってる状態でくるくる棒切れ回してるわけでしょ。 ひょっとするとよだれ垂れちゃってるかも。わはは。 スティック飛ばして横にいたお姉ちゃんに当たっちゃって怒られたりとかさ。 わははは。何よこのヘタクソ!とか言われてさ。謝ってんの。わはははは。 ところで、日本語読めたりしないよね。ソニー・エモリー。 えっ、日系三世は読めるかも?そりゃまずいよ。
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