第四回:バンド名と私


ロックという音楽に、コピーバンドという、言うなれば「模倣」で関わ り始めた私は、そのスタイルにも漠然と憧れを持っていた。長髪に煙草。 大音量と速弾き。痩身サングラス不健康。そしてちょっと気取ったバン ド名。

こうしてみると高校生当時のロック像がかなり歪んでいたことが良く分 かり笑えるが、とにかくその時は結構本気でそう思っていたわけで、髪 を伸ばし、先生に見付からないように煙草をくわえ、思い切りスリムな ジーンズを身につけ、でも上履きを履いて麻雀を打っていたわけである。

しかし、バンド名には恵まれなかった。私の関わったバンドは変な名前 のついているものが多い。

高校時代、巧いギタリストに誘われて初めてまともなバンドを組んだ、 そのバンドの名前が「かおるちゃん遅くなってごめんねバンド」であっ た。

なんか最初からケチがついているような気がする。しかしこの時代、我 々のライバルバンドの名前が「ヘーイごっくんバンド」だったので良い 勝負と言えばそれまでだが。

私が通っていた高校は決して馬鹿の吹きだまりではないのだが、軽音部 周辺だけは空気が歪んでいたようだ。その後自分でやったバンドは「必 殺仕事人」とか「大魔人」とかだし、後輩のバンドを見ても「丸五」 (近所に丸五商店という店があって、我々は学校帰りにそこでジュース を飲んで道草を食ったものであった)とか、「ゲイバーズ」とかそんな のばっかりだった。

体育をさぼり、飯もロクに食わずに痩身不健康をも手に入れた私に必要 なのは、あとはかっこいい響きの横文字バンド名だけであった。

実際、外国のバンドの名前はかっこよかった。Rolling Stones とか、 Led Zeppelin とか・・・そういうのがいい。大きなトラックの車体の 両側に鮮やかにそのバンド名を染め上げてツアーに出かけても恥ずかし くないようなバンド名がいい。

しかし、大学に入っても野望は実現されなかった。

ポリスのコピーバンドは「ゲーバー」だし(前述の「ゲイバーズ」とは 何の関わりもなく、お洒落で通っていたキーボード担当の女の子が

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A
というバンド名を提案して、「エイ・バー」と読むのだ、しゃれてるで しょう、と得意げに説明したところドイツ語習いたての馬鹿な男どもが 'A' ぢゃなくて 'G' にしよーぜなどと一瞬のウチに冗談のネタにされ てしまったというのが真相だ)、

私がギター弾いてたバンドは「わっぷ」だし(これはこのバンドのリー ダーが渡辺君というヤツで、当初「渡辺企画」だったのだが彼も横文字 を熱望し、では Watanabe Project ということにしようということにな ったのだが、コンサート出場申込用紙に思い切り "Wa P" と略されてし まったという)・・・

良く一緒にツルんでいたベーシストが、アダルトビデオの好きなヤツで、 彼自身のバンドには「トレイシー・ローズ」(っていうその筋では有名 な女優さんがいるらしい。私は知らないが。本当に知らない。)とか 「ブリーフ・ブラジャーズ」とか付けてたのだが、彼と組んだジミ・ヘ ンドリックスのコピーバンドが「ひーひー言わせたろうかい」であった。 これもとあるアダルトビデオのタイトルらしい。

ちょっと、あんまりじゃないの。入る客も入らんぞ、と文句を言うと、 お前は何も分かってないと逆に文句を言われて、二度目のライブの時に は「りおくん今日からあなたもひーひーず」に変わってしまった。模造 紙で作られた出演表にでかでかとこう書かれた時は涙が出たものである。

このバンドは丸々一年ほど続けたのだが、最後には「ひーひーず」とな り、皆様に愛されたものであった。悲しい。バンドの出演順を確認する のにうら若き女性(軽音部の後輩)が「トレイシーでブリーフでひーひー ですねぇ」などと大声を出しているのを見ると心が痛んだものだ。

どれも、大型トラックの横に書くにはちょっと寂しい。

まぁでも社会人になってからも「土偶」とか「旦那ぶらざーず」とかそ んな感じなので、元々私はそういうキャラクターだったのかもしれない。 小さなワゴン車か何かに、小さなドラムセットと古ぼけたギターを放り 込んでひょいと出かけるのにちょうど良い、肩のこらない名前というの もあるのかもしれない。それはそれでまた楽しいと、最近は思う。

現在 Earth, Wind & Fire のコピーバンドでバンド名をどうするかとい う話をしている。Erotic Women & Fuckers で EW&F だ、とか騒いでい るが、いやその案はもちろん私が考えたのではないのだが、結局そうい う感じである。

どなたか、E と W と F を使ったキャッチーでポップなバンド名を考え て下さらないだろうか。


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