第二十九回:CD と私


意外に知られていないことだが、CD は繁殖する。 自分が CD を買うペースを思い返してみて、どうも増えすぎているのではないか、と 思うことはありませんか。それは繁殖しているのであります。 繁殖のメカニズムに関してまだ詳細は明らかではないが、 ジミ・ヘンドリックスの CD とウェス・モンゴメリーの CD がマイク・スターンの CD を産むとかそういう感じなのであろう。恐ろしい。ぶるぶる。

我家でも繁殖が進みラックが手狭になったので、ラックの増設を行った。 元々 650 枚程度収納可能なラックを 1 つ使っていたのだが、これと同じ物を購入。 さて、しばらくは安泰だと思いきや、別のラックや別の部屋に置かれていた CD を、 いい機会だ、やはり一個所にまとまっている方が良い、ということで集めてみたら かなり埋まってしまった。どういう事だ一体。

数えたりすると思わず「一枚 1,800 円換算で△□○円! うっひゃー!」とかやって 不幸になってしまいそうなので数えていないのだが、多分 1,000 枚ぐらいなんだろう。 標準より若干多いぐらいだろうか? それにしても一枚 1,800 円換算で 1,800,000 円! うっひゃー! って結局やってる 駄目な私である。

さて、「標準」とはどのくらいなのだろうか。いや不毛だとは思ってますが、 ヨタですから。ヨタ。

不幸にして、いや幸い、私の周りにこの程度の枚数を所有する人間は結構多い。 なぜあいつらは増えるのだ、どうやって収納すればいいのだ、なんて話で 盛り上がれてしまう廃人じゃなくてナイスガイ達だ。 対して、去年は B'z のベスト盤を一枚買いました。その前年は GLAY を一枚、 さらにその前年は globe を一枚、さらにさらにその前はドリカムを一枚、 という方もいるだろう (以上平成 10 年 〜 平成 7 年オリコン年間一位アルバム)。 買う人は買う、買わない人は買わない。だから何枚が標準などと簡単には 言えないはずだ。はずなのだっ。なので、私が標準ということにする。

標準であるからして、私にぴったりの CD ラックが街には溢れていると思いきや、 これがなかなか見つからない。おかしい。標準であるからして、 みんな同様の悩みを抱えていると思うのだがどうなっておるのだ。

容量と使いやすさの妥協点を探ると、スライド式の 書棚が良さそうなのだが、CD を無駄無く収納するサイズのものがなかなかない。 あったとしてもかなり値が張り、上述の650枚を普通に並べて収納するような CD 専用ラックと比べると非常に割高だ。

30 枚ぐらいをこぎれいにディスプレイするような タイプのラックを見ると、どうも、新築マンションのチラシに載っている ごみ箱も本棚もない部屋の写真を思い出してしまう。こんな生活感のないラックを 使えるやつがいるのか。うらやましいぞ。まったく。CD の収納は戦いなのだ。 狭い隙間に無理矢理押し込んだら CD のプラケースが割れた、という経験だって あるのだぞっ。ぐすん。

問題は枚数だけにとどまらない。どう並べるか。これがまた悩みどころである。

・特にルールはない。アーティスト毎にまとめたりするぐらい

なんてのは、アーティスト数や枚数が少ない時にしか出来ない技である。 ある意味幸せなのかもしれぬ。

・部屋中に散らかしてあるけど俺はドコに何があるか分かってるから触るな

そんなのは君だけだ I 君。と思ってたんだけど他にも結構いるのかもしれない。 このタイプの亜種として、「CD をケースにも入れずに散乱度さらにアップ」という タイプもいるようである。さらに電脳的進化を遂げると「CD も CD-ROM も CD-R も なんやわからんよーになってもーたんであきらめた」ということになるのか。 悟りの境地というやつか。手を伸ばしたところにあった物を CD-ROM ドライブに 放り込み、音が出るか絵が出るか、運を天に任すという。

・ジャンル毎に分けて、その中を ABC 順に並べる

というのは、通常 CD 屋さんもそうなっているし、ポピュラーな手段であろう。 しかし、ジャンルをまたぐアーティストというのが存在する。 例えばクインシー・ジョーンズはポップミュージックなのか、それともジャズなのか。 スティーヴィー・レイ・ヴォーンはブルーズなのかロックなのか。 エリック・クラプトンは…これはあまり悩まないか。 これに対して友人のO君は「タワーレコードで『POP』の階に置いて在るヤツが POP」という明確な答えを持っている。なるほど、これなら悩まなくても いいかもしれない。

いやまて、しかし、 「うむ。ジョニ・ミッチェルは素晴らしい。えーとこれは POP の棚に…と… むむーバックはパット・メセニーとマイケル・ブレッカーとジャコ・パストリアスと… ジャズの人ばっかぢゃないかっ。ほんとに POP でいいのか? 今からタワーレコードに 行くわけにもいかん…歌からしてやっぱり POP…しかしこのバックを無視すると いうのは…いったい私はどうすれば… いやまてブレッカーは他にもポップスのバックを一杯務めてるし、メセニーも デヴィッド・ボウイと組んだことあるしな。許してもらおう。残るはジャコだ。 調べねばならぬ」などという状態になって眠れなかったらどうするつもりなのだ。

さらに、どういうジャンルに分けるか、という問題が控えている。 ロック/ジャズ、なんてのは西洋音楽という狭いフィルタを通して見た、 非常に一面的な捉え方かもしれぬ。我々はこれを見直す時期に来ているのではないか。 というわけで

・身長が 165cm 以上/以下

…ってそんなものは調べられないのである。その前にそんなもので分類しても 検索は全然楽にならないじゃないか。

・年代順

一瞬良いかと思ったが、各 CD の発売年を覚えてるわけじゃないからやっぱり 検索は楽にならない。駄目。一瞬良いと思ってしまった俺はさらに駄目。

・明日日本が沈没します。無人島に逃げるアナタはこの CD を持っていきたい?

生命保険のおばちゃんがくれる心理テストみたいになってきた。 だから楽にならないって。だいたい物を捨てるのがあまり上手くない私のことだから 全部持ってくとか言い出すに決まっている。分かれないぞ。分けたいのだ。 よし、用途別というのはどうだ。

・起床、朝食、掃除中、通勤、昼食、散歩、昼寝、ドライブ、おやつ、夕方、夕食、夜、甘いムード、ハッスル、就寝

分けられるものなら分けてみろという感じだが、出来れば面白いかもしれんぞ。 食前、食中、食後も分けて頂きたい。ところでハッスルってなんでしょうか。

結局レコード屋というのはそれなりに合理的な並べかたをしているのだな。 敢え無く敗北。 レコード屋によっては、例えばロックがさらに「ハードロック」とか 「プログレッシブ」とか分けてあって、それぞれに分類されているミュージシャンに 今一つ納得がいかなかったりすることもあるが。

さらに、アルファベット順の場合にも、ソートキーが First Name なのか Family Name なのかという議論も控えている。まったくもってこの CD という奴、 ヨタ話のネタとしてどこまでも魅惑的なのであった。

さて、私はどうしているかというと、上で文句を並べてはいるが、結局 「ジャンル毎に分けて、その中を ABC 順に並べる」である。 ただし分けているジャンルは「クラシック」と「その他」。 なので、ラックはなかなか賑やかなことになっている。例えば「B」の棚を見てみると、

某童顔ソウル系有名プロデューサ兼ヴォーカリストや
ジャズピアニストでもないロックドラマーでもない某ギター弾きや
Poll Winners な某ジャズギタリストや
某王様搾り系ブルーズギタリストや
小学生の音楽の教科書にも載ってるらしいイギリスの某バンドや
デビーな某ピアノ弾きや
デビーな某ピアノ弾きと同姓同名な上にどっちもマイルスと一緒にやってたりして ハナシがややこしい某サックス吹きや
転がるのをやめた某ベーシストや
かなり荒んだ青春時代だったらしい某天才女性ジャズヴォーカリストや
某素顔のままのピアノ野郎ポップスヴォーカリストや
ホワイトスネイクが嫌いらしい、某ハードロック三人組や
黒帽子黒眼鏡黒スーツでシカゴに帰りたがる某二人組や
マイクスターンのお友達でマイケルブレッカー似(顔ぢゃなくて)の某サックス吹きや
風に吹かれてぶつぶつ言ってる某フォークシンガーや
警官を射殺する某ジャマイカンや
道の終わりで歌ってる某四人組合唱団や
某AORな坊主や
某ラグタイム・ギターの第一人者や

なんか飽きてきたけど、とにかくそんな感じなのである。 さて問題。上記アーティストの名前を以下から選べ(一問二点)。

Babyface / Baden Powell / BAHO / The Band / Barney Kessel / B.B. King / Beatles / Bela Freck & The Frecktones / Ben Folds Five / Bernard Purdie / Bert Jansch / B.F.D. / Big Bill Broonzy / Bill Connors / Bill Evans / Bill Frisell / Bill Wyman / Billie Holiday / Billy Branch / Billy Joel / Blackstreet / Blue Murder / Blues Brothers / Bob Belden / Bob Berg / Bob Dylan / Bob Marley / Bobby Brown / Bobby Mcferrin / Booker T. & The MG's / Boyz II Men / Boz Scaggs / Bozzio, Levin Stevens / Brand New Heavies / Brecker Brothers / Brian Blade / Brian Mcknight / Brind Brake / Brind Lemon Jefferson / Brind Willie Mctell / Brownstone / Bryan Adams / Bryan Ferry / Bud Powell / Buddy Guy / Buddy Rich / Bunny Brunel /

まぁ賑やかと言っても所詮ほとんどは西洋音楽(?)ではあります。 幅広い耳を持ちたいと思ってはいるのですが。

閑話休題、この並べかた、「あのミュージシャンの CD が聴きたい!」と明確に 決まっている際の検索には良いのだが、「こんな雨の夜はジャズの気分」なんて時には ラックを隅から隅まで見てまわらないといけないのでちょっと苦しいのだ。 痛し痒しである。 「私はこういう収納方法/並べかたを採用しているが最高である」 というご意見のある方、是非お聞かせ下さい。

収納に少し余裕が出来て、ちょっと嬉しいことが一つ。 CD 屋にいくと、ほとんどの CD は背表紙だけが見えるように詰め込まれているが、 所々にお薦めの CD が、表ジャケットが良く見えるように陳列されていたりする。 私は昔からあれに憧れていたのだが、ついに実現出来たのだ。

しかしまたあっさり増えて、そんな余裕の在る置き方も 出来なくなってしまうのだろうな。ああ、困った。繁殖を防ぐ方法はないものか。 あっ、そうだ、アーティストを男女で分けて別の部屋に置けば…

…何やら想像が下品になってきたような気がしないでもないのでこれにて失礼。


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