音程のない、言うなればノイズの連続であるのだ。ドラムソロというのは。
CD を買ってきても、大抵ドラムソロなんて入っていない。 普通の音楽は正常な平衡感覚によって作られる。ノイズなんて入れないのだ。 しばしばドラムソロの入っているジャズとかいうジャンルもあるが、 そういうわけでアレは平衡感覚を失ったちょっとおかしいヒト達の音楽であると 断言して差し支えないと思う。 まったくどういうわけだ。 すったかたんととんだどどつたちーたじゃーんだぞ。 こんなものを人に聞かせよう等と考える奴の顔が見てみたいものだ。
そういうわけでじっと鏡を見る私である。 聞くのも好きなのが、やはりドラムソロを人前で演る快感というのは 何者にも代え難いものがある。 ちなみに同類と思われるものにベースソロというものがある。 これが私はあまり好きではない。厳密に言うと、ウッドベースでのもの。 やろうとしていることは分かるし、その紡ぎ出すラインに感動することも あるのだが、大抵は(フレットレスの宿命なのか)音程の悪さが先に気になって しまうのだ。どなたか「正しいベースソロの聴き方」を教えて下さらないだろうか。 で、ドラムソロだが、プロのドラムソロを聴きながら感動し興奮すると同時に 頭の片隅で、 (これは一般ピープルの人たちは面白いと感じるんだろうか) なんてことがよぎる瞬間がある。つまんねえんだろうな、なんて思いながらも やっぱり自分も人前で演ってしまうわけで、明らかに確信犯である。 自分はドラムに向いているのかどうか、時々考える。 前にも書いたが、ドラムは支配力の強い楽器だ。ギタリストが「さあこれから イナズマのような速弾きをばっちり決めてあの娘のハートをゲットだぜっ」とか 不埒な事を考えて勢いと調子に乗っていようとも、 いきなりほんわかしたリズムにしてしまえばこっちの勝ちである。 って何が勝ちなのかわからないが、とにかく自分勝手な自分には 向いているように思う。 しかし一般的にドラムのイメージは地味だ。「土台を支える」とか思われている。 いや、私も「土台支えることの楽しみ」だってわかっているつもりだ。 だから大抵はおとなしく、地味に土台を支えている。何やら場外がうるさいが、 地味だったら地味なのだっ。叩いている時に、 「俺はここだ。ここ。みんな注目。はいここでハデなオカズ入りますよーどっかーん」 なんてほんのちょっとしか思っていないぞ。 という控えめな性格なので、どこかで発散せねばならぬ。それがドラムソロだ。 高校二年か三年の頃、初めてドラムソロというものを経験した。 中身はシングルストロークで一生懸命タムとスネアを行ったり来たりした後、 右足、右手、左手、という順序で三連符を叩き続けるというもの。それだけだった。 字で書くだけでとほほさ加減が伝わってくる。普通はそんなもの「なんだヘタクソ、 もっと大事なリズムだのなんだの勉強すること山ほどあるだろーがタコ」と 言われてつぶされてまっとうなドラマーへの道を歩むものだろう。 ところが幸か不幸かつぶす人間がいなかったのだ。それどころか「うわーなんか 手足が速く動くんだねー」とか言われる始末。今思うとこの誉め方は いかがなものかと思うのだが。というわけでその後もドラムソロは続いてしまうのだ。 ステージを見てくれた人が「うーん、なくても良かったんじゃないの?」とか 「ソロを演るというその心意気に拍手」とか 要するに止めろと言ってくれたことも何度となく、あった。 なーにを言うかと笑い飛ばしつつ、やはりこれは、恥ずかしい。 それに、ドラムを続けているうちに、自分の演奏を客観的に判断することも 出来るようになってくる。そして自分の演奏を録音して聞いてみれば、 ああ、自分で聞いても恥ずかしい。とほほ。 でも、私は思うんですよ。人前で恥をかかなきゃうまくならない、と。 どの辺が恥ずかしいのか、どうやったらマシになるのか、そんなことを思いながら 少しずつ少しずつ成長していくんじゃないか。 だから、現在の自分が叩くドラムソロのレベルというのは、その恥ずかしいソロに 付き合ってくれたメンバーやお客さん達の暖かい気持ちによるものでもあるのだ。 逆に、未だこのレベルでしかないのは少々暖かい気持ちが足りないということで あろうか。現在私とバンドをやっている人は反省するように。 パターンを叩きバッキングをする時とはまた異なるセンスを要求される ドラムソロへの挑戦は、ドラマーとしての容量というか潜在的な能力というかに 寄与するであろうと個人的には信じている。だからわがままを承知で、 ヘタなクセに叩きたがるとお叱りを受けることを承知で、 いや実際受けつつ、また次もドラムソロを提案するのだ。 先日のライブで私に与えられたソロは16小節のみ。4小節パターンのキメ4回を 様々なフレーズで埋めるというもの。この短い時間に何を語るか。 これもまたソロの面白い一面だ。以下はその短い間に起きたノンフィクション ドキュメンタリードラマである。
ああ、神様。僕は間違っているのでしょうか。こんなに地味に皆を支えているのに。 これからも縁の下の力持ちとして精進を誓います。ぐすん。 …しかしスティック折れたぐらいでオタオタするとは俺もまだまだだな。 是が非でも克服してもっとハデなドラマーにならねば…折れたスティックを ぶん投げるというのもハデでよさそうかもしれん…ぶつぶつ… ををっ、新品のスティックに突然亀裂がっ。 |