第二十三回:ストラトキャスターと私


ストラトキャスター、というエレキギターがある。

老舗ギターメーカーであるフェンダー社が 1954 年に発表した傑作であり、 今なお愛用者は後を絶たず、ストラトキャスターと著名ミュージシャンの共演から 生まれた名演も多い。現在多くのギターメーカーから多種多様なギターが発売されて いるが、ストラトの影響を色濃く残したギターは数知れず。

私は著名ミュージシャンではないのだが、愛用者である。付き合いは古い。 いや付き合いと言っても、別に名前付けて可愛がったりしてるわけではないので 誤解のないようお願いしたい。なんかいますよねぇ。複数台コンピュータを 所有して「ジョセフィーヌ」「カトリーヌ」ってそれぞれ名前付けてるヒト。 まったく。いやそれは近所の某主任であるのだが機密事項である。

ストラトキャスターを知ったのは、中学校の頃に買ったフォークギターの 教則本。雑誌の別冊のような感じの本で、奏法の解説からいろんな曲の 譜面、はたまたアコースティックギターを使う歌手がカラーページに載っていたり、 という風のお買い得というかごった煮というか、なものであった。

譜面は松山千春の「長い夜」だとか松任谷由美の「守ってあげたい」なんてのが 載っていた。どうでも良いけどなんとなくこう曲目を書いていると気恥ずかしいのは 気のせいであろうか。

その本のグラビアページにさだまさし氏のギターを紹介しているコーナーがあった。 マーティンやヤマハのアコースティックギターがずらりと並ぶ中、そこにストラトが ぽつんと居たのだ。どういう紹介だったかは良く覚えていないが、まぁエレキの音が 欲しい時には使いますけどね、みたいな感じだったと思う。

むむぅ。これがエレキっちゅうものか。その頃の私は幼いカルガモ同然。 「エレキ = ストラト」が刷り込まれてしまったのであった。 これが普通のエレキなのだ、と。今改めてストラトを眺めてみるといろいろと 斬新なギターであっただろうと思うのだが。

というわけで、高校二年の時に「ドラムなんてやってられるかっ!俺もギター持って ステージの一番前で速弾きしてきゃあきゃあ言われるんだっ」と思い立った時、 私の頭の中にはストラトしかなかった。お茶の水のイシバシで入手した真っ赤な フェルナンデス(という国内メーカ)のストラト(のコピーモデル)は宝物だった。 購入したその日は雨が降っていて、雨がソフトケースのファスナーの隙間から 入り込んでギターが濡れたりしたら塗装がおかしくなって電気系統がいかれて 弦が錆びてペグが回らなくなってネックがねじれてしまうのではないかと 本気で思ってソフトケースの外側にもう一重ビニール袋ををかぶせて 持って帰ってきたのを良く覚えている。 楽器屋のお兄ちゃんもアキレたであろう小心者であった。

その後、ずっとその赤いギターは大事にしてきた。そして後年、社会人に なってから「一本ホンモノが欲しい」と思った時も最初に浮かんだギターは やはりストラトだった。

ところでホンモノってなんだろうなぁ。というのはなんか深いテーマなような 気もするので足を突っ込まずに先を急ぐ。

で、渋谷へ買いに行ったのだがこの日も大雨だった。外側にビニールはかけなかった。 これが成長というものだろう。

その後、テレキャスターやレスポールなど、個性豊かなギター達とも付き合うことに なった今も、やっぱり良いギターだと思う。何に惚れているかというと やはり「ジェフ・ベックが最も多く使っている」という点が…いやそれでは 身も蓋もないな。やはり形だ。ってやっぱり身も蓋もないぞ。

しかし私にとっては、ルックスというのは楽器を選ぶ際に非常に重要なポイントだ。 「音はサイコー、トホホなルックス」、と「ルックスばっちり、音はそこそこ」の 二本が並んでいたら、ミュージシャンとして前者を選ぶべきなのかもしれないが なんか後者を選んじゃいそうな私。いやもちろん音色を軽視しているわけでは ないのだが。それにクールなルックスのヤツは大概音も良いし。え、そんなこと ないって?

そういえばストラト使いの一人、リッチー・ブラックモア氏がインタビューで なぜストラトを使っているのかと聞かれて「だってジミヘンも使ってるんだぜ。 かっちょいーぢゃん」と答えているのを読んだことがあるな。ミュージシャンの 思考など所詮同程度。って俺に決められてはブラックモア氏も迷惑か。

さて、そのスタイルはまた機能的でもある。ハイ・ポジションも比較的弾きやすいし、 身体に当る部分は丸みを帯びていて優しいし、ストラップをかけてぶら下げた時の 重量バランスも良い。一列にならんだペグも扱いやすい。 真似たギターが多いのもうなずける。

あんまりポピュラー過ぎるのが欠点といえば欠点だが、多くのストラト使い達の出す 音色、例えばジミ・ヘンドリックス、マーク・ノップラー、バディ・ガイ、 リッチー・ブラックモア、デヴィッド・ギルモア、エリック・ジョンソン、 ゲイリー・ムーア… そして、ジェフ・ベック。みんな魅力的である。ちょっと最後に出した人は 思い入れの度合いが他と違うのだが。

ストラトの音色と言えば、故スティーヴィー・レイ・ヴォーンも素晴らしかった。 彼は生前、ストラトについてこう語ったと伝え聞く。

「良いギターだぜ。投げても壊れない」

ああ。この境地に辿り着くのはいつの日か。そう思いながらボディに付いた指紋を 拭く私である。は〜ごしごし。あめちゃんきれいになりまちたねー。雨の日に買った アメリカン・スタンダード・ストラトだからあめちゃんなんでちゅよねー。

はっ。誰も見ていないであろうな。


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