第十九回:セッションと私


セッションが好きである。

まぁ楽器を多少たしなんでいる人で「俺はセッションなど大嫌いだっ」という人は あまり見ない。いやまてよ、そういう人はセッションという場に出てこないから 単に接触がないだけなのか?

まぁ、いいや。みんな好きという事にする。

でも私はとりわけ好きなのだ。何が面白いんだろう。

バンドで曲を固めて何度も繰り返して演奏して完成度を高めていくという作業も とても面白いのだが、一回コッキリ、出ちゃった音は消えちゃうし、という 無責任な態度で望むセッションというのはこれまた格別の楽しさがある。 いや無責任と言っても、ドラムを叩く場合は一応曲の構成をさらっておくとか 一応演る曲がレゲエなのかヘヴィ・メタルなのか確認した上でレゲエの曲で ヘヴィ・メタルを叩くとかしなければいけないわけではあるが。

ドラムというのは支配力が強い楽器だと思う。その支配力を、音楽をまとめあげる 方向に用いるのが通常であろうと思うのだが、別に客に見せるわけでもないという セッションの場では、上述のように突然違うパターンを叩きだして共演者を 驚かせるとかはたまたいきなりドラムソロ始めてしまうとか、いろんな楽しみがある。

という文章を読んで、なんだ好き放題ぢゃねーか、いいなぁ、と思ったあなた。 鵜呑みにして実行に移してはいけない。私は実行しているので嫌われ者なのだ。 わっはっはっは。とほほ。

まぁ、極端なことをやってそこからアイディアがぽろっとこぼれてくる、という ケースもあるとは思うんだけどね。

さて、その点ウワモノはかなりラクなのではないか。リフ等がかなりかっちり決まった ロック等は多少予習も必要だろうが、それでも曲はろくすっぽ知らずにソロだけ ぐばーっと弾き倒して一人で気持ち良くなってるケシカらんギタリストとかいるわけ である。私じゃないぞ。決して。

さらにジャズ(と言っても本当は広いけれど、4 ビートのスタンダードの話としよう)は すごい。とにかく誰か一人がテーマメロディを演奏出来れば、あとは譜面さえあれば なんとかなってしまうといういいかげん極まりない音楽。いや本当はそうじゃないの かもしれないけどさ。

ここではドラマーなんてもうミュージシャンだと思われていないフシがある。

曲の提案者が各演奏者に譜面を配り簡単な打合せを行う。スタジオの奥に 閉じ込められているドラムには当然最後に譜面が回ってくる。回ってきた時には 打合せは終わっており、す、すいません、どーすれば良いんでしょう、と聞くと

「あー、構成は AABA で。4 ビートだから。終わりはまーテキトーに。
ぢゃ、いこうかワンツースリーフォー」

ちょっと待てちゅうねん。

まぁでもその限られた情報の中で、演奏しながらコード進行や構成を掴んでいって、 段々曲の中に入り込んで行く感じがまた面白いんだけれど。

普段演らない曲やジャンルのセッションというのもまた面白い。自分に何が 足りないのか思い知らされてしまったり、新しいリズムや、はたまた新しい楽器に 触れる事が出来たり。

曲目や演奏者を事前にきっちり決めないセッションで同じ楽器の担当者が複数いる、 という状況もいろいろ味わい深い。 例えばドラムだと通常曲中で演奏するのは一人であるから、誰が叩くかという問題が 発生する。「あー、俺この曲知ってる」「私は知らないなー」という感じで ある程度までは自然に候補者が絞られていく。その後「うぉぉぉ俺はこの曲のために この場にいるんだぁぁぁ」というオーラが強烈に出てるヒトとか、あるいは 来てみたんだけどまだ一曲も叩いてないですぅというヒトとかに決定されていくわけ だが、私はこのオーラを眺めるのが結構好きである。いや自分で出してるケースも 多いという話もあるが。

そして譲った後、演奏を客観的に眺めるのも悔しくて楽しい素敵な時間。 俺ならこう叩くなぁ。うわ、そう来るかぁ、面白いっ、とか。初心者が一生懸命 演奏しているのを見るのも、上級者に目にモノ見せてくれるという感じでコテンパンに されるのもこれ全てセッションの楽しみ。

いろんな楽しみがあって、挙げていくとキリがないけれど、やっぱりいろんな人に 会えるということが一番の収穫なんだろうな。自分以外にも楽器の好きな人が こんなにいて、みんなそれぞれ自分なりに楽器に接していて、ウチアゲで飲んでみたら ただの馬鹿だったとか、ただの馬鹿ではなくて果てしない馬鹿だったとか、 突然説教されたりとか、いろんなことがあって。

だからセッションは面白い。 皆さん、セッションでお会いしましょう。


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