四月である。新入社員の季節である。我がグループにも新人が一人配属された。直子さんという女性である。若干二十歳。 やぁねぇ一回り近く違うのよ、と目の前に座っている同僚が溜息をつく。この同僚であるところのめぐちゃんと私は同い年なのだが、そうか一回り近く。といってもあまりぴんと来ない。 来ないので想像する。 直子さんが小学校一年生の時にこちらは髪の毛伸ばしてマイケル・シェンカーに心酔していたのだ。 をを。途端に哀愁のシンフォニーエンドレス再生状態である。 さて、気を取り直して彼女直筆の自己紹介を読んでみる。なになに、趣味はスキー。ほうほう若者らしくてよろしい。それから釣り。ちょっと前にちょっとしたブームであったような記憶もあるが、そうか、釣り。なかなか活発な女性らしい。それにデジカメ。 デジカメ? 趣味がデジカメってなんぢゃろ。めぐちゃんは「デジカメ持っていろいろ撮るってことでしょ」と言う。 ほんとに? それってふつー「趣味はカメラ」じゃないの? この「デジタル」に限定しているトコロに何らかの主張があるのではないか。彼女のコダワリは例えば「家に 50 台のデジカメを所有」とか「これは 89 年のレア物で」とかそーゆー方向に向いちゃってるんじゃないのか、と拳を握って語っていたらすっかり無視されてしまった。これも人生。 さて、自分だって自己紹介の「趣味」の欄に一言「楽器演奏」とか書いたりするんだけど、考えてみたらこれ、どう思われているんだろうか。
バンド演ってる、とか楽器演ってる、ということが音楽に詳しい、というかいろんなミュージシャンを知っている、ということに直結して考えられてしまうケースも多い。 「えっと、なんだっけ、ほら四人組の」「髪の毛金色でさ」「最近xxに出てたよね」 なんてハナシの流れで 「ねぇ知ってるでしょ?」 って知らないよ。俺最近の音楽全然知らないんだと答えると不思議そうな顔されちゃうし。使い物にならない、という烙印を押されちゃうし。くそぅ。リズム練習法なら多少語れるんだが語るとかえって嫌われそうだし。そのくらいの平衡感覚は持ってるぞ。 雑誌なんかにある「あなたのおじさん度チェック!」なんて特集によくあるよなぁ。「最近の音楽を知らない」とか「XX(有名アイドルグループ)の個人個人の見分けがつかない」とか。ああぴったり俺のことだ。号泣。 その他「楽器やってるとカラオケが上手い」とかも同様の誤解であるな。 なんかハナシがずれてきた。 しかし、この趣味の欄、って何に使われるんだろうか。 「鉄道、アイドル、コンピュータ」とか書いて「ああ、そういうヒトなのか」なんて判断されるとかそういうことだろうか? お互いにとってあまり利益がなさそうだが。 「ナイフ収集」「アーミー関係」「天皇陛下万歳」などと書くやつは危ない、とかそういうチェックをするためか? って会社に見せる紙にそういうことを堂々と書く気骨のあるやつも少ないか。 「古墳発掘」「彗星探し」などと書くやつを見つけて「マニアックかつ探求心に溢れ知的さも感じられる」なんて判断も下せないと思うしなぁ。 結局、「を、新人の山田君、俺と同じ趣味だ! おーい山田君、ギター弾くんだって? え、ジョー・パス? 良く分かんないけど僕はジミー・ペイジが好きでねぇ。イン・スルー・ジ・アウトドアをリアルタイムで買ったんだよ。田中部長なんて Zeppelin の来日公演行ったってのが自慢で。いやもう気に入った。今日は暇かね? 飲みに行こう。飲みに。君のナナメ前の鈴木君、彼はディープパープルのファンなんだよ。ギター弾くんだ。白いストラト。彼も一緒に」なんていう、同族を見つけておおよそ会社では似つかわしくない会話をデカい声で行って課長に怒られるためだけに機能してるんじゃないかと思う今日このごろである。上の例では山田君は非常に苦しい立場にいるような気もするが。 ってなんだ、立派に楽しく役に立っているじゃないか。よかったよかった。 そういえば、私が入社した時に「ドラムを叩く」という旨を書いたら二つ上の先輩がにこにこ寄ってきて、三分後にはパラディドルがどうとかって話をしたような記憶もあるなぁ。 さて、そういう私の「楽器演奏」というのは何を指すか? 最近は陽気も良くなってきたし、昼休みに近所の公園に行ってぼけーっとハーモニカを吹いていることだろう。ちぇっ、今日は雨かぁ。
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