アンプ修理顛末記

最終更新日 : 1999/07/10

1. 耳は、悪くない

変なトコロに神経質なのである。私は。 スピーカと自分が二等辺三角形を形作るようにセッティングし、 スピーカとスピーカの間、ちょうど中心位置ををじっと見る。 どうもボーカルがほんの少し、左に寄っている気がする。

最初はセッティングが悪いのだと思っていた。左右の条件、例えば壁からの距離とか、 後ろがガラスか壁かとか、自分の左後/右後に置いてある物とか、そういうものが 揃っていないためであろうと。それを出来る範囲で合わせてみたのだが、 それでもやはり微かに左寄りに聞こえる。

スピーカケーブル?
アンプと CD プレイヤーの接続?
それとも自分の耳が悪いのか?

こないだ風呂入った時に耳に水入っちゃったんだよな、アレで俺の右耳は いかれちまったんだどうしよう、と耳鼻科へ行くことを検討し、 注射はいやだとか看護婦さんはきれいな人がいいとか余計なことまで 考え始めた私であったが、 ふと気付いて、CD プレイヤー、MD デッキ、アンプそれぞれのヘッドホン端子から ヘッドホンを使って聴いてみた。

CD, MD は正常だが、アンプは左に寄っている。 アンプと CD、アンプと MD をつなぐコネクトケーブルが両方同じように 右が弱っているのか、アンプが悪いのか。前者は考えにくい。 ということはどうやらアンプが悪いのだ。

ひゃあ。

バランスつまみを少しだけ右に回してやれば解決するハナシではあるのだが、 このアンプには、バランスつまみやトーンコントロールなどをバイパスして、 よりピュアな音が楽しめる「ソース・ダイレクト」ポジションというのが ついている。バランスつまみは使いたくないのだ。

というわけで、こやつの生みの親である山水電気株式会社へ 電話することに相成ったのであった。

2. サービスセンターは何処へ

アンプを購入した際に付いていた書類をひっくり返すと、をを、あったあった、 サービスステーション一覧。近そうな相模原と神田の電話番号を控えて 早速電話。まず相模原。

「おかけになった xxx-xxx-xxxx はお客様の都合により電話を取り外してあります。 連絡先の番号は xxx-xxx-xxxx 」

…移転したのか。ちなみに神田はどうなんだろ。秋葉原の近くだしこっちの方が 確実かな?

「お客様がおかけになった電話番号は現在使われておりません」

…大丈夫か。サンスイ。

相模原にかけた時に案内された連絡先にかけてみると、をを、人が出た。安堵。 既に多くの家電メーカがオーディオから撤退し、 最近では老舗であるダイヤトーンが民生スピーカから撤退するという御時世である。 オーディオ業界はあまり好調ではない。 夜逃げしたのか、とか、つい失礼なことを考えていた 私を許して下さい。山水の人よ。応援してます。心の中で。

3. 出来ません?

電話で状況を説明すると、若そうな男性「それはバランスつまみで調整して下さい」 …いやですからバランスなしでなんとかしたいわけでして…「バランスつまみと いうのはそのためにあるのです」…いえお説ごもっともなんですが来ていただいて 調整するとか…「出来ません」

ぐすん。

涙に掻き暮れながら電話を切りつつ考える。 いやまてよ、彼は修理という意味での調整ではなく、アンプの各種コントロール つまみをいじることでなんとかすることは出来ない、と言っているのではないのか。 こちらの説明も悪かったかな、もう一度チャレンジだ。

今度はちょっとお年を召した感じの男性「バランスつまみをバイパスした、 ダイレクトでの左右バランスということになりますと、ボリューム交換等になります」 …を、今度はやけにハナシがスムーズだ。多分、

親方「なんでぃトメ、今の電話は?」
弟子「いや左右バランスが狂ってるってんで。『そんなモノはバランスつまみで なんとかしろぃ!』ってね。ターンと言ってやりました。ターンと。 甘やかしちゃいけねぇと思いましてね。はははは。」
親方「馬鹿野郎、このすっとこどっこい! そりゃてめぇの勘違いだっ」

という会話があり、二度目に電話に出たのは親方であろうことは想像に難くない。 って勝手に江戸っ子の大工みたいになっているが、まぁ弟子の名前は留吉と 相場が決まっている。

とにかく、結局来てもらえることになった。 出張費は 2,400 円だそうだ。 しかし日程調整は、最初土曜と言っていたのが平日夜になったりとちょっと ごたごたした。修理件数に対するサービスマン数が少ないんだろうか。またもや 不況に思いを馳せる私であった。

4. サービスマン登場

約束の日。自宅で待機していると、「近くまで来ているんですが、お宅がどこだか 分かりません」と電話。そうなのだ。この辺り、番地が順番に付いていないので、 番地を頼りに家を探そうとするとハマってしまうのだ。 なんとか電話で連絡を取り合い、そこ曲がったとこでワタシ待ってますから、 オレンジの T シャツ着て、なんてやりながら無事到着。

早速いくつかのソースを聴いていただく。オーディオチェック CD 以外に センター定位のチェックということで、真ん中にヴォーカルがいるヤツを。 Joni Mitchell / Night Ride Home を気に入って使っておられた。

私はてっきり、七つ道具(?)を小脇に抱えて乗り込んで来て、 その場で鮮やかに半田付けをしてオシロスコープで波形を見ながら私の理解できない 電気工学の公式を口ずさみつつバシッと直してくれるのかと思っていたのだが、 やることはボリュームの交換であり、持ち帰らなければいけないという。 ちょっと待て、それ、出張修理って言うか? 話が違うとその場で駄々をこねたり 泣き落としたりしてみたが無駄であった。当たり前か。

さて、その際に伺った話をいくつか。

  • サンスイの 607 より上のシリーズは六連ボリュームを使って左右チャンネルの ホット、コールドを一気に動かすようなしくみになっていて、これが音の良さに つながっているのだが、それらがまったく同期して動くことは難しく、ボリューム 位置によっては今回のようにズレが分かってしまうこともある。

  • ただ、今回も 1 〜 2 db とか、小さなズレ。普通は気にしない。 バランスつまみが 1 時あるいは 11 時を超えると気になるが(お客さんは 耳が良い、と言われたけれど、裏を返せば気にすんなとゆーことかもしれん)。

  • ボリューム位置八時〜九時ぐらいで聴いている人が一番多く、 私(九時〜十一時ぐらい)は若干高め。

  • MR → NRA のモデルチェンジで、定位等は良くなったが若干おとなしめになり、 ここは好みの別れるところ。どちらかというとクラシック系向きになった。

  • うわっ、ところでこのレコードプレイヤー(SANSUI XR-Q7)、懐かしいですね。 まだ動いてます? あ、オートプレイの部分は壊れたけれどマニュアルプレイヤーと しては使える? それは良かった。もう部品なんてまったく残ってないんで 修理は不可能です(きっぱり)。
そしてアンプは行ってしまった。一週間後に帰ってくるという言葉を残して。 いや残したのはサービスマンだが。

5. 代打 DENON PMA-390III

一週間音楽なしというのも淋しい。というわけで、サブで使っているアンプ DENON PMA-390III をメインのシステムにつないでみる。

このアンプ、某オーディオ雑誌で行われるランキングにおいて、最も安い価格帯での 上位常連だったりする、コストパフォーマンスが良いと評判の機種であり、 私もサブシステムで BGM 的に聴いたりシンセを鳴らしたりする分には特に 不満はないのだが、今回図らずもまさに「アンプ聞き比べ」状態になってしまった その結果。

写真が漫画になった。

というと言い過ぎかもしれないが、幽かな響きが出て来ず、リアルさがない。 レンジが若干狭く感じるのもその「リアルさ不足」につながるのかもしれない。 輪郭の太い、はっきりした音なのかもしれないが、乱暴ともいえる。 定位が少々甘い等もあるが、まず一番気になったのは上記の点。 悪いアンプではないと思うし、必ずしも漫画が写真に劣るわけではないのかも しれないけれど、比べるとやはり違う。なるほどねぇ。

6. 終わり良ければ

予定の一週間を数日過ぎて、我が AU-α607MR は帰ってきた。

その日なぜか我家に来ていた友人のギター弾き S 君。 彼は、私が何かを入手するとき、例えばアコースティックギターであるとか エレドラであるとか、 そういう時になぜか一緒に居合わせることがしばしばあるのだが、 そういう星の巡り合わせなんだろうか。 そもそもこの男、私が今回アンプ修理に踏み切る随分前にここで音楽を聴いて 「左に寄ってる」とケチを付けていたのであった。おそるべし。 ちなみにその時聴いたのは私のバンドが現在制作中の CD のラフ・ミックスで、 まぁアマチュアなんでショボい機材使って録ってるんだろうからそーゆーズレも 出ちゃうんだろうと思ったらしい。失礼なヤツである。

その彼が興味深げに見る中、アンプを結線する。そして、以前、彼もバランスの 狂いに気付いたのだという話をサービスマンにした。 気付いた人間は複数居るわけで、このあいだ「普通は気にしない」と 言っていたけれど、そんなに微妙な話ではないんじゃないか、と。 サービスマン曰く「持ち帰って測定したところ、やはり 1db 程度の小さな ズレで製品としては合格レベル」とのこと。バンドのお友達の方ですか、 やっぱり耳が良いんですよ、とか言われて、 そ、そうか、耳が良いのか。うひひひ、と好い気になって すっかりごまかされている二人であった。とほほ。

今回のボリューム交換では、特に私が良く使うあたりのボリューム位置で バランスの狂いがないものを選んでくれたそうです。お手間を取らせました。 おかげでボーカルはぴしっと真ん中に定位するようになった。幸せはやってきた。 結果良ければ全て良し。

しかし出張費、部品代、技術料含めて 13,000 円という値段はあまり良くない。 また無駄遣いして、という心無い嫁の言葉に、やって来た幸せは命短く散って行くかに 見えた。しかし散ってないのだ。

夢中で CD 聴いてる時は、ヒトの話なんて聞いちゃいないから。


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