Shadow Dance ...サンプル

「───話がある」
 せっかく正面きって、せいぜい真面目なツラを作って言ってやったのに、
「はにゃ、はなしって」
 とハボックが噛みまくったのでいきなり雰囲気はぶち壊しになった。ロイは椅子の背に置いた腕に突っ伏した。
「お前、まだ酔ってるのか…?」
「酔ってはいません! すいません、あの、そのオレ、」
「いい。考えがまとまっていないなら口を開くな」
 ハイ、とそこは素直に答えてハボックは黙り込んだ。しかし考えがまとまっていないのはこちらとて同様だ。どうしたものかな、と横の書棚を眺めながらロイはしばし悩んで、結局は単刀直入にいくことにした。
「どこまで覚えている」
「どこまで、とは」
「昨夜の醜態について、お前の記憶には何がどう残ってるんだ。店で酔い潰れたところは覚えているのか?」
「朧気ながら」
「店を出るところは」
 ちょっとハボックは思案する顔つきになった。それで大体の察しはついた。
「私の車に私と警護兵と二人がかりで突っ込まれたあたりは?」
「……すいません、記憶にありません」
「お前の官舎まで運んだんだ。道端に転がしておくわけにもいかなかったからな」
 人事不省のこのデカいのを、二階の部屋まで引きずり上げるのがどれほどに大変だったか。今思い出しても息切れがする。
 さて。しかし問題はその先ですよ。
「お前の部屋で、あー…つまり、お前の寝室でお前は一人で目が覚めたな? 私はキッチンに居た。警護兵は車両を司令部に戻すために先に帰らせていた。……ん?、帰らせようとしていた時だったか? その音でお前が起きたんだったかな…」
 ここらは自分も酔っていたので記憶があやふやだ。有能なる副官殿に己の乱行がバレるかもしれないことへの恐怖で、若い下級兵相手に、かなり無茶な押し問答を繰り広げていたような。
 とにかく、とロイは慌てて咳払いで仕切り直した。
「とにかく、その時点では私は一人でキッチンに居たんだ。そこでお前がのこのこと起きて来てだな、つまり、あー」
 全然ちっとも『つまり』じゃない。さすがに自分の口から言い出すのはためらわれて、ロイはわざとらしく視線を逸らせた。 沈黙。室内に満ち満ちる沈黙。大して広くもない薄暗い書庫の中で、牧歌的にうららかな午後の陽射しを背後に感じながら、息詰まるような圧迫感と沈黙。
 それを破ったのはハボックからだった。
「───夢だと、思ってたんです」
「……。らしいな」
「大佐がオレの部屋に居るはずねえって。だってそうでしょ? 普通はそう思いますよね? 目が覚めたら大佐がオレの部屋でオレ見て笑ってて、服なんか脱ぎ出しちゃって、オレに酔い覚ましの水なんか持ってきてくれちゃうんですよ。ああこりゃ都合のいい夢見てんだなって、思い込んじまうのはしょうがないですよね?」
「あのなあ! それはしょうがあるとかないとか言う問題よりも、」
 どんな色眼鏡のかかった妄想だ。