I want to meet you ...サンプル

 会いたいなと思うことがある。
 元気でいるか、きちんと食事を摂っているか。異国で寂しい思いをしてやしないか、誰かと揉め事を起こしてやしないか。
 思ったあとで少し笑う。なぜなら自分が想像するより弟は実はずっと大人で、あの甘ったれぶりは兄貴に対する限定オプションなのだと、涼介自身が誰より知っているからだった。
 ずっと一緒に居たいんだ、と。
 いい歳をして駄々をこねて見せたのは。お前、俺に気を使ったんだろう。俺の代わりに、俺の言えないことを、お前はわざわざ口にしてみせたんだろう。
 だから、本当は分かってる。弟は兄貴が傍についてなくてもそれなりにやっていけるし、あの明るい性格で周囲の人間にも恵まれて、寂しいなんて思っているはずがないってことを。



 ふと思い付いて一人で海へ出かけた。弟が旅立つ直前、ドライブがてらに共に出かけた海へ。
 まだ冬の海は風も冷たく、ウィンドサーフィンの若者たちと、犬を連れた地元の人が時折行きすぎる程度だった。連れ立ったカップルさえ居なかった。
 涼介はしばらく砂浜に座って空と海を眺めていた。薄曇りのグレーの空。それを映した海も寒々しく白い波をしぶき上げる。想像以上に浜辺の風は強くて、マフラーを持ってくればよかったなと考えながらも、二時間近くはそうしてぼんやり砂浜に座っていた。
 突然、ドン、と何かに肩をこづかれて前にのめる。
 驚いて振り向くと、生暖かい息が視界を塞いだ。それから枯れ草色の明るい毛並み。何が起きたのだかとっさには状況が掴めない。
 「───すいませーん!」