病害虫の防除以外に使用される農薬 |
農産物の生産過程で病害虫の防除目的以外に使われる農薬が多数あります。 これらは化学物質であるわけですが、農薬の散布回数としてカウントされていないことが多いです。 また病害虫目的のものでも表にあまり出てこない農薬もあります。 ほとんどの消費者は知らないのです。 |
展着剤 |
展着剤は殺虫剤や殺菌剤に混ぜられ、それら薬剤が対象物(葉や虫)に効果的に付着、浸透、または効果が持続する役目を果たします。主には合成界面活性剤、つまり合成洗剤です。合成洗剤と同じですから生体への影響が心配されますが、農薬を減らすことは効率的に効かせることでもあり難しいところです。展着剤にも系統があり、特に下記のPOEアルキルフェニルエーテルは環境ホルモンが疑われるノニルフェノールの誘導体であり、林檎屋では使わないようにしています(と言ってもこの地域の防除暦で推奨している展着剤にはその系統はありませんが)。問題なのは最近主流のフロアブル剤などで、すでに展着剤が含まれているうえ成分名が記載されていないため(←困ったものです)、わからない、というのが実態です。(実際含まれているものも確認しています) ●【ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル (ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、 ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、 ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)】 ⇒<分解され環境ホルモンのノニルフェノールになる> <林檎屋で使う展着剤> 「ハイテンパワー」 「パンガードKS-20」 「アビオンE」 いずれもPOEアルキルフェニルエーテルではありません。 石けんを使うことも考えていますが、動力噴霧機が壊れるのではとなかなか踏み切ることができません。 |
せん定切り口ゆ合剤 |
果樹には枝を整理する「せん定」という作業があります。 枝を切った切り口からは病原菌が侵入し、腐ったり枯れたりする可能性があります。 それを防ぐために切り口に塗る薬剤が「ゆ合剤」です。 りんごは特に「ふらん病」という樹を枯らしてしまう病気があり、多くの農家が悩まされていて、ゆ合剤は欠かせないものとなっています。 ゆ合剤の種類も何種類かありますが、基本的にはベースとなる酢酸エマルジョン樹脂に、殺菌剤と着色料が入っているというものです。 これは認証の際カウントされることもあります。 主なものを挙げます。 ●「トップジンMペースト」(ペールオレンジ)【成分:チオファネートメチル】 ●「トップジンMオイルペースト」(赤)【成分:チオファネートメチル、油】 ●「バッチレート」(灰緑黄色)【成分:有機銅】 ●「べフラン塗布剤」()【成分:イミノクタジン酢酸塩】 よく使われているトップジンMの主成分チオファネートメチルは、発ガン性が指摘されています。 林檎屋では、木工用ボンド(酢酸エマルジョン樹脂)を木酢液(または竹酢液)で薄めて塗布剤として使用しています。 |
摘果剤 |
果樹はたくさん咲いた花すべてを実にしてしまうと小さい実しかならず、樹にも負担がかかるため、
数回にわたり選別していく「摘果(花)」という作業があります。 とても時間のかかる作業なのですが、少しでも負担を減らすため、薬剤を使って摘果するのです。 効率よく(安価に作る)ということは、こういった薬剤に頼るということでもあるのです。 品種でも異なりますが、主に次の3つがあります。 ●「ミクロデナポン」原体名:NAC これはもともと殺虫剤。 さらにNACは環境ホルモンの疑いをもつ農薬である。 ●「石灰硫黄合剤」名前の通り石灰と硫黄の合剤で、殺菌剤として使用されている。 有機JASの使用可能農薬なので安全性は比較的高いといえる。 ●「エコルーキー」最近出た摘果剤。 主成分は「ぎ酸カルシウム」なので、安全性は高いと思われる。 林檎屋も使用を検討中(今までは摘果剤は使っていない)。 |
落果防止剤 |
りんごには収穫期が近づくと自然に落下してしまう生理落果という現象が起こります。 (ある意味当然のことなのですが、栽培上不都合) 品種によって異なり、つがる、紅玉などは落ちやすく、ふじなどにはあまり起きません。 これを防ぐのが落果防止剤でホルモン剤です。 ●「ストッポール液材」【成分名:ジクロルプロップ】 ●「マデック乳剤」【成分名:MCPB】除草剤でもある。 ●「ヒオモン(ナフサク)」【成分名:α-ナフタリン酢酸ナトリウム】一度登録を失効しているが、 平成21年再登録された。染色体異常、発がん性に疑いがもたれる。 ホルモン剤の安全性については賛否両論あります。 「ジクロルフロップ」について取引先で調べてもらいましたが、現時点では「わからない」ということです。 とりあえず林檎屋では使っていませんが、毎年紅玉、秋映は苦しめられているので、この先はわかりません。 ホルモン剤は他の農産物でも使われています。よく知られたところでは、種なしブドウをつくるための「ジベレリン」やトマトの着果促進に使われる「トマトトーン(パラクロロフェノキシ酢酸)」などがあります。 |
その他 |
他にも化学物質はいろいろな目的で使われています。 <樹や樹皮を食べる虫> カミキリムシ、キクイムシの幼虫やコスカシバ、コウモリガ(蛾)の幼虫など。一般的防除では比較的強い農薬が使われているように感じます。また、虫は樹の(穴の)中にいるため、ノズル付きの殺虫スプレーが使われることが多いです。林檎屋ではコウモリガは穴が大きいので木の枝などを差し込み物理的に殺しますが、手遅れのことも多いです。カミキリの幼虫は不快害虫(?)用のスプレー殺虫剤を使っていますが、除虫菊から抽出される「ピレトリン100%」のものを見つけたので使っていました。ところがこの製品、途中から化学合成成分が含まれるようになってしまい、今ストックしてある分が終わったらどうしようかと悩んでいます。梅に付くコスカシバは樹液などで見当を付け、金具で削って見つけて殺します。 ●「ガットサイド」【成分名:MEP(フェニトロチオン)】 ●「不快害虫・アリ用殺虫スプレー(商品名はいろいろ)」【成分名:ディート、BPMC、…】 <樹液を吸う虫> カイガラムシ。市田柿につく「フジコナカイガラムシ」の対策として近年行われているのが、芽ぶき前に主幹の樹皮を削りそこに原液に近いネオニコチノイド系の殺虫剤を塗布するという方法です。浸透移行性という性質を持つこの農薬は植物体内を移動し、長期に渡り樹液を吸うカイガラムシを殺すというわけです。残留性の点からも危険性が高いと考えます。もちろん林檎屋はしていません。被害がないわけではないのですが、部分的なものです。天敵の効果は大きいと思います。 ●「スタークル(ネオニコ)」【成分名:ジノテフラン】 <見た目をきれいにする?> グリセリン脂肪酸エステルは食品添加物ですが、合成洗剤でもあります。洗剤で洗ってきれいになりました、ということでしょうか。そこまでする必要性に疑問を感じます。 ●「まくピカ」【成分名:グリセリン脂肪酸エステル】 |
防霜剤 |
農家にとって霜は大きな被害をもたらす恐い存在です。 特に近年の不安定な気候で、霜害に遭うことも増えています。 主な霜害対策です。 ●燃焼資材を使う ものを燃やして空気を暖める、単純ですが大変な作業です。 昔はタイヤを燃やしていました。 子供の頃、朝起きたら空が黒煙で真っ黒だったのを思い出します。 鼻の穴がススで黒くなっていました。 今はもちろんそんなことはできません。 専用の燃焼資材が使われますが石油系材料も含まれるため、決して無害とは言えません。 ●防霜ファン 高い鉄柱の先にファンを付け、上層の暖かい空気を送り込む方法です。 設備費用が高いのが弱点です。 ●防霜剤 最近登場したのが防霜剤という薬剤を散布して防ぐという方法です。 主に2パターンに分けられると思います。 ●「霜ガード」(商品名)…主成分ゼオライトにより断熱効果の高い空気層を作る物理的方法 ●アミノ酸系葉面散布剤…アミノ酸、糖類等の吸収により植物体内の糖分濃度を高める科学的方 法 いずれの資材も危険な物質ではなさそうですが、詳しい成分表示がされていないものもあり、 これまた困ったものです。 早朝に起きて何十か所にも燃焼資材を点火する手間に比べれば前日に散布する方が楽ですが、効 果は燃焼式よりは少なそうです。 基本的には防霜剤を散布し、それでも被害が出そうなときは燃焼資材を使うという流れです。 どの方法もコストは高くつきます。 |
果実袋 |
果物は栽培中に袋を掛けるものがあります。目的は複数ありますが、主には病害虫防除か、色や果実表面をきれいにするために掛けます。りんご、桃、梨、洋梨などに掛けますが、りんごは今は無袋(袋を掛けない)が主流になっています。この果実袋には病気予防のために殺菌剤が含まれているのが一般的です。袋を購入すると「安全使用上の注意事項」という紙が添付されいます。一部抜粋します。 ・袋掛け作業の際、手ぬぐい、マスク等で口や鼻を覆い、保護クリームを使用することをお勧めします。 ・袋掛け作業後は手や顔を石けんで十分に洗ってください。 等々…。 これは農薬の注意事項と似ています。農薬がし染み込ませてあるのだから当たり前と言えば当たり前。でも袋を見ているだけではなかなか危険という意識が湧きません。 また薬剤成分が果実へ移行したというデータもあります。また除袋後の袋の処分の問題もあります。 林檎屋は時代の流れに反してりんごに袋を掛けますが、農薬無処理のものを使っています。ただしりんご用に無処理のものはなく、桃と柑橘用の袋を使っています。りんご用ではないので掛けるのにも手間が掛かります。 |
除草剤 |
農産物に直接散布するわけではないのですが、重労働の除草作業から解放してくれるのが除草剤です。林檎屋では全く使わないので詳しくはないのですが、 農家の人は草がぼうぼうと生えていることに厳しい視線を向けます。だらしのない奴と思われてしまいます(私のこと…?)。また病害虫の発生源だと言い切ります(もちろん全否定はできません)。でも草の生えていない畑は不自然な気がします。良い土にもならないのではと思います。 ただ後継者不足の農業は高齢の方が増えています。除草剤に頼らざるを得ない状況があることも知っていてもらいたいです。 |