特別報告
「被災地からのメッセージ」
福島県下水道公社
前副理事長 滝田久満氏
福島県は津波の直接的な被害を受けた市町村も多いのですが、何といっても福島第一原発の爆発による放射能被害といういまだかつてない深刻な事態に見舞われたことです。政府の命令により強制的に避難させられた方々、その人たちを受け入れた市町村、ともに未曾有の体験の連続でした。着の身着のままで避難してきた人たちのために、町民が徹夜で炊き出しをしたこと、そのご飯を見て「この恩は一生忘れない」と涙ながらに話してくれた避難民・・・。

津波から4日後の3月15日、原発3号機が水素爆発を起こしました。富岡町、川内村の人々はこれにより15キロ離れた郡山市に避難しました。郡山市ではすでにどこも避難民で一杯で受けいれられないと断ったそうですがそれでも避難の人たちは押し寄せました。寝るところもなく、みんな廊下の自動販売機の傍に寄り添って寝たそうです。自動販売機の熱で少しは温かいからです。「これは戦争だね。避難所では下水道もなく、トイレが使えなくて本当に不自由した」と話してくれた人のことが忘れられません。

6月21日、土壌浄化法ネットワークの人達と浜通りの市町村を訪ねました。相馬市では、終末処理場が損壊し、今は月に300万円かけてバキュームで処理をしているという話でした。土壌浄化法による下水道施設であればこのようなことは起こらなかっただろうに、と土壌浄化法のPR不足を痛感しました。新地町では、海岸線にあった処理場の建屋が壊滅的損害を受けましたが、電源は奇跡的に入ったそうです。しかし復旧には町の力だけでは不可能だと、担当者が言っておりました。下水道事業に関して言えば、今回のことで大規模ではだめだ、小規模でコンパクトな方がいい。規模に合わせて簡易な方法でやるべきだとしみじみ思いました。

今回の、災害での市町村の損害は403億円という試算が出ています。そのうち26〜27億は、下水道に関する被害です。これは原発事故によるものは含んでいません。これからまだまだ被害額は膨らむでしょう。市町村の財政圧迫ははかりしれません。原発事故の影響は、安定に向かっていると言いますが、まだまだ深刻な問題が山積しています。ともかく安心、安全、コンパクトな町づくりを目指し、地域が自分たちの下水道を作る、という考えを強く提唱するものです。(要旨)

「水道水源保全に向けた生活排水処理対策」
 
 
豊田市 小島郁夫下水道施設課課長
豊田市は平成17年に7市町村が合併いたしまして、人口約42万人の市になりました。 面積は918平方キロですが、そのうち628平方キロは今回新しく加わった4町2村です。そのほとんどは中山間部です。その山間部は汚水処理施設の普及が大幅に遅れておりまして、それが大きな課題となっております。この山間部は生活排水の処理は遅れておりますが、豊田市にとっては重要な水源地ともなっておりますので、この水源を守り、汚水処理も適切に行う、という大きな課題となっているのです。

 豊田市の水源である旧町村部、水源上流地区ですが合計26の自治区がありまして、そのうちの32%が合併浄化槽、37%は単独浄化槽、6%は汲取り式、26%が不明という状況です。旧豊田市の市街地区域は、公共下水道がほぼ完全に普及しているのですが、この水源でもある中山間部をどうするか、早急に取り組んでいかなければならないのですが、先程来話が出ているように大規模な公共下水道は莫大な費用がかかります。旧豊田市は、この間200億を越える巨費を投じて公共下水道を設置して来たわけで、同じようなことは経費の面からも、また山間部という立地条件からも、まったく不可能です。

豊田市は平成6年度から全国で初めて上流地域6町村の水源保全を目的とした水道水源保全基金」というものをスタートさせました。これは水道料金から1立法メートル当り1円の基金を積み立てる、というもので年間約4500万円になります。平成22年度でこの基金は4億8400万円ほどになっています。これは水道水源の水質保全事業として「水源の森事業」「水質保全対策事業」に活用しています。水質保全対策事業としては水源近くの家庭が高度処理型合併処理浄化槽へ切り替える場合の補助をしていますが年間約600基を整備しております。この事業で水質改善に一定の効果をあげてきているのですが、一方で課題、問題点も出てきています。浄化槽は維持管理に様々な問題があるのに、法定検査受検率がまだ低いこと、浄化槽そのものへの苦情が年間約30件ほどあることが挙げられます。だからといって小規模分散型の集落に対しては大規模下水道を作るわけにはいきません。当然方向は「小規模分散型下水道が必要」ということになります。

 

土壌浄化法は現在全国72か所で採用されていると承知しておりますが、小規模下水道としては多くの有利点を持っております。特に維持管理費が大変に低いこと(現在の豊田市の場合と比 較するとほぼ半分)など、持続可能な処理システムとして極めて魅力的です。東日本大震災で明らかになったように一極集中型から分散型がいいこと、特にリスクは分散させなくてはいけないなど、これからの下水道の在り方がはっきり見えてきたように思います。自然エネルギーや省エネルギーなど効率的な処理システムを採用しなくてはなりません。持続可能な下水道というわけです。これからは地域主権の時代です。地方自治体、地域の裁量で最も効果的な手法を選定して実施することが重要となります。

奥会津・山と川と湖の町からの報告
1日80m3規模の下水道を県の代行事業で実現する 
 
福島県金山町 長谷川律夫町長
福島県から参りましたが、原発の影響の全くない奥会津の金山町というところが私の住んでいるところです。しかし風評被害はありまして特に町長に対する風評被害は大変にひどくて(笑)…、それでも下水道の整備を現在着々とやっております。

実は金山町は昭和33年に町になって以来、下水道を整備するということを大きな目標としてやってきたのですが、私の前に町長だった人が自分が下水道を作るとぶち上げ、そして私が町長

 
全国大会の翌日以降、降り続いた雨により被災地に追い討ちをかける大災害となった金山町 
になる前にその下水道計画を放棄いたしました。まあ、その計画というのが大規模下水道で1か所に集めて処理をするというものだったのですが、私たちの町は横浜市と同じぐらいの広さのところに30の集落が点在しております。こんな山の中で下水道を作るというのは莫大な費用が必要で百数十億かかると言われますのでこれはできない相談です。

それが土壌浄化法に出会いまして(稲垣事務局長の熱心なお誘いです)今回80m3/日という小規模なものが国土交通省の認可になり、しかも福島県の県代行事業として実現することとなりました。本当に夢の実現で、ありがたい話です。これは私の部下が大変に勉強熱心で優秀だということでありますが、私もこれから下水道の専門家、プロフェッショナルを目指します。そしてこの土壌浄化法連絡協議会の会長の座を目指したいと思います。竹内会長、覚悟しておいてください(爆笑)。

最後に今回の大震災について申します。私の町を貫いて流れる只見川には27のダムがあります。金山町だけでも5か所にダムが作られています。そこで作られた電気は、すべて首都圏に運ばれているのです。私は地方の血と肉を全部都市が吸い取って行く、それであとは助成とかいって点滴を施しているだけというのが今までの日本であったと思います。国家貢献度が高ければ高いほどその地域は滅びて行く、という構図です。人の力を失って日本人の力がなくなって行く、今回の震災はそのことをまざまざと見せつけたと思います。復興にはもう一度「民の力」を取り戻すような政策、そして学問が必要だと思うのです。