基調講演
「大震災復興で下水道が果たす役割」
元建設省下水道部長
元日本下水道事業団理事長 中本 至氏
まずは「轍鮒の急」という言葉から話を始めます。この言葉は、ご存知の方も多いと思いますが紀元前4世紀に活躍した中国の思想家「荘子」の言葉です。雨でできた車の轍(わだち)の水溜りに鮒が取り残されています。早くしないと、轍の水溜りなどあっという間に干上がって鮒は死んでしまいます。この鮒をどうやって助けるか、これが「轍鮒の急」ということです。今、日本はまさにこの「轍鮒の急」の事態ではないでしょうか。

私は和歌、俳句を作るのですが、大震災に遭遇して詠んだ歌で、日経新聞、神奈川新聞などに掲載されたものを紹介します。
     黒梅雨や友は今なほ沖にあり
     夏に入る被災地いまだ貰ひ水
     「頑張れ」は耐えろの意味に等しくて被災の友に言ふに切なし
     友の死も授業再開はしゃぐ子ら明日を背負いて「僕は泣かない」

ところで、私は「下水道部長」とか「下水道事業団理事長」とかいう肩書で紹介されるのですが、本当の専門は「災害」なのです。今度の災害は、専門家としての僕の理解を遠く越えておりますがなぜこのような災害が起こったのか、なぜこれほど広範囲で大きな津波が発生したのか、大いに関心があります。

それはともかく、この復旧をどうするか、真剣に考えなくてはなりません。災害復旧というと「原型復帰」ということを連想します。災害の前の状態に戻すというのです。しかし、災害の復旧でこれをやってはだめです。元に戻しただけでは又同じ災害が起こったら、同じように被害が発生するのです。岩手県の田老町はそのいい例になったと思います。チリ津波の教訓から、高さ10メートルの堤防を作った。これで大丈夫と町民は逃げなかった。ところが今度の津波はその堤防を越えて襲って来たのです。災害復旧とはそのように難しく、安易にはできないのです。

私は下水道に係る前、様々な災害復旧で日本各地を訪れました。その時、例えば道路が壊れたら、元の状態に戻すというのではなく、災害に強い道路に作り替える、という発想でやってきました。一つの例は伊豆の七滝というところにある「ループ橋」です。あの橋は観光のために作ったのではない。再び災害の発生しない道路ということで、ああいう形になったのです。

 

ここで問題はこうした発想での復旧にはお金がかかる、ということです。しかし、まさに「轍鮒の急」なのです。今、思いきったことをしなくては必ず後で後悔することになる。財務担当者はできるだけお金をださないように考えますが、復旧の担当者は発想力でこれに対抗するのです。さあ、今の役人にこの発想力がありますかどうか。

木村さんが提唱している土壌浄化法、クリスタルコンテナはまさにこの発想の勝負です。これからです。みなさん大いにやりましょう。がんばりましょう。(要旨)