土壌浄化法の新時代到来
 〜東日本大震災が教えてくれるもの〜
全国市町村土壌浄化法連絡協議会
事務局長 稲垣 茂
世界に誇る技術の祭典「下水道展 '11東京」が去る7月26日〜29日の4日間にわたり、東京ビッグサイトにおいて、下水道事業に関係する国の機関はもとより全国町村会をはじめ各種団体連絡協議会等の幅広い分野から、最新の技術や時代を先取りした情報が発信され、313の団体・企業が1,018のブースに堂々展示がされました。

特に注目されたのは、我が連絡協議会正会員である福島県会津坂下町がパブリックブースの一画を貸切、今や「ばんげ方式」とまで呼ばれるようになった小規模分散型の下水道事業の採用経過や、国と国土交通省が積極的に進めている下水道普及率促進(現在74%までアップ)のための「クイックプロジェクト・社会実験制度」に既に整備済であった都市下水路や、地上を流れる排水路を有効利用(下水管を水路の壁面に露出させて設置)の提案によって、下水道事業の中で管渠工事に要する莫大なる費用負担が中小市町村の大きな課題の解消に繋がり、成功した実例紹介になったのであります。

時あたかも、東日本大震災発生から5ヶ月、地震・津波という今まで経験したことのないダブルパンチに下水道施設が未曽有の被害を受け、その早期復旧とライフラインとしての機能回復が強く望まれている時、従来の下水道施設の技術的な面について、被災した施設の復旧のあり方を検討する下水道展となったのであります。震災の影響によって開催が危ぶまれた、全国市町村土壌浄化法連絡協議会の平成23年度定例総会および第12回全国大会を同会場において催すことによって、今まで夢にまで見た下水道展との同時開催が実現したのであります。

大会の統一テーマを「大震災からの復興における下水道事業の役割と責任」を掲げ、会場には今まで土壌浄化法に長く携わってこられた方々や、これから土壌浄化法という極めて経済的でシンプルな処理施設を採用しようと、遠くから駆けつけてくれた地方自治体の首長さんの姿がありました。特に福島県金山町という尾瀬に源を発する只見川を利活用したダムの町からの参加は、下水道展最終日29日夕刻から発達した前線の影響で、記録的な豪雨によって金山町を中心とした奥会津に1,960世帯 4,990人に避難勧告が出されるというアクシデントに遭遇し、それはそれは忘れる事の出来ない大会となってしまいました。

全国大会からはいち早く帰郷されておりました金山町の長谷川律夫町長は、その徹夜による救命、救出活動とその適切な陣頭指揮は全く見事で、地域住民からは感嘆の声が上がっておりました。本当にご苦労様でありましたと同時に、被災された方々に心からお見舞いを申し上げ一刻も早く被災地の健全なる生活を取り戻して下さいと願わずにはいられません。

まさに土壌浄化法という民間が開発した自然の力を最大限利用した汚水処理技術は人と人との出会い≠ノよって実現できるものであります。この私も今から26年前に中本至先生(元建設省下水道部長・元日本下水道事業団理事長)との出会いによって現在にいたっておりますが、私が手作りで作成しました「土壌浄化法(回想)年表」に記録しました流れによって今がある訳であります。この中本先生と長谷川律夫町長の出会いは、国難というべき日本中が地震・津波・加えて原発という人類最大の生存テーマを突きつけられている時、その出会いは、まさに因縁さえを感じさせられるのであります。

中本先生のお話は、災害時の基本的な対応と長い経験で培われた専門的な見地から、これからの時代に求められる技術展望等について、今大会のテーマに基づく基調講演を独特の論法で熱く語っていただきました。続いて内閣府、総務省、環境省、国土交通省からそれぞれの分野のエキスパートの先生方から下水道事業に関する伝達講習があり意義ある大会となったのであります。

最後になりますが、私達は自然の力を大切にした土壌浄化法を守りながら、一般の人々がとかく敬遠しかねない下水道と忍耐強く付き合ってきました。特に土壌浄化法という汚水処理方法は我が国の下水道の歴史の中で亜流として位置付けられており、想像以上に厳しい条件の中で頑張ってきたのであります。今、自然災害や人的災害によって起こる自然が破壊的な危機にある時、自然に寄り添う感覚が必要ではないでしょうか・・・・・・。

私達を取り巻く自然は、本来生やさしいものではない。恵みの雨もあるが、それが降り止まず大きな災害をもたらすことだってある。自然は人間の都合などいささかも斟酌しないのである。

          秋きぬと目にはさやかに見えねども
                     風の音にぞおどろかれぬる

いにしえ人の感覚は、厳しい自然に寄り添う中に、このように鋭敏に研ぎ澄まされた、あまりにも有名な和歌を紹介し静かに筆をおきます。 ガンバロウ 日本