ふあああ〜・・・。
あ〜、よく寝た。春って、どうしてこんなに眠いんだろう。
今、何時かな・・・。
・・・・・・。
ええっ!? もう夕方の5時!?
あ〜あ、お昼ごはんの後、ちょっとお昼寝するだけのつもりだったのに。
今からじゃ、遊びにも行けないよ。
・・・・・・。
家の中は、がらんとしてる・・・。
先週、お父さんとお母さんがヨーロッパ旅行に行っちゃってから、この家にはわたしひとり。
あ、“さくら”はいるけどね。うちの飼い犬。
もう10年も一緒に暮らしてるから、家族みたいなものかな。
・・・・・・。
はあああ、でも、なんとなく寂しいなあ。
お父さんもお母さんも、「二度目の新婚旅行だ」なんて、年がいもなくはしゃいでいたけど・・・。
今頃は、パリのカフェでお茶でも飲んでるのかな。
・・・・・・。
それにしても、卒業式から、もう半月も経ったのか・・・。
なんとか卒業できたのはいいけど、
まだ就職先が決まってないんだよね。
はああ、どうしよう・・・。
・・・・・・。
(くぅ・・・)
え? 何の音?
(くぅ・・・)
やだ、お腹が鳴ってたんだ。寝てるだけでも、お腹って空くんだね。
とりあえず、晩ご飯の仕度をしないと・・・。
でも、めんどくさいなあ。
どうせひとりだし、カップラーメンかなにかで済ませちゃおうっと。
ピンポーン。
「あ、いっちゃん」
「やあ、美桜ちゃん」
「どうしたの、こんな時間に?」
「晩ご飯、うちに食べに来ない?
美桜ちゃん、ひとりきりじゃ、どうせカップラーメンかなにかなんだろ?」
図星だ・・・。
「な、なんでわかったの?」
「それくらい、わかるもんね。生まれた時からお隣同士なんだから。
母さんも腕を振るうって言ってるから、おいでよ」
「もちろん、行くけど・・・。
でも、なんで急に?ずいぶん親切じゃない」
「そう?
ひとりっきりで、寂しがってるんじゃないかと思ったんだけど」
「そんなことないよ。“さくら”もいるんだし」
「けどさ、その割には、
最近、“さくら”をかまってあげてないように見えるんだけどなあ。
今も、様子を見たら、寂しそうにくんくん鳴いてたし」
「う・・・」
確かに、ここ2日ばかり、散歩に連れて行ってあげてないなあ。
「自分が寂しい時って、周りのことが見えなくなっちゃうって、
誰かが言ってたよ。
就職が決まらないから、落ち込んじゃってるのはわかるんだけど、
そんな時こそ、元気を出さなくちゃ」
「え・・・」
「ほら、見てよ、庭の桜」
「・・・。
うわあ、つぼみがいっぱい!ぜんぜん気がつかなかったよ」
「今週が、花の盛りみたいだね。
知ってる?
ソメイヨシノは、たった1週間、満開の花を咲かせるために、
1年間かけて準備をするんだよ。
夏の暑さや、冬の寒さに耐えながらね」
「・・・」
「桜だって、見えないところで努力してるんだ。
だから、美桜ちゃんもがんばってよ」
「うん、ありがと」
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ああ、おいしかった。
いっちゃんのお母さんの料理って、絶品だもんね。
いっちゃんも、今日はなんとなくかっこよかったし。
励ましてくれて、嬉しかったな・・・。
幼馴染って、いいものだよね。
・・・・・・。
ふあああ〜・・・。
お腹がいっぱいになったら、また眠くなってきちゃった。
春って、どうしてこんなに・・・むにゃむにゃ・・・。
ドカーン!!
「きゃあ、なに!?」
「フフフフフ。春日美桜というのは、お前か?
ふん、“選ばれし乙女”という割には、さえない娘だな」
長くて赤い髪・・・黒ずくめの妙な和装・・・
そして不自然に尖った耳の、男・・・?
「キャーッ! コスプレの変質者!」
「・・・。“こすぷれ”とは何だ?
しばらく来ないうちに、人間界にも妙な言葉が増えたものだな」
「誰かーっ! 助けてーっ!!」
「フ・・・。いくら騒ごうと、私の結界の外に聞こえはしない。
女子供に騒がれて、面倒ごとに巻き込まれるのは願い下げだからな。
私はレイアス・ヴィアード。魔界を統べる死の王アーリマンの使徒だ」
何なの、この人!と、とにかく、落ち着かなきゃ・・・
「あ、あの・・・」
「私は、お前の魂をもらい受けに来た。魔界の繁栄のためにな」
「へ? 魂って?」
「今から1週間後、お前は死す運命にある。
「へえ、そうなんだ・・・。
・・・って、ちょっと待って!
わたしが死ぬ? そんなの聞いてないよ!」
「運命の輪は回り続ける。それに逆らうことはできない・・・。
その無垢な魂が、魔界の糧となることをありがたく思うがいい」
「そんな勝手な・・・」
「あと1週間だ。
それまで、私は人間界にとどまり、お前を見張り続けるとしよう。
天界から、邪魔が入らぬとも限らぬのでな。
断っておくが、逃げようなどと考えるのは無駄なことだ。
女の浅知恵など、私にはお見通しなのだからな。
では、いずれまた会おう、フフフ・・・」
「ちょっと、待っ・・・ええっ!」
き、消えちゃった・・・。
何だったの、あれ?
1週間後に、わたしが死ぬなんて言っていたけれど。
・・・・・・。
縁起でもない。
きっと、悪い夢だったのよ。
でも、あの悪魔、けっこういい男だったな・・・。
・・・・・・。
もう、何考えてるのよ!
くだらないこと考えてないで、
寝なおそうっと・・・。
・・・・・・。
あ、でも、ひとつ気になることを言っていたなあ。
“選ばれし乙女”って、何のことだろう?
ま、いいか・・・。むにゃむにゃ・・・。
ドカーン!!
「きゃあ! また!?」
「春日美桜さんだよね。
あなたはぁ、神をぅ、信じますかぁ?」
さらさらした金髪・・・やけにファンタジックな衣装・・・
そして、背中に白い羽根・・・
「キャーッ! コスプレの変質者が、
ひと晩にふたりも侵入して来るなんてー!」
「“こすぷれ”・・・?
俺、そんな名前じゃないんだけど」
「もう! 誰か、助けてよぉっ!!」
「怖がっている顔も、かわいいなあ。
でも、結界を張ってあるから、外には聞こえないよ。
俺はシエル・ファルセット。
天界で魂を守護する大天使ミカエルの使徒だよ」
もう、やだよぉ・・・
「あ、あの・・・」
「そんなに緊張しないでよ。
俺は、美桜さんの魂を天界に送り届けるだけで、
別にいじめようとか思ってるわけじゃないんだから」
「魂って・・・どういうこと?」
「実はね、1週間後に、美桜さんは天に召されるんだよ」
「あれ? さっきの悪魔も、同じこと言ってたような・・・」
「ふうん、やっぱりね。魔界からも手が伸びていたか。
そりゃ、やつらが“選ばれし乙女”の魂を見逃すわけないからね。
間に合って良かった」
「ぜんぜん良くないよ!
あと1週間でわたしが死ぬなんて、勝手なこと言っちゃってさ!」
「悪いけど、運命の輪を止めることはできないんだよ。
きみの無垢な魂は、天界にこそふさわしいんだ」
「また悪魔と同じこと言ってるよ・・・」
「いいかい、これからの1週間、何をするかで、
魂の落ち着き先が決まるんだよ。
よく考えて行動してね」
「そんな・・・。わたしの立場はどうなるのよ・・・」
「それじゃ、俺は人間界にとどまって、きみを見守ることにするよ。
魔界のやつらの動きも、気になるからさ。
今度、デートしようね。それじゃ、またね」
「あ・・・」
また、消えちゃった・・・。
もう! 悪魔と天使の夢を続けて見るなんて、どういう夜なのよ!
それとも、夢じゃなかったのかなあ。
でも、そうだとしたら、コスプレの変質者がふたりも近所をうろついてるってこと?
警察に連絡した方がいいかな?
だけど、信じてもらえそうもないなあ。証拠もないし。
明日になったら、いっちゃんに相談してみようかな。
・・・・・・。
1週間後にわたしが死ぬなんて、ばかみたい。
でも、あの天使、
金髪がさらさらして、ちょっと素敵だったな・・・。
・・・・・・。
それにしても、自分が死ぬなんて事、今まで考えたこともなかったよ。
・・・そうだ!
あと1週間しか命がないと思って生活すれば、
きっと毎日が充実したものになるよね。
・・・・・・。
悪魔や天使の言うことなんか、信じないけれど、
せっかくの春休みなんだし、一生懸命、生きてみよう。
とりあえず、今は一生懸命、寝ようかな・・・むにゃむにゃ・・・。
(本編へ続く)
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