僕のヒーロー



「ツッキーすごい!」
「さすがツッキー!」
「ツッキー!」
「ツッキー!!」

何十回、何百回、いや何千回と聞いてきた台詞だ。
よくもまあ、飽きもせず繰り返せるものだと逆に感心してしまう。

いつものようにヘッドホンを付けながら帰ろうとすると、山口が後ろから走ってついてくる。
「ねえツッキー」
僕が聞いているかもわからないのに、ペラペラとなんて楽しそうに話すんだろう。
山口が話しているときは音量を消していることなんて気付かれているはずがないのに。

「今日のツッキーもすごかったね!」
まるで自分のことのように嬉しそうに話す。プレーがどうとか、態度がどうとか、言動がどうとか、些細なことまで誇らしそうに。


なんで?
なんで、ぼくにはそんな価値なんてないのに。


「ねえ、なんで僕なの?」
「え?」
お前が僕を褒めるたびに、嬉しさと同時に苦しさが生まれる。それは棘のようにちくちくと心を刺し、痛みは積み重なっていく。少しずつ、じわじわと。

ぽつんと呟いただけの言葉を、それでも山口は正確にくみ取ったようでパッと顔を輝かせた。

「だってツッキーはオレのヒーローだもん」

自信満々に胸を張られて、こっちは胸が痛くなった。とてもイライラする。

それはこの前の練習試合での不甲斐なさだったり、それを引き摺って練習でもミスばかりしている自分に対してのものでもあり、つまりは今僕は山口に八つ当たりしているのだ。
そう分かってはいるのだが、一度高ぶった感情はそう簡単に止められない。この間からの自分への不満やら不安やら、そういったものが一気に吹き出してきてしまう。
自分を守るために押し込めて隠してきたものが溢れてきてしまう。

「ヒーローってなに」
怒りのあまり声が震える。のんきに僕を見る山口に腹が立つ。
「僕はヒーローなんかじゃない」
きっと今自分は情けない顔をしている。こんな表情、誰にも見せたくないのに。
「勝手にお前の理想を僕に押しつけるなよ」
今までため込んでいたものと一緒に吐き捨てるように溢した。本当に、こんなのただの八つ当たりだ。

山口の理想の「ツッキー」はどこにもいない。
いるのは「すごい」とか「さすが」なんて言われる価値もない、ただの普通の高校1年生なだけの「月島蛍」だ。
最初は嬉しさと恥ずかしさしかなかった山口の言葉が、だんだんと痛みを伴うようになったのはいつからだろう。
山口の見る「ツッキー」と、本当の自分とのギャップに不安になって。いつしか勝手に自分の理想を押しつけてくる山口に苛立つようになって。
本当の僕は、こんなに弱くて情けないのに。


「何言ってるの、ツッキー」
でも山口は、そんな八つ当たりさえも受けとめる。
「理想も何も、今のツッキーがオレのヒーローなんだって」
「は?」
オレの表情を読み取り、うーとかあーとか唸りながら必死に伝えようとする。
「だから、ツッキーはツッキーなの。試合でミスしてもなんか情けないとことかあっても、全部ツッキーじゃん。そういうとこ全部含めて、オレはツッキーが好きなの。オレのヒーローなの!」

自信満々の言葉に、思わず大きくため息を吐いた。顔を手で覆うオーバーリアクションは、顔に集まる熱を自覚したからだ。
「ほんと、よく言えるよねそういうこと」
「照れてるツッキーもツッキーだしね!」
「うるさいよ山口」
「ごめんツッキー!」

山口は、僕が思う以上に僕のことを理解してくれていて、そして僕は、僕が思う以上に山口に心を開いているらしい。
そのことに僕より先に山口の方が気がついているなんて、何だか癪だけど。

「……ありがと」

ぼそりと、独り言よりも小さく呟いただけなのに山口はパッと満面の笑みになった。
まるで忠犬のようなその様子に思わず笑みを溢すと、「ツッキー、肉まん食べてこう」と上機嫌に腕を引かれた。






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