もし菅影の関係が周りにオープンだったら



男子高校生が興味がある話題といえば、なんといっても恋バナである。

それはバレーに夢中なこの烏野高校排球部でも例外でなく、体育館の都合でミーティングのみで終わり体力が有り余っている部活後など、エネルギーがその話題に向かっていっても無理はないだろう。

「あー彼女ほしー!!」
田中がいつものように吼えると「お前それ毎日言ってるよな」というツッコミが入る。
「つーか潔子さんに彼女になってほしー!!」
あはは、と余裕のある笑みを浮かべるのは彼女のいる2年生。「まあがんばれよ」という上から発言にイラッとしたまま「調子に乗るなよ勝ち組ィ」とギッと睨む。

2年生の輪とは別に。1年生は1年生で集まって今日の晩ご飯について話している。
田中は今度はこっちをターゲットにすることにした。

「なぁ日向、お前まさか彼女なんていないよなぁ」
がしっと肩を組み、周りから恐いと言われる笑顔で思い切りプレッシャーをかけながら聞く。
素直な日向はそのまま素直に「いないですよー」と頬を膨らませながら返す。「カノジョ、イイ響きですよね」とうっとりした表情で言っているのを見て田中は安心する。コイツは仲間だ。

「で、月島クンはどうかな?」
ぐりん、と首を回し今度は月島にホラーな笑顔を向ける。
「今はいないです」
挑発するように“今は”に力を入れて言うので、田中は月島の思惑通り額に青筋を立ててピクリと肩を揺らす。
しかし田中がそこにツッコむ前に
「山口もいないよね」
「えっ、う、うん!」
とサラリと山口に話題を逸らせ、田中はツッコむタイミングを失った。周囲の人間は上手いなと感心しつつも、どんな場面でも人をからかおうとする月島の根性に呆れた。
結果、田中は中指を立てるだけに留まった。

「影山は?」
月島に上手くかわされムカムカとしたまま聞く。
「いないです」
「だよなぁ」
よかった、1年に敵はいないと嬉しそうな田中。いやお前らは味方だと思ったよ、と上機嫌な田中は影山の次の言葉に固まった。

「彼氏ならいますけど」

シーン

一瞬にして部屋の空気が固まる。先程までのワイワイとした雰囲気が嘘のように、誰も動かない、何も聞こえない。

その沈黙を破ったのは日向だった。
「え。何カレシって。お前って男と付き合ってんの?」
まだよく分かっていない顔でアッサリと聞きにくいことを聞く。
「おお」
「男が好きなの?」
「いや、たまたま付き合ってるのが男なだけ」
聞きにくいことをスバズバ切り込んでいく日向に、周りはハラハラしつつも内心拍手を送っていた。恐いもの知らずというか、とりあえず自分なら色んな意味で怖くて聞けないと思う。
というか、こんな重大なことを何でもないことのように普通に話す影山がすごい。
冗談でもなさそうだし、というかこういう冗談を言うような奴じゃないし。こんな大事っぽいことをこんなにアッサリ言って良いのか。何も考えていないのかも知れない。影山だし。
「誰と付き合ってんの?」
そこまで聞くか、日向!周りはいよいよドキドキした。いやそりゃすごい聞きたいし気になるけどもそんなどストレートに。
「菅原さん」

「「「え!!??」」」

アッサリと答えた影山の声から遅れて数秒、全員の叫び声が重なった。

「菅原さんって、菅原さん!?」
「他に誰がいるんだよ」
周りはまた驚いて口をぽかんと開けたまま声が出ないので、みんなの代表日向がまたもや突っ込んでいく。
「え?何で付き合ってんの?」
「何でって……好きだからに決まってるだろ」

シ……ン……

驚いたというか、あまりにあまりな展開にまたこの部屋を沈黙が襲った。言葉が出ない。あれか、これがクーデレというヤツか、と思わず思考が脱線していく。


そこで外から声が近づいてきてドアが開いた。菅原と澤村が談笑しながら入ってきたのだ。
「ちーっす」
いつものようににこやかに入ってきた二人に一斉に目が向けられる。部屋は沈黙に支配されたままだ。
要するに、異常な状況である。
「え!?」
普通に入ってきた二人はその部屋の様子にビビった。一体何が起きているんだ。
「な、何!?」
特に視線を一身に浴びることとなった菅原は、身に覚えがない注目に焦る。

ここでも恐れを知らぬ無邪気代表日向が切り込んだ。
「菅原サン!なんで影山と付き合ってるんですか!?」
「!!?」
いきなりの赤裸々な質問に菅原は心臓が止まるほど驚く。小心者の心臓は繊細なのだ。思わず一歩身を引き、この場から逃げだしたくなる。
「ちょ……何!?いきなり!」
「だって、影山が菅原さんと付き合ってるって言うから」
そこでやっとこの状況が何となく理解できて、端にいた影山を睨む。影山は「え?何が悪いの?」的な表情をしていて、菅原は「そうだよこういうヤツだよ……」と諦めの溜息をついた。
なんというか、こういう状況になったからにはしょうがない。だって相手はあの影山だし。

「……影山と付き合ってるよ」
改めて菅原の口から聞くと、本当に本当なんだ、と思う。ようやく田中が口を開いた。
「大地さんは知ってたんスか」
「まあな」
隣で、あー大変だな、という顔で苦笑している澤村は、当の影山を除けばこの場で唯一動揺していない人間だ。

「菅原さん!何で影山なんですか?」
日向は影山の腕を引っ張って食いかかる。
「だってコイツ、すげー意地悪だし、エラそうだし!」
納得いかないという思いが顔いっぱいに表れている。
影山は「テメェ」と日向の襟首を掴み、売られたケンカは買うモードだ。

「まぁまぁ」
菅原の“影山押さえ係”が発動した。
「ほら!こんなにイジワルなのに!」
「まぁ……」
日向の方は澤村が押さえ、菅原はどう言えばいいかを考えるように影山を見た。
「影山は口が悪いだけなんだよ」
「なんで口が悪いのに付き合うんですか?」
言外に「菅原さんならもっといい人が居そうなのに!」と言いたそうだ。
日向としては、尊敬する優しい先輩がどうして性格の悪い(そして自分とぶつかってばかりいる)同級生と付き合うことになったのか、納得がいかないのだろう。日向も、影山のバレーに関してだけはものすごく認めているが。

菅原はもう一度影山を見た。
どうして付き合ったか、とか、影山のどこが好きか、なんてそんな理由はたくさんたくさんある。
でもそれをうまく言葉で表せる自信はないし、今それを言ったらただのノロケになりそうで恥ずかしい。

だから少し考えてこう言った。

「影山の可愛いトコロは俺だけが知ってればいいの。だから内緒」

ピキッ……と再び空気が凍った。
正直、普通のノロケより破壊力があった気がする。周りで聞いていた者たちは何とも言えない気持ちでムズ痒くなるような思いを抑えていた。
日向も口をとがらせつつも、渋々といった様子で引き下がった。菅原さんがそんなに言うならいいんだろう、ということだろう。

と、今度は田中が興味津々な様子でコソコソと聞いてきた。
「で、二人はどこまでいったんすか」
「あ」
またもアッサリ口を開こうとする影山の口を、菅原の手がものすごい勢いで塞いだ。
「いや、それこそ秘密なトコだろ」
恥ずかしさに顔を赤く染めた菅原を見て、「スンマセン」と田中も素直に引き下がる。
そんな田中の肩をポンと叩き、「まぁそこはスガも恥ずかしいだろうしな」と柔らかく微笑んでくれる、そんな澤村のフォローに菅原は感謝した。
「つーかお前も言おうとするな!」
影山に言うと、さっきの日向のように口を尖らせながら「すみません」と口先だけで言っていた。


「じゃあさ、影山が王様で、それで菅原さんと付き合ってるんだから……」
パッと思いついたように、日向が菅原と影山の顔を見る。
「菅原さんってお姫様?」
「お姫様の相手は王子様デショ」
思いっきり馬鹿にした目で月島が日向に突っ込む。
「お姫様って王様の娘だし」
「王様の相手ならお后様だな」
「じゃあ菅原さんはお后様だ!」
すごい発見をした、という風に声を上げる日向に菅原は苦笑する・
「お后様って……」
「つーか、王様ヤメロ」
再び影山が日向に突っかかる。周りがからかって、さあっそく菅原を「お后様」と呼ぶ。


いつも通りの烏野の空気に、こっそりと、菅原は一人ホッと胸をなで下ろした。
隣に来た澤村が静かに「よかったな」と声をかける。
「……うん。ありがとう」
菅原の肩をポンと叩くと、にこっと安心させるように笑う。
そのまま日向と影山を止めに向かい、今度は入れ替わりに日向と無理矢理引きはがされた影山がやってきた。

「菅原さん、怒ってますか?」
「いや」
影山に微笑むと、眩しそうにみんなを見渡した。

「烏野って、いいチームだな」


今日も烏野高校排球部は平和です。






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