合宿の定番 怪談編



烏野高校排球部は、エースと守護神が戻り、新たにコーチも迎えて本格的に始動した。さっそく合宿が始まり、強くなるために少しの時間も無駄にはできないと練習に励む日々だ。
コーチの指示はやはり的確で、練習の密度も濃く、クタクタになった体を風呂に入りほぐすと、あとは眠りの世界に落ちていくだけだ。

だが、自分たちで敷いた布団にダイブしさあ寝ようと目を閉じようとした1年生ズに先輩から待ったの声がかかった。
「おい、まさかお前ら寝るつもりじゃないよな?」
「え?寝ないんですか?」
「合宿の夜といったら怪談話に決まってるだろ!」
ビシッと指を突きつけられ日向は思わずグッと首を反らせた。田中と西谷は鼻息荒く「これがないと合宿って気がしないよなー」と二人で盛り上がっている。
「おい、明日も朝早いんだからほどほどにしとけよ」
大地がコーチや顧問との打ち合わせのため不在の今、この場をまとめるのは自分だという責任感から菅原が声をかける。しかし二人に「スガさんもいっしょにやりましょうよ!」と満面の笑みで言われて思わずウッと詰まった。
(わ~そんな眩しい笑顔で……)
後輩のこの笑顔には弱い。同じ3年の旭に助けを求めようと視線を向けるが、既に諦めている彼はただ苦笑を浮かべるのみだ。というか最初からこの二人に抵抗する気など無いのだろう。
「……大地が戻ってくるまでな」
多分大地が戻ってきたらその場で強制終了だろう。きっと自分も巻き込まれるだろうが、まあ後輩たちの気が済むのならそれでいい。
ちなみに縁下など他の2,3年生は、田中たちがいる方とは逆の端に布団を寄せ、すでに就寝態勢に入っている。触らぬ神に何とやらだ。さすがに学習している。


「おし、じゃあ1年。一人ずつ怖い話な!」
「えー。もう眠いのに」
口を尖らせる日向に「先輩命令は絶対!」と年上の権力を思い切り振りかざしながら雰囲気を出すために電気を消す。
「おお、怪談っぽい雰囲気!」
ただ電気を消しただけなのに西谷が嬉しそうにはしゃぐ。そしてその笑顔のまま言った。
「まさか先輩に逆らったりしないよな?」
窓からのほのかな明かりで照らされたその顔を見て日向は「ハイ」と寝ることを諦めた。
影山も面倒くさいという顔を隠さないが、それでも先輩の言うことには素直に従っている。

しかし月島だけは「僕はパス」と布団に潜ってしまった。
「めんどくさいし、やる意味が分かんないし」
「おやあ?月島クン、まさか怖いんでちゅか~?」
田中が思いきりバカにした口調で言うが、月島は動じない。
「悪いですが挑発に乗る気はないんで」
ヘッドホンを付けて寝る態勢に入った月島に向かって、「え」と山口が驚いた声を上げた。
「ツッキー怖い話ダメなの?」
「……何言ってんの?」
「そっか~怖い話苦手だったんだ。じゃあ怪談話も無理だよね!」
「……」
田中と違い山口の発言には一切の悪意がない。だからこそ月島はいたたまれなくなった。
「無理しなくていいよ、ツッキー!」
「……やればいいんでしょ、やれば」
ヘッドホンを外し不機嫌な顔を隠そうともしないで月島が輪に加わった。山口の顔をじろりと睨むが当の本人は何も気付いていない。
山口とのやりとりをケラケラ笑いながら見ている田中と西谷もついでに睨んでおいた。
「え、ツッキー大丈夫?」
「だから、別に怖くないっての」
ほんとこいつヤダ……と月島はため息を吐く。


というわけで、1年生4人、田中、西谷、菅原、東峰による怪談話大会が行われることとなった。
みんなで布団をくっつけて顔をつきあわせる。電気は消しているので外からの明かりでそれぞれの顔がぼんやりと見える程度だ。ムードは満点といえるだろう。


「じゃあ月島からいくか」
「はいはい。じゃ、中学の時に知り合いから聞いた話なんだけど……」
渋々といった様子で話し始めた月島だったが、その語り口は本格的だった。話し方や強弱、声のトーンが人を怖がらせるツボを心得ている。話自体はわりとありきたりだとは思うのだが、月島が話すと内容の数倍怖く聞こえる。旭は(さすがドSと言われるだけあるな)と感心していた。
「その人は、ずーっと憧れていた女の子とやっとデートの約束を取り付けたんだ。本当に長い間片思いしてたから、夢みたいだってすごく喜んで、その日からずっとそのデートのことばかり考えていた。
行く場所は彼女の希望で公園だったから、雨が降ったら中止にすることになっていた。だから男は絶対に晴れますようにって強く強く思いを込めて、てるてる坊主を作った。わざわざ大きい真っ白いハンカチまで買ってね。顔を描くときも心を込めて、慎重に描いた。
でも、天気予報を見るとどうも雲行きが怪しい。約束の日が近づくにつれて、男はますます強くてるてる坊主に願うようになった。
そして当日。天気は土砂降りの雨。
デートはもちろん中止になり、男はとても悲しんだ。悲しくて悲しくて、窓辺につるしてあったてるてる坊主に八つ当たりをした。お前なんか全く役に立たないじゃないかって乱暴に外すと床や壁にたたきつけたり踏んだりした。結局天気なんて僕たちにどうこうできるものじゃないからね、どこかに怒りの矛先を向けたかったんだと思う。
そしてそれだけじゃ足らずに、とうとう男はてるてる坊主の頭を引きちぎった」

ごくり、と誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。いつの間にか先ほどまで聞こえていた周りの部員たちのざわめきも消えている。もう眠ったのだろうか。

「グッと引っ張って頭を引きちぎって、男はギョッとした。ちぎった場所から真っ赤な血が流れてきたんだ。ただのてるてる坊主なのに、真っ白な布がどんどん赤く染まっていく。自分の手にもその赤い血が流れてきて、手を伝うどろっとしたリアルな感触に思わず悲鳴を上げて、てるてる坊主を投げ出した。
そうしたらちょうどてるてる坊主の頭が転がって、顔がこちらを向いたんだ。
ニコニコと笑っている顔に描いたはずのてるてる坊主は、般若のような世にも恐ろしい顔に変わっていた。目はぎょろっと剥いていて口からは血を流している。
男が腰を抜かすと、その目がぐるんと動いた。てるてる坊主と目が合った男は、一際大きな悲鳴を上げた。


その後、3日経っても男と連絡が付かないことを不審に思った友人が家を訪ねると、男は部屋のどこにもいない。さっきまでそこで生活していたような痕跡はあるんだけど、姿がどこにもない。どこかに出かけた様子もない。
不思議に思った友人は窓際まで歩いていってギョッとした。

床にはまるで血のような赤いシミが点々と落ちていて、そのまま視線を上げるとそこにはとてつもない恐怖に直面したような、この世のものとは思えないほどの苦悶の表情を浮かべたてるてる坊主が吊されていたんだって」


ふう、と息を吐いて月島は言った。
「僕の話はこれでおしまい」
「お、おお……」
月島の雰囲気に呑まれ、部屋全体が沈黙している。
「あれ?もしかして怖すぎました?」
さっきの仕返しといわんばかりにニヤニヤと笑う月島に「んなわけねーだろ!」と強がりつつも田中も西谷も表情が強ばっている。ついでにいうと、東峰も。
「まあ、最初だしな、軽いジョブだぜ」
田中が必死に虚勢を張るが、月島のニヤニヤ笑いは止まない。
「あぁん?笑ってんじゃねえよ」
クッ、と思いながらも「じゃあ次!山口!」と声を張る。
「うーん、オレあんまり知らないんですけど」
「とりあえず怪談っぽけりゃいいだろ」
「じゃあ……」
山口は低い声で語り始めた。

「オレのいとこの話なんですけど。なんか昔、人形を貰ったらしいんですよね、知り合いに。で、その人形を自分の部屋の棚に入れて飾っていたんだって。目が大きい人形で、夜とかちょっと視線が気になることもあったらしいんですけど、まあ気にせずずっとソコに置いていたらしいです。
でもそのうち、夜寝ているときにその人形のいる棚から、なにやらうめき声のような、呪文のような声が聞こえてくるようになったらしいんですよ。夜中みたいにシンとした中でしか聞こえないほどの小さな声なんですけど。
最初は空耳かと思っていたんだそうですが、やっぱり毎晩続くと気になる。ためしに、隣の部屋にいる弟と部屋を交換してみました。そうしたら、弟も声が聞こえたと。その上、その人形がじっとこちらを見つめている気がすると。
普段わりと強気な弟が、あの人形が怖いからもうその部屋では寝たくないと言い出して、いよいよ焦りました。
しかし貰い物だし、そのまま捨てるのも憚られるということでとりあえずそのまま部屋に置いておきました。慣れてくればボソボソと聞こえる声も気にならなくなってきたようです。

事件が起きたのは、その頃でした。
その日は用事があって家に帰るのが夜中になりました。いつものように部屋に入ると、何か違和感を感じる。部屋を見渡すと、何故かいつもは棚の中にあるはずの人形が今日は棚の上にある。そしてその視線は真っ直ぐ自分に向いています。
思わず息を呑みました。なぜ人形が移動しているのだろう?恐怖に動けなくなり、人形と見つめ合う形になりました。

どれくらい経ったのか、突然その人形の口が動きました。そして今までのボソボソとした声とは比較にならないほど大きな声が、突然部屋に響いたのです。

『ファー…ブルスコ…ファー…モルスァ』」



「それただのファー●ーじゃねえか!!!!」

真剣に聞いていた面々は突如入った田中の激しいつっこみに思わず肩を揺らした。
「ちなみに母親が掃除したときに場所を動かして、ついでに電池を入れ替えたらしいです」
「んな真剣な顔で補足することじゃねーだろ!」
途中まで月島のような本格的な話かと聞いていた分、オチのあまりのひどさに緊張の糸が切れたようだ。田中は目をつり上げたまま「もういい、次、日向!」と指名した。
「え、え、おれですか?」
「いいか、怪談話をするんだぞ!?」
先ほどの教訓か念を押す。
「うーん、怪談話……」
眉間に皺を寄せて暫く考えていた日向が、難しい顔のまま口を開いた。
「じゃあ、肉まんの話なんですけど……」
この時点で既に怪談話じゃないと誰もが思った。

「その日はすごく肉まんが食べたい気分だったんですよ。でも、部活が終わって買いに行ったら全部売り切れで。他のコンビニとかも行ってみたんですけど、たまたまどこにも置いてなかったんですよ。で、食べたい食べたい~って気分のまま悶々として。
そうしたら、家に帰るとなんとテーブルの上にすっごくたくさんの肉まんが山盛りに置いてあったんですよ。本当に、これくらい山みたいにあって。
すげーって嬉しくなって、早速食べ始めたんです。最初はすごくオイシイし嬉しいしよかったんですけど、だんだん変だなって思うようになって。
もうだいぶお腹いっぱいなのに、手が止まらないんです。もう食べなくていいよって思うのに、手は次から次へと肉まんを掴んで口に放り込む。もう苦しい、嫌だって思っても手が止められないんです。
そのうち口の中が肉まんでいっぱいになって息も苦しくなってきて、ああ、おれは肉まんの食べすぎて死ぬんだって思ったときに目が覚めました。

それが、この前夕飯を食べ過ぎた日に見た夢です」

きりっ、とまじめな顔で締めた日向にみんながため息を吐いた。
「誰がお前の夢の話しろっつったよ」
西谷も呆れている。日向は
「え?怪談って怖い話でしょ?最近一番怖かったのってそれなんですけど」
と、きょとんとしている。菅原は、「まあ、怖いっちゃ怖いよなあ」と苦笑した。
「それのどこが怪談だよ、ボゲ」
日向の隣にいた影山が言うと、日向も「ウルセーなあ、どう見ても怪談だろ!」と言い返す。
いつものような言い争いになりそうな雰囲気だったが、
「まあいい、次、影山」
と田中が言って、1年でこぼこコンビの言い争いは一旦お預けとなった。

「この前の嵐の日なんですけど。あのすごい風と雨だった日。あの日たまたま家族がみんな用事で家にいなかったんです。
それで、夜、雨の音とか風の音とかすごいなーと思いながら寝てたんですけど、あまりに音がすごいから眠りも結構浅かったみたいで、何回も寝たり起きたりを繰り返してたんス。
それで、ガタガタ、っとすごい音がしてハッと起きたら、なぜか体が動かない。金縛りだと思いました。起き上がろうと思っても、何かが体の上に乗っているようで起き上がれない。
指先とか、肘から先は動いたんでとりあえず腕を動かしてみたら、柔らかいものに触れました。そのまま動かしていくと、サラサラとした髪に触れて、そこでようやく気がつきました。
そういえば昨晩……」

「あ」
突然菅原が声を上げると、「影山、ストップ!」と焦ったように隣にいた影山に手を伸ばす。
「?なんスか」
「や、それってさぁ……
……いや、あの、その話全然怖くないから、他の話に変えてくんない?」
「え?」
突然の菅原の提案に周りもポカンとする。一人、月島だけは気がついたようでニヤニヤしながら「続き聞きたいな~」と言っていたが、菅原に「先輩命令」と言われ大人しく引き下がった。
「どうしたんすか?スガさん」
「だって今の話面白くないし」
西谷も不思議そうに聞くが、菅原は「もうこの話は終わり」の一点張りだ。その静かな迫力に、田中も「まあ確かにあんま怖くないしな」と影山に他の話を要求した。

菅原はこの部屋の暗闇に感謝した。赤い顔がバレずにすむ。

影山は唇を尖らせながらも、違う話を探し始めた。

「じゃあ……
俺んちの近所に、山田さんって言う家族が住んでるんです。俺も挨拶くらいしかしたことないんですけど、優しそうな奥さんに、真面目そうな旦那さん、小学生くらいの二人の子どもっていう、普通の家族です。その旦那さんと家出る時間が一緒みたいで、よく朝練行くときに顔合わせるんですよ。
ビシッとスーツ来てほんと普通のサラリーマンって感じで。たまに奥さんが家の前まで見送りに出てきたりとか。で、休みの日とかは子どもが家の前で遊んでたりするんですよ。ごくごく普通の幸せな家族って感じです。

それで、この前みんなでラーメン食って帰った日ありましたよね?あの日結構家帰るの遅くなったんですけど、そのときちょっと変な人を見つけたんですよね。俺の前を歩いてたんですけど、上はピンクのキャミソール?っていうんすかね、それ着てて、下は制服みたいなスカートはいてて。足はルーズソックスにハイヒール履いてたんですよ。
驚いたのはそれ着てたのが男の人で、しかも中年くらいの人だったんです。腕とかお腹とか肉がはみ出してるし、むだ毛とかもそのままだし、うわーなんか変な人がいるなって思いました。
別にそういう趣味の人もいると思うし、悪いことしてるわけじゃないんでいいんですけど。ただやっぱりちょっとどういう人か気になって、趣味悪いとは思うんですけど少し早歩きしてその人の前に行ったんです。で、チラッと顔を見てみたら、その人、山田さんの旦那さんだったんですよ。
すげー驚いて、暫く歩いてまた振り向いたらちょうど山田さんが家に入るところだったんですけど、山田さんに一体何があったのかを考えるとちょっと怖いッス。次の日の朝はいつも通り普通にスーツで出勤してたし」

「……たしかに、ある意味怖い話ではあるな」
ただしそれを怪談と呼ぶかどうかは別だが。

みんなが微妙な表情でどうリアクションすればいいか戸惑っていると、日向が「なんだよ、影山のも別に怪談じゃねーじゃん」と言った。
「ああ?」
「ヤメロ!っつーかお前らの中でちゃんと怪談話したの月島だけじゃねーか……」
田中が大きなため息を吐く。
「なんか盛り上がらねーなあ」
西谷も頬杖を突きながら不満げだ。

「あ、じゃあ俺話そうか?」
「お、スガさん」
先ほど影山の話を中断させた負い目もあって、菅原が小さく手をあげた。
「ぜひお願いしまっス!」
西谷も菅原に期待して目を輝かせている。
「話上手くないからあんま期待するなよ?

俺も先輩から聞いたんだけど、この学校って出るらしいんだよ。昼間は全然なんだけど、夜になるとやっぱ感じるヤツは感じるんだって。

ウチの学校って、何で烏野って名前だか知ってる?昔、ここって何かの施設だったんだって。軍とかそういう関係らしいから極秘扱いでほとんど情報はないんだけど、なにか実験とかしてたらしい。それも、生物を使ったヤツ。
まあそういう施設はこの辺に色々あったらしいんだけどね、ここにあった施設では鳥を使った実験を多くやっていて、その中でも烏を特に多く使っていたらしいよ。たしかにこの辺昔から多いらしいもんな、烏。

でも、その施設はある日突然閉鎖されることになった。どうも、烏の祟りがあったらしい。

その日、いつものように職員が出勤すると、先に来ていた一人の様子がどうもおかしい。生ゴミを入れたゴミ箱に顔を突っ込んで何かを食いちぎっている音がする。
驚いてその人をひっつかみゴミ箱から離すと、その人がこちらを向いた。その瞬間、ゾッとした。その目はガラス玉のように真っ黒で、まるで感情が感じられない。生気も何もない、まるで死人のような目だったんだ。
しかも口元からは生ゴミの据えた臭いがして、腐りかけた生ゴミを口の周りに沢山くっつけている。
その様子を見て、職員は思った。まるで烏だと。

そのとき、もう一人職員がやってきた。その人は烏のようになってしまった同僚を見て悲鳴を上げると、変わり果ててしまった同僚を取り押さえようと腕を掴んだ。
しかし烏のようになったその人は、腕を掴まれると激しく抵抗した。そして自由に動かせる口をつかい……腕を掴んできた同僚の喉元に食らいつき、噛みちぎった。

その場所がちょうど、今俺らが寝てるこの下……」


「おい、お前ら!」

「「ギャー!!!」」


緊迫した空気の中で静かに語る菅原の話に耳を傾けていた面々は、突然の強い光と大きい声に比喩ではなく本当に飛び上がるほど驚いた。
「いつまで起きてるんだ!ああ?!」
「明日も早いんだから早く寝てゆっくり体を休めなきゃ」
開け放たれた扉から見下ろすコーチの姿とその後ろにいる顧問の姿を認め、ひとまず胸をなで下ろす。一瞬烏に祟られた人間だったらどうしようと思ってしまった。
それぞれが、そそくさと自分の布団に戻っていく。

「じゃあな。明日起きられなかったら練習メニュー3倍だぞ!」
「じゃあみんな、おやすみ」
釘を刺してコーチと顧問が部屋に戻る。二人と一緒に戻ってきた大地は、菅原の隣の布団に入ると「何やってたんだ?」と小声で聞いた。
「ん?怪談話」
「ああ……」
それで先ほどの叫び声と怯えようか、と納得する。
「ま、ビビったせいでみんな布団に潜り込んだみたいだし、もう結構な時間だしな」
必要ないかとも思ったが、大地は一応
「これ以降しゃべったら明日俺特製の裏メニュー追加だからな。覚悟しとけー」
と声をかけておいた。


そんなこと言われても、あんな話をされてすぐに眠れるわけがない。

山口は、とりあえず隣の月島の布団に潜り込んだ。
「おい、山口」
「シーッ、ツッキー」
「いや、お前何勝手に入ってきてんの?邪魔なんだけど」
「だってあんな話の後で一人で寝るなんて無理だし」
大地にバレないように布団の中でコソコソとやりとりをする。
「僕は一人で寝れるんだけど。自分の布団に戻ってくれる?」
心底嫌そうに言われるが山口も譲らない。
「無理!お願いツッキー、今日だけだから!」
「嫌だね」
「お願い!」
「ちょ、声でかい」
山口の声が焦りでだんだん大きくなり、月島は慌てて山口の口を手で覆う。月島を見上げる山口の目は涙目だった。
自分でも甘いと思うが、つい絆されてしまう。
「……もう勝手にすれば」
「ありがとうツッキー!ツッキー優しい!!」
「おい、ひっつくなよ」



「旭さん、そっち行ってもいいですか?」
「あっ、ノヤっさんズリい!俺も行っていいですか旭さん!」
すでに旭は諦めていた。
「……もう、二人ともおいで」
主催者であるはずの田中と西谷に挟まれている旭は、両側にひっつき虫をひっつかせながら寝る羽目になった。
(……狭い)
しかも二人とも豪快な寝相だし鼾もうるさい。
(何か俺、一番貧乏くじじゃないか?)
しかしなんだかんだで可愛い後輩のため、ここは我慢だと覚悟を決めた。



「なー影山、そっちの布団行ってもいい?」
「いいわけないだろ、ボゲ」
「だってさっきの話めっちゃ怖くなかった?!」
「だからってなんでお前と一緒に寝るんだよ」
「おれだって影山と一緒とかやだけど……しょうがねーじゃん!こっち側壁でこっち側お前なんだから!選択肢一つしかないじゃん!」
「別に周りにこんだけ人いんだから一人でもいいだろーよ」
「……じゃ、しょうがないからこれでいいや」
日向は影山の布団に手を突っ込むと、影山のシャツの裾をぎゅっと握りこんだ。
「ふざけんなお前、伸びるだろ!離せ!」
「嫌だ。いーじゃんこれくらい」
「だから伸びるっつーの!」
小声でぎゃーぎゃーやり合っていると、大地のわざとらしい咳払いが聞こえ、二人はぴたっと動きを止めた。
暫くすると日向の寝息が聞こえてくる。本当にシャツを掴んだまま眠ったようだ。
(コイツ……)
ため息を吐くと、影山も目を閉じた。


夢を見た。
烏が何かを食べている夢。
何を食べているのだろうと目を凝らすと、それは人間のようだった。
食べられている人間がこちらを向く。目が合う。
その人間は――――自分だった。


ハッとして目を覚ます。背中に嫌な汗をかいていた。
ふうと大きく息を吐き出すと、心臓がバクバクいっているのが分かった。寝返りを打とうとして、日向の手がまだ裾を握っているのに気がつく。今はこんなことにも少し安心してしまう自分に腹が立つ。
無理矢理日向と反対側を向き、どうやら無意識に手を伸ばしてしまったらしい。隣の布団に眠る菅原の、布団からはみ出している手に触れた。
勢いよく当ててしまったので菅原を起こしてしまったようだ。「んー」と寝ぼけたような声が聞こえる。
「すみません、菅原さん」
小声で謝ると、「んー?影山?」
とムニャムニャとした声が聞こえた。
「何?怖いの?」
半分寝ぼけたような声と共に、ぶつかったままの手がぎゅっと握られる。
「これなら平気だろ?」
寝ぼけてむにゃむにゃと不明瞭な声だが、菅原の優しい声だ。
冷たくなってしまっていた手が、菅原の掌から与えられる熱でだんだん温かくなっていく。
思わず影山も手を握りしめた。
「……ハイ」
先ほど見た夢のことも、これならすぐに忘れられるだろう。
掌の暖かさが、自分を悪夢から救ってくれるようだ。





次の日、明け方。
トイレに起きた縁下は目の前の光景に思わず苦笑を浮かべた。
(経緯が容易に想像できる……)
乱れまくった布団、その中で折り重なるように寝る面々。

(ま、記念に)
縁下はとりあえず、この惨状を写メっておくことにした。







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