大好き後輩!~烏野先輩陣による後輩総選挙~



部室では2年生と3年生が着替えている。今日は1年生が学年集会があるとかで遅れて来るらしく、いつもより少しだけまったりとした空気が流れている。
田中が鼻歌交じりに練習着に袖を通していると、視界の端に未だ部室に置きっぱなしの人気アイドルグループのCDを捉えた。そこで先日の一件を思い出す。ふと思い立ちCDを手にすると、澤村に声を掛けた。
「大地さんって、推しメンとかいます?」
「え?」
振り返り、田中が手にしたCDを見て質問の意味を理解する。しかし澤村は、そのグループが人気があることは知っているがメンバー一人一人の顔や名前まで覚えているわけではなく、せいぜい知っているのは特に有名な一人二人くらいだ。
「あんまり詳しくないからなあ……」
そうぼやきつつその唯一知っているメンバーの名前を挙げると「あ、俺もッス!」と西谷が嬉しそうに同意した。
「やっぱ一番可愛いッスよね!」
「えーそうかぁ?俺はやっぱりマユちゃん一筋だぜ!」
「え?田中はあの子が好きなのか?」
田中の言葉に菅原が意外そうに聞き返す。
「清水と全然タイプ違うだろ」
「テレビの中の世界はまた別なんですよ!ていうか潔子さんは女神すぎてこう、別格というか!」
よく分からないが田中の中ではそういうことになっているのだろう。菅原が一人で納得していると、田中が「スガさんの推しメンは誰ですか?」と尋ねる。
「んー、俺も詳しくはないんだけど……」
そう言いつつ一応好みのメンバーの名前を挙げる。同様の質問は東峰と縁下にも向けられた。

一通り答えを聞いて満足したのか、田中が「そういえば」と再び口を開く。
「この前3年の先輩達が居ないときに、先輩達の総選挙やったんスよ」
縁下が、それを本人達に言うのかという顔をしているが田中は気にしていない。
「その時は結局最後は先輩達ってみんな最高だ、っていう結論に達したんですけどね!だって考えたら先輩達の良いところしか出てこないッスもん」
「あー……」
田中の言葉に3年の3人は微妙な顔をしている。まさか扉の前で聞いていたとも言えず、曖昧に顔を見合わせる。
田中はその様子には気付かず「そうだ!」と声を上げる。
「いま1年いないし、1年で総選挙やりましょうよ!」
「はぁ?」
澤村が呆れかえった顔で言うが、田中の隣にいる西谷も「いいな!」と乗り気である。何を馬鹿なことを、と言いかけた時菅原に声を掛けられた。「どうせまだ体育館使えないし、ちょっとだけならいいんじゃないか?」と珍しく田中の肩を持っている。たしかに体育館は学年集会で使用中だし、今日は雨のため外も使えない。
「……本当に、少しだけだからな」
溜息を吐きながら澤村が折れる。その様子を見て東峰が眉を下げて笑った。しかしすぐに澤村に睨まれ笑顔を凍り付かせる。

こうして、『第1回 2,3年による後輩総選挙』が行われることとなった。



「じゃ、推しメン挙げていきましょう!推したいヤツ言っていってくださいね!あ、全員はナシっすよ」
田中が一応の注意をすると、早速西谷が手を挙げる。
「俺は翔陽だな!」
胸を張って答える。
「面白いし、俺のこと尊敬してくれるし、何より俺と身長もあんまり変わらないしな!ついガリガリ君奢ってやりたくなるよな」
ふんっと鼻息荒く嬉しそうに語る西谷を東峰が微笑ましく見守る。
「あーわかる!俺も日向だな」
田中も楽しそうに西谷に続く。
「なんつーか、『後輩』って感じがして俺がなんとかしてやらねえと、って気になるんだよなあ」
「ああ、バスで日向が吐いたときとか心配して世話してたし、田中すごく『先輩』らしかったよな」
菅原が思い出しながら言うと田中が「マジッスか!」と嬉しそうに頬を染めた。
「西谷も、1年では日向だけ名前呼びだな」
「翔陽は翔陽って感じなんですよね」
相変わらず感覚で語るヤツだ。しかしその気持ちは分からないでもない。
「月島とか、名前で呼んだらすごい睨まれそうだしな」
澤村が苦笑する。なかなか扱いにくい1年が多い中、特に素直な日向を好ましく思うのかもしれない。

「力は?」
「俺は……山口かな」
「へえ」
縁下の答えが妥当なような意外なような、微妙な顔で田中が返す。
「影山とか月島とか見た目ちょっと怖いし」
「アイツら目つき悪いからな」
眉を下げながら縁下が言うと、菅原が苦笑し、東峰は同意するように頷いていた。
「日向は元気良すぎてついて行けないときあるし」
そう言いつつチラリと田中と西谷を見る。縁下は同様の感想を同級生二人に対しても抱いていたりする。
「山口が一番波長が合いそうかな」
「なるほどな」
田中が納得したように頷く。
「でも山口もある意味怖くないか?」
「え?」
「月島関係になると……」
あの山口の月島へのべったり具合は、たまに恐怖を感じるほどだ。しかし縁下からは「そういう年頃なんじゃない?」と意外とあっさりした考えが返ってきた。
「そ、そうなのか?」
なんとなく腑に落ち無いが、縁下が言うならそうかもしれないと田中は一応納得した。


次は3年生のターンである。
「旭さんは誰ですか?」
「え、えー……」
困ったようにウロウロと視線を彷徨わせる。迷っている様子の東峰に西谷が背中をバンと強く叩き「いいんですよ深く考えなくても!遊びなんですからパッと決めちゃってください!」と発破をかける。
「う、うん。や、でも迷うな……日向は俺なんかのことエースって慕ってくれて可愛いし、影山もああ見えて熱くて努力を惜しまない奴だし、山口は一緒にいてなんか安心するし……」
頭を掻きながら散々悩んだ後「でも」と口を開く。
「今回は月島かな」
「えっ!何でですか!?」
意外そうに西谷が目を見開く。
「うーん、先輩や強そうな奴にも物怖じしない態度とか、冷静でクレバーで結構周りの状況をよく見てるとことか、頭も良いし格好いいなって」
「そうっスかぁ?あいつクソ生意気じゃないッスか!」
田中が歯を剥くが東峰は苦笑している。
「まぁそうなんだけどな。ちょっと憧れる」
「そうやって旭さんはすぐ他の人に憧れるんだから!」
西谷も腰に手を当てて説教をするように東峰に向かい合う。どちらが先輩だか分かったものではない。

「スガは?」
西谷の視線から逃れるように東峰が菅原に視線を向ける。
「俺?んー、俺も迷うな」
首を傾げて考える。
「西谷と同じように、身長的な面で日向は可愛いよな。素直だし。影山もああ見えて意外と素直で可愛いとこあるし、あのストイックさはホントすごいと思うよ。山口とも結構喋る機会あるけど、アイツ月島が絡まなければ普通に良い後輩なんだよなあ。月島も、ああ振る舞う気持ちも分からないでもないんだよな。ちょっとシンパシーを感じるというか」
うんうん唸り、結論を出す。
「でも俺はセッター繋がりで影山を推す!」
「おお!」
言い切った菅原に思わず田中が感嘆の声を漏らす。
「生意気だし目つき悪いし、ああも実力差見せつけられるとムカつくんだけど!」
頬を膨らませて影山への憤りを吐き出すが、ふと息を吐くと肩の力を抜いた。
「でも可愛い後輩なんだよな、結局」
溜息混じりに溢すと澤村が苦笑しながらその肩を叩いた。

「大地は?」
「俺も悩んでる……一人に絞るって結構難しいよな」
じっと考え込むように腕を組む。暫くしてぼそりと呟くように言った。
「……俺も影山かな」
「えっ!」
意外そうに田中が声を上げる。
「影山ですか?」
「まあ色々考えた結果な。本当は全員推したいんだけど」
「そんなの当たり前じゃないですか!」
西谷が身を乗り出す。
「そりゃ色々問題もありますけど、みんな面白い奴らッスよ!」
「だな!なんだかんだ俺らの後輩なワケだしな!」
『後輩』とか『先輩』という響きに弱い二人である。しかし1年全員を好きなのはみんな一緒なのだ。
「アイツらと1年しか一緒にいられないのは残念だよな」
「ちょっと、寂しいこと言うなよ」
菅原と東峰が卒業を仄めかす会話をすると、2年の3人も一気に表情を曇らせた。それに慌てて「まだ先!先だから!」と手を振る。
「もっとアイツらと一緒にバレーやりたいな」
「ですよね!アイツらメチャクチャだけど一緒にバレーやってすげえ楽しいし」
「ワクワクするよな」
1年生なのにスタメン入りしている奴が3人もいる。ベンチの山口含めて、誰もが個性的で魅力的なプレーをする。その様子を思い浮かべみんなして目を輝かせた。


結局、皆自分達の仲間になった1年生が可愛くて仕方ないのだ。
「アイツらが烏野入ってくれて良かったわ」
「本当にな」
本人達の前では絶対に言わないが、実感を込めて呟く。


その可愛い後輩と一試合でも多く共に戦うために、まずは今日の練習を頑張ることだ。
「っしゃ!今日もやるぜ!」
田中の声に、一同は決意に満ちた瞳で立ち上がった。






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