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第三話「真波くんと!~in 池袋~」 ボクは小学生の頃からずっと秋葉原に通ってきた。でも最近、秋葉原の他にも好きな場所ができたのだ。
――それが聖地、池袋。 まだあまり通い慣れていない道を通りボクは今日も乙女ロードに遊びに来ていた。 ――今日は書店で新刊見て、あ、グッズとコスプレ館で衣装も見たいなぁ。 そんな風に頭の中で計画を立てながら、ワクワクした気持ちで店に向かっていると、突然後ろから声をかけられた。 「あれ、もしかして坂道くん?」 名前を呼ばれて驚いて振り向くと、そこには見知った青い髪。 「え、まま、真波くん!?」 まさかこんな所で会うとは思わなくて盛大に驚いてしまった。 「珍しいね、こんな所で会うなんて。坂道くんは秋葉原が好きだって聞いてたけど」 「あ、うん。アキバも好きだけど、最近は池袋にもよく来てて……」 真波くんは?と聞くとにっこり笑って答えてくれた。 「いっしょいっしょ。オレも池袋にはよく来るよ」 揺れた拍子にガサッと音を立てた真波くんの持っている袋。何気なくそちらに目を遣ってボクは心底驚いた。……それはこれからボクが向かおうとしている店のものだったのだ。 「え、え!? ちょ、真波くん! その袋は!?」 「え? これ?」 ボクの剣幕に驚いたのか、目を丸くしながら真波くんが袋を軽く持ち上げる。間違いない、この袋はボクも何枚も持っている。 「さっき買い物してきたんだけど」 「な、何を買ったの……?」 ここまで聞くのは失礼かもしれないと思ったけどどうしても気になってしまった。だって、もしかしたら…… 「ん? これだよ」 そして見せてもらった中身はボクもよく知る―― 「これ! ボクも持ってる!!」 「本当? この作者好き?」 「好きだよ! え、ていうか真波くんもこういうの好きなの?」 「うん、好き。オレみたいなの、巷じゃ『腐男子』っていうらしいね」 ――なんと、真波くんはボクの仲間だったのだ! 「あ、あああの! ボクも、好きなんだ。こういうの」 「そうなの? 坂道くんも腐男子だったんだ!」 「うん!」 うわあ嬉しい! きっと自分はマイノリティだと覚悟はしていたから、アニ研以上に仲間を見つけるのは難しいと思っていた。それがこうして仲間――友達ができるのが本当に嬉しい。心の中で何度も神様にお礼を言った。 それから日陰で真波くんと少し話をした。真波くんは小さい頃病弱で、家の中でできる趣味の一つがこれだったらしい。 「自転車始めてからはそっちに夢中になっちゃったけどね」 「そうなんだ。ボクは最近なんだ、こっちの世界を知ったの」 「へえ、そっか。……へへ、嬉しいな、坂道くんとこうして話せるなんて」 「ボクもだよ!」 嬉しくて楽しくて舞い上がっていると、ふと真波くんが尋ねた。 「坂道くんって、ドリーム願望とかある人?」 「ドリーム?」 咄嗟にイメージが出来なくて、巻島さんがよく口にする言葉だよなぁとぼんやり考えてしまった。 「知らない? 夢小説とかいうの」 「あ、聞いたことある……かも」 「ほんと? あれってさ、自分がヒロインになって出てくるキャラと関わったりできるーってやつなんだけど」 たしか前に見たことがある。ボクは自分が当事者になるよりもイチャついている二人を見る方が好きだったからあまり食指は動かなかったのだけれど…… 「うん。でもボクはあんまりかな」 「そっかぁ」 「真波くんはそういうのが好きなの?」 「うん」 わあ、いい笑顔だ。 「でもオレの場合、相手は二次元のキャラじゃないんだ」 「え?」 ということは芸能人とかなのかなと考えていると、真波くんはにっこりと笑って言った。 「いつもね、相手は坂道くんで妄想しているよ」 予想外の言葉をすぐには処理できずに、一拍置いてようやく叫んだ。 「え、えぇぇ!?」 ぼぼぼボク!? なんでボク!!? ていうかそれ、ドリームっていうか……ちょっと違うんじゃないかな? 別にオタクじゃなくてもするよね!? 恋する乙女がするやつだよね!!? 頭の中で色々な感情やら突っ込みやらがぐるぐると回っている。けれどあまりに混乱していたためどれも言葉にすることは叶わなかった。 「だからこうして坂道くんと池袋デートできるなんて嬉しいな」 真波くんは慌てまくっているボクの様子なんてお構いなしにとても楽しそうだ。こんなに楽しそうな真波くんを見ていたら、なんだか一人慌てている自分が恥ずかしくなってきた。そうだよね、そういう嗜好もある……よね……? 「坂道くんも、妄想の中でオレのこと好きにしていいよ」 そ、そんな爽やかな笑顔で…… 「う、うん……で、でも遠慮しておくよ」 「ちぇー」 真波くんと同じ趣味だとわかったことは嬉しいけど、真波くんはボクとは違ったベクトルにぶっ飛んでいるみたいだ。うーん、この世界は奥が深い。 目当ての店が一緒だと分かったのでとりあえず並んで歩き出す。少し歩くと、真波くんが顔を覗き込んできた。 「ね、手を繋いでもいいかい?」 「ここで?!」 こんなに人が多いのに!? 思わずきょろきょろと辺りを見回していると、真波くんは何でもないことのように言った。 「えー、だってここは乙女ロードだよ? 乙女の人たちなら許してくれるって」 ごめん真波くん、その理屈全く意味が分からないよ…… でも真波くんはごく自然にボクの手をとるとぎゅっと強く握り込んだ。 「坂道くんとデートだ!」 振り向いて嬉しそうに笑う真波くんが眩しくて、ボクも何だか楽しくなってきてしまった。気がついたら人の目なんて気にしなくなっていた。だって、真波くんと一緒でボクもこんなに楽しい。 真波くんは本当に不思議な人だ。 *** まさか、ここで坂道くんに会うとは思わなかった。 これってきっと、運命だよね? 手を繋いで歩きながら本気の思いを込めて呟く。 「なんかさ、多分オレって、坂道くんの王子様だと思うんだ」 「え?」 あ、坂道くん驚いてる。そりゃそうか、いきなり何言ってるんだって思うよね、王子様なんて。 言い過ぎ? でもさ、本当にそう思うんだからしょうがないじゃん? オレの言葉に最初は驚いていた坂道くんだったけど、オレがにっこり笑うとつられるように小さく笑った。 「そうかも。真波くんって、王子様っぽいよね」 「坂道くんの、ね」 もう一度強調して念を押す。だって大事なとこだから。 くすぐったそうに笑う坂道くんがあまりにも可愛いから繋いだ手にぎゅっと力を込めた。 本当にオレがきみの王子様だったら、こんなに嬉しいことはないのに。 Text top |