ボクがモテてどうするの!



 小野田坂道は腐男子である。

 腐男子、というのはやおいとかBLなどと呼ばれる『男同士の恋愛』を好む男子のことである。同じ嗜好の腐女子に比べて数は極端に少ない、らしい。

 坂道が腐男子となったのはつい最近だった。
 本屋に行ったとき、新刊コーナーに今期イチオシのアニメのアンソロジーが並んでいるのを見かけ、表紙のイラストにつられてつい購入してしまったのだ。それが坂道にとっての分岐点となった。
 たまたま手に取った本、それは所謂『BLアンソロ』だったのだ。

 勿論坂道も最初は戸惑った。可愛い女の子目当てで買った本に男しか出てこないのだ。しかも男同士で頬を染め合ったり手を繋いだり、好きだと言ったり抱き締め合ったり、あまつさえその先も……
 買うときに年齢確認などされなかったが、漫画を読み進めるうちに『そういう』シーンが出てきたときは思わずページを閉じてしまった。
 最初はショックを受け、すぐに本を手放すことを考えていたのだが、数日後にはなぜか再びその本を手に取っていた。自分でもよく分からない。だが再び目にした男同士の恋愛模様は、坂道の胸を妙に高鳴らせたのだ。

(あれ。この気持ちは……)

 ラブヒメの湖鳥を愛でる気持ちとはまた違う。だが胸の奥からわき出してくる、思わず叫び出したくなるほどのこの衝動は……


(これが萌えか!!)


 これが腐男子・坂道誕生の瞬間であった。


 それからは転がり落ちるように深みにはまっていった。そのうち漫画や小説だけは飽き足らず、興味は三次元にまでも及んでいった。
 しかも興味の対象はテレビの中の人物ではなく、身近な人間だったりする。それはひとえに坂道が周囲の環境に恵まれていたという理由によるものが大きい。
 何しろ坂道の所属する自転車競技部はいい男が揃っているのだ。

(運動部に入ってよかったなぁ)

 今日も坂道は部員を眺めて頬をゆるめている。目の前では今泉と鳴子がいつものように言い合いをしながら着替えていた。
(練習後の癒しだぁ)
 坂道にとってこれは至福の時間だった。



 これは、そんな腐男子・小野田坂道による萌えの追求の物語である。






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