亭主の寸話 G『肉食指向が地球温暖化を招く』2


 最近マスコミでは地球温暖化についての報道が続いています。日本周辺の海域で熱帯産の魚や海草が観測され、また、尾瀬に鹿が現れ、草木を食い荒らしていることも報道されました。椿や梅などの季節を示す花の開花時期も早まってきており、西日本の夏日も長引いています。これなども温暖化の影響だといわれています。目を海外に転じてみれば温暖化の影響はいたるところに現れてきています。キリマンジャロやヨーロッパアルプスで急速に氷河が溶け出していることや、アラスカで氷の下に埋まっていたマンモスが相次いで地表に現れていることも温暖化の影響でしょう。現在の温暖化速度で進めば2035年までにはヒマラヤの氷河は消滅するのではないかともいわれています。これらの温暖化現象は、私たちの食べ物にも深刻な影響が予測されています。2007年の春に行われた国連の「気候変動に関する政府間パネル」によると、このまま進めば、「2050年にはアジアの穀物収穫量が3割程度減少し、穀物価格が高騰して1億3千万人が飢餓状態になる」という衝撃的な予測も出されました。地上の穀物だけでなく、水産物も海水温度の上昇によってアジアの広い海域で漁獲量が減少するとされています。これらはすべてわれわれ人類の活動の中から吐き出される温暖化ガスによるものです。

 温暖化ガスを出しているのは、火山活動や山火事など自然現象によるものもありますが、最も多いのは石炭や石油をエネルギーとしている工業分野、生活分野であり、農業分野からの発生も無視できません。これらの温暖化ガスを最も多く放出しているのはアメリカと中国ですが、この両者共に自国の国益に反するとして、温暖化ガスを自主規制しようとする京都議定書から離脱をしています。アメリカは世界の石油消費量の4割を燃やしている世界最大の炭酸ガス発生国ですし、中国は13億の国民が各種経済活動を活発化させて、エネルギー・穀物を大量に輸入している世界最大の資源消費国です。そしてこれら穀物増産のために、アマゾンなどの熱帯雨林を伐採して穀物畑を広げようという動きも温暖化を早めているのです。今、地球温暖化を防ぐために肉を食べるのを控えようという主張が目に付くようになってきました。それは、牛や羊などのゲップから出るメタンガスが地球温暖化を進めているから、という笑い話のようなまじめな話です。

 世界中の牛などのゲップから放出されるメタンガスは、大気中の全メタンガスの25%を占めているといわれています。このメタンガスは炭酸ガスの21倍の温暖化効果をもっており、炭酸ガス同様に温暖化防止には見逃せません。牛などの反芻動物は4つの胃を持って反芻しながら消化しにくい食物繊維などを胃の中で発酵・分解しているのです。このときにメタンガスが発生し、これをゲップで出さなければ牛は死んでしまいます。1頭の牛の出すゲップは1日に500リットルにもなり、畜産国にとっては大きな温暖化問題となります。たとえば牧畜の盛んなニュージーランドでは、国内で発生する温室効果ガスの31%がこのゲップによるメタンガスです。温暖化が話し合われた京都議定書では、乳牛1頭から発生するメタンガスは年間116.4キロと計算されています。もちろんメタンガスは牛のゲップからだけでなく、水田や肥料やごみの埋め立てなどからも発生します。天然ガスや化石燃料の燃焼からも発生しています。しかし、牛などのゲップは全体の1/4を越えており、地球温暖化にとって大きな課題となっているのです。

中国の牛肉消費量 このように牛のゲップが大きく取り上げられるようになったのも、牛の飼育頭数が急速に膨らんできたからです。世界の経済が安定し、中国など巨大人口を抱える国の所得が伸びるに伴い牛肉の消費量が飛躍的に伸び、牛の飼育頭数が増大しているのです。そして、牛のゲップによるメタンガスの増大につながっているのです。牛のゲップによるメタンガスの発生量を低減する方法は、家畜用飼料を改善して消化しやすい飼料とすることと、牛肉を食べるのを控えて牛の飼育頭数を減らすことでしょう。

 肉食にこだわるアメリカでは、遺伝子組み換え技術を使って、牛のゲップを少なくする大豆を開発しています。この大豆は高スクロース大豆と呼ばれ、通常の大豆に比べて不消化の糖分を90%も少なくしてあり、腸内細菌によるガスの発生を抑えるという特徴を持っているものです。この大豆が大量に栽培されているという話はまだ聞いていませんが、ひとつの取り組みとして評価することが出来ます。フランスの研究機関では、子羊の胃の中に生存している微生物のうち、メタンガスを出す微生物だけを取り除いて、それ以外の微生物を全て戻して飼育したところ、その羊はメタンガスを全く出さずに正常に成育している、との報告も出ています。また、同じような餌を食べながらメタンガスの発生量が大きく違う羊がいることも明らかになってきました。ドイツでは、ゲップを抑える薬を発明した、とも言われています。これらの研究はまだ解決の糸口をまさぐっているに過ぎません。もちろん研究は今後も継続していくことが必要ですが、目の前の温暖化を食い止めるためには、私たちの肉食指向を見直す必要があります。筑波の畜産草地研究所では、「1キログラムの牛肉を食べることは、家の電気を全てつけたまま自動車を3時間運転するよりも、さらに多くの温暖化ガスを出すことになる」といっています。さらに、「畜牛の飼料を生産したり、運搬するために、牛肉1キログラム当たり100ワットの電球を20日間点灯しているのと同じエネルギーを必要とする」としています。このように温暖化ガスの発生を抑える直接的な方法のひとつは、牛肉を食べるのを控えることにありそうです。

 現在、世界の肉の消費量は1日1人当たり100g食べていることになります。これを、10%減らして90gにすることによって温暖化に対する効果が表れると指摘する学者もいます。私たち日本人は1日に125gの肉を食べているのです。肉食の量を減らし、動物性脂肪を少なくすることが地球環境を守り、自分の肥満、心臓病の予防につながるというのであれば、皆で取り組んでみてはどうでしょう。


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