世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るっている中で、我が国のコロナウイルスの感染率が、外国での勢いに比べて極端に少ないのが不思議だとの声が国内外で起こっている。海外では厳密なロックダウンを敷いて、許可なく外出した市民に罰金などの罰を課すほどの厳密な対策をしているにも関わらず感染者数が次々と増加しており、一向に減ってこない。一方日本では海外から見ると生半可な対応に見えるような、外出自粛という各自の自覚にまっているだけなのに感染率が低いのに説明がつかない、として戸惑いの声が上がっている。最近の海外の新聞などを見ると、「コロナウイルスとの闘いで、日本はすべて間違ったことをしてきたように思えた。ウイルス検査を受けたのは人口の 0.185 %に過ぎず、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の取り方も中途半端だ。しかし死亡率は世界で最低で、医療崩壊も起こさずに感染者数は減ってきている。不可解だが、すべてが正しい方向に進んでいるように見えてしまう」と、この状況に対して理解に苦しんでいる。
彼らが理解に苦しんでいる実態とはどんなものか、5月24日現在の世界の新型コロナウイルスへの感染者数をここに示した。これは人口100万人あたりの感染者数である。(米国、ジョンズホプキンス大学サイトより)
①
スペイン 5,076人
②
アメリカ 5,036
③
イギリス 3,929
④
イタリア 3,858
⑤
フランス 2,812
⑥
ロシア 2,333
⑦ ドイツ 2,197
⑧
トルコ 1,958
⑨
ブラジル 1,672
⑩
イラン 1,663
韓国 220
日本 129
この上位10か国と韓国、日本、中国との差は歴然としているように見えます。
しかしこれら感染者比率で比較するのは、国によって検査頻度がまちまちであり、検査が十分に行われていない国では感染者数が少なく示されることが考えられるので正確な比較にならないとの声もある。では、人口当たりの死亡者数で比較するとどうなるか、死亡者数はほぼ正確にカウントされるので信頼性が高いと見られています。2020年5月23日現在の人口100万人当たりの死亡者数のランキングを見てみると
①
ベルギー 798人
②
スペイン 612
③
イギリス 540
④
イタリー 538
⑤
フランス 433
⑥
スウェーデン391
⑦
オランダ 340
⑧
アイルランド326
⑨
アメリカ 292
⑩
スイス 222
日本 6
韓国 5
中国 3
となっている。これらの数字は、新型コロナウイルスへの感染が進んでいる中での比較であり、毎日変化していくことは当然ですが、ここに示されているような傾向は変化しないと思っています。そして、ここでも死亡率の高い10か国の地域と東アジアの日本などとの死亡率の落差は歴然である。
これから4ヶ月たつと感染が蔓延している地域が少し異なって来ており、南北アメリカの感染者数比率が大きく跳ね上がってきますが、日本との感染比率の傾向は変わっていません。人口100万人当たりの数字を、9月18日の米国、ジョンズホプキンス大学サイトで見ると
① ペルー 100万人当たり感染者数 22,898 100万人当たり死者 986
② ブラジル 21,111 639
③ アメリカ 20,286 601
④ コロンビア 14,779 470
⑤ アルゼンチン 13,437 278
⑥ スペイン 13,387 651
⑦ 南アフリカ 11,195 269
⑧ ロシア 7,451 131
⑨ メキシコ 5,362 566
⑩ インド 3,816 612
日本 616 12
世界 3,915 123
このように4ヶ月の間に世界の感染者数も死亡者数も拡大していますが、日本と欧米との差は変わっていません。
また、このコロナウイルスに感染した人がどのくらいいるかを知る方法として、一般市民が新型コロナウイルスに対する抗体をどのくらい持っているのかも各国で調査しています。日本では厚生労働省が6月1-7日に東京、大阪、宮城でウイルスに対する抗体保有率を調べています。新型コロナウイルスに対する抗体を持っているということは、それまでにこのウイルスに感染した経験があることを示しています。つまり市中にウイルスが蔓延している中で人々がどの程度感染しやすいのかを示す指標として見ることも出来ます。その調査によると、
東京 0.10%
大阪 0.17
宮城 0.03
と、日本ではほとんどの人が感染をしていなかったことが分かりました。このデーターをその頃に検査していた海外のデーターと比較すると新たな面が見えてきます。
イタリア、ベルガモ 57%
オーストリア、イシュギル 42
アメリカ、ニューヨーク市ブロンクス地区 32.6
ロシア、モスクワ 19.9
イギリス、ロンドン 17
ドイツ、ガンゲルト 15.5
アメリカ、ニューヨーク市 12.3
スワエーデン、ストックホルム 10
このように、限られた地域ではあるがその感染割合は日本の100倍以上であることが分かりました。このように日本人はそもそも上記の地域に住んでいる人たちに比べて新型コロナウイルスへの感染率が少ないのです。なぜこのようなことが起こるのか、世界の多くの人たちが不審に思うのは無理ありません。実はそこにはウイルスが人間に感染するメカニズムが大きく関係していると私は見ています。
ウイルスは微生物と違って自ら生き続けることが出来なく、絶えず生きた動物細胞の中に入り込みながら、その細胞と共に生きるという性質を持っています。つまりウイルスが生き続けるためには人や動物の細胞に感染することが必要です。そのためにはまず自らの遺伝子を人などの細胞の中にコピーしていかなければなりません。ウイルスが細胞に感染していくためには4つのステップが想定されています。①ウイルスの細胞への吸着、②遺伝子を細胞内に放出する脱穀、③ウイルス遺伝子を細胞にコピーする複製、④複製されたウイルスが細胞外に出ていく遊離、です。つまりウイルスは自分の遺伝子を人の細胞にコピーするためには、まずウイルスの遺伝子を包んでいる殻を取り外さなければなりません。たとえば人のインフルエンザウイルスでは気道で分泌される酵素トリプシンによってその殻が切断されることによってウイルス遺伝子が顔を出し、初めてウイルス遺伝子を細胞にコピーすることが出来るのです。これらのウイルスの感染メカニズムについてはインフルエンザウイルスの研究によって既に相当程度解明されています。今回の新型コロナウイルスもインフルエンザウイルスも同じRNA遺伝子であり、その感染メカニズムは似たものと見ることが出来ます。まず、ウイルスの膜タンパク質であるヘマグルチニンが,人の組織に存在するタンパク分解酵素のトリプシンによって部分分解を受けて2つのサブユニットに別れ、割れたウイルス組織から現れたウイルスのRNA遺伝子が人の細胞に入り込み感染が達成されるのです。つまりウイルスが人に感染するには人の持つたんぱく質分解酵素トリプシンの働きが必要なのです。
これらのウイルスの感染機序についてはすでにいくつかの研究が見られます。(https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/122/1/122_1_45/_pdf)
ところがこのウイルスの感染を進める酵素トリプシンの働きを阻害する酵素もいくつか存在します。それらは生体内にも偏在していますが、最も私たちの身の回りに多く存在するのが大豆に含まれている酵素であるトリプシンインヒビターです。
この大豆の酵素トリプシンインヒビターは人や動物の持つタンパク分解酵素の働きを駄目(失活)にする阻害剤の働きをするものです。この酵素が含まれている生の大豆を人間も動物も、そのまま食べると消化不良を起こして下痢をしてしまいます。それは生大豆に含まれているこのトリプシンインヒビターが動物の体内のタンパク分解酵素であるトリプシンの働きを阻害するからです。なぜこんな酵素が大豆に含まれているのか、それは大豆という植物が自分の身を護るために備えている防衛手段ではないかと言われています。大豆には高濃度のたんぱく質や油脂など動物が欲している重要な栄養素をたくさん含んでいます。だから動物たちは自らの栄養摂取の為にこの大豆を食べようとするでしょう。大豆は種子であり、次世代に命をつなぐ大切なものです。これを動物たちに食べられてしまうと大豆は命が途絶え、種は絶滅してしまいます。だから大豆は自らの命を守るために動物たちが食べられないように一種の毒を体内に持っていると言えます。だから私たちがこの大豆を食べるときには必ず加熱してこの消化不良を起こす酵素トリプシンインヒビターを熱変性によって殺して(不活性化)して、働かなくしておくのです。そのために私たちが食べている大豆食品は必ず加熱工程を経ているのです。こうしてこの消化不良を起こすトリプシンインヒビターは加熱処理によって大豆食品の中には含まれていないはずなのですが、完全な加熱でない状態で加工された大豆食品には、この酵素が微量に残っており、その量が微量故に消化不良を起こさずにいくつかの働きをしていることも知られています。例えばトリプシンを作る膵臓に働きかけてインシュリンの分泌を促し、2型糖尿病を予防しているのにもこのトリプシンインヒビターの働きとされています。
近年の研究によって、各種大豆製品に含まれるトリプシンインヒビターの活性残存率が明らかになっています。それは、生大豆に含まれていたトリプシンインヒビターに対して、木綿豆腐で2.5%、寄せ豆腐で3.4%、絹ごし豆腐で4.3%、充填豆腐で7.9%、豆乳13.0%、納豆0.7%、醤油0.8%、味噌0.3%、それぞれ残存していることがわかっています(J.Nutr.Sci.Vitaminol.,43,575-580,1997)。
そしてこの程度の残存量であれば下痢を起こさないことは、日常の私たちの食生活から考えても納得されることでしょう。つまり私たちは大豆食品を食べることによって毎日少しずつトリプシンインヒビターを体に取り込んでいるのです。そしてこの残存したトリプシンインヒビターがウイルスの感染を促進する働きをしているトリプシンの作用を阻害してウイルス感染を防いでいることになります。
ではこれら豆腐、豆乳、納豆などの大豆食品を日常的に食べ続けている民族はどこの国か、それは現在新型コロナウイルスへの感染率が低いと不思議がられている日本、韓国、中国とその周辺の国々なのです。この東アジアの国々では縄文時代の昔から大豆を色々な加工調理をしながら食べ続けています。欧米でもベジタリアンやビーガンと呼ばれる菜食主義者の間では大豆食品が食べられていますが、これらの国の多くの人たちは大豆を家畜の飼料として与えて、肉やミルクや卵として体に取り込んでいるのです。そこにはもうトリプシンインヒビターは含まれていません。つまり今回の新型コロナウイルスへの感染で国によって感染率に落差が出来たのは、そこの人たちが日常的に大豆食品を摂取しているかどうかが現れたと言えます。しかしこのトリプシンインヒビターは体内ではその活性を長く維持することは出来ません。このトリプシンインヒビターを少しずつでも毎日の食事で継続的に摂取し続けることこそが、ウイルス感染予防に最も効果的な摂取の仕方になるのです。つまり、ウイルス感染に対する抵抗力は民族による差ではなく、大豆食品を日常的に食べているかどうかにかかっていると見ることが出来ます。
アメリカでの新型コロナウイルスによる死亡者数は、人口100万人当たり
黒人 546人
ヒスパニック系 249
アジア系 243
白人 227 (5月27日現在、APMリサーチラボによる)
とされています。この数字の背景にはウイルスに感染しやすい環境に身を置いているかどうかなど多重な要因が考えられますが、アジアで生まれた人もアメリカに移ってアジアの大豆を中心として食生活から離れると現地の感染率になってしまっていることがここから見ることが出来ます。同じアジア人であってもアジアでの食習慣から離れてしまうと新型コロナウイルスによる死亡率はアメリカ人並になっているのです。このことからも今回の日本人などの新型コロナウイルスへの感染率の少なさは民族の差ではなく、日常的に大豆食品を食べているかどうかに影響を受けているということが出来ます。
実際にインフルエンザ患者に対応されている医師の中にはインフルエンザにかかる人とかからない人の差として、大豆食品を日常的に摂取しているかどうかによって感染に差が生じていることを、身をもって感じているという声を聴くこともあります。
現在はウシの肺由来のトリプシンインヒビターなどでインフルエンザウイルスの感染試験が行われているとのことです。しかし、新型コロナウイルスに対する大豆のトリプシンインヒビターの効果についてはまだ確認されていません。しかし、冒頭に書いたようにこれらの大豆を日常的に摂取している人たちが、明らかに新型コロナウイルスへの感染が少なく、その死亡率も少ないことが何よりの証明だと思っています。これらの大豆食品で毎日少しずつトリプシンインヒビターを摂取し続けて行くのがもっとも望ましい新型コロナウイル対策だと考えられます。
現在、新型コロナウイルスに対する薬がいくつか開発の途上にあります。感染予防に対する取り組みとしてのワクチンの開発が進められています。しかし、ワクチンによって免疫抗体を作っても新型コロナウイルスに対する抗体は病院から退院して2ヶ月もすると大幅に減ってしまうことが中国の研究機関から発表されており、ワクチンによる免疫力が長続きしないことがわかってきています。さらに抗体がつくられても必ずしもウイルスを殺してくれる抗体ばかりではなく、かえって病状を悪化させる悪玉抗体もあるようです。このようにワクチンが出来てもすべてが解決出来ることにはならないようです。一方の治療薬の開発については、その多くは冒頭で書いたウイルスの感染ステップの③に当たるRNA遺伝子の複製を阻害するものであり、その前段階であるRNA遺伝子を放出するステップを阻害する抗ウイルス薬はまだ聞いていません。このステップで働くのは今のところ大豆に含まれるトリプシンインヒビターのみです。やはり病気の予防という観点からするとウイルスが自分の遺伝子を細胞にコピーする前段階で防ぐことが出来る大豆のトリプシンインヒビターの働きは大きいと言えます。
さらに言えば、これらウイルスはタンパクで出来ている殻の外側をさらに脂質膜によって覆われています。この膜には人の細胞表面にあるレセプターに吸着する端子がついています。界面活性効果のある石鹸などで手洗いすることによってウイルス表面の脂質膜が端子と共に破壊されることが想像されます。このようにウイルスは石鹸に対して弱い組織であり、石鹸による手洗いは有効な予防効果があるとされています。
これから懸念される第2波、第3波に備えるためにも石鹸による手洗いと、毎日の大豆摂取は有効な手段だと考えられます。
7月26日現在、世界で新型コロナウイルスへの感染者数は約1,605万人となっており、そのうちの40.8%をアメリカとブラジルが占めている状況です。今回私が取り上げた新型コロナウイルスへの感染予防に効果があるとされている大豆の生産国は、実はこの2か国なのです。2020年度の世界の大豆生産量3億6252万トンの67.2%はアメリカとブラジルで生産されているのです。しかし彼らはそれらの大豆をほとんど食べていません。大豆から植物油脂を絞った後は家畜の飼料にしており、大豆そのものを自分たちで食べることはしていません。そしてこの2か国が人口100万人当たりの新型コロナウイルスへの感染者数が共に2万人を超える突出した高い感染率となっているのです。「灯台下暗し」、自分たちの足元に有効な食材が豊富に存在していることを知ってもらいたいです。
『反省文』 2020年当時は私は新型コロナウイルス感染経路については以上のように理解していましたが、今や私の考えが間違いであったことを深く認識し、反省しております。しかし、私の2020年当時の考えの痕跡としてこの文章を残しておくことにしました。私の浅はかな当時の考えとして眺めておいてください。
(更新日 2023.3)