亭主の寸話67『平成の養生訓』 その4
「健康を支える脇役たち」
厚生労働省が行った、平成23年度における患者調査によると、「糖尿病」の総患者数は約270万人、「高血圧性疾患」906万人であり、3年前に比べてアルツハイマー病の増加が目立ち、患者数は37万人(13万人増)と推計された。それ以外は、「高血圧性疾患」が110万人増、「高脂血症」が45万人増、「糖尿病」が33万人増、「悪性新生物」が8万人増となっている。健康長寿を願うならば、ただ単に手をこまねいているだけでは適えられない。
前回までは健康を支える主要な食材について述べてきた。今回はその他の機能性食材について取り上げてみたい。
赤ワイン:世界的な科学雑誌「ネイチャー」に『心臓病を防ぐには赤ワインが有効だ』という説を遺伝子レベルで裏付ける論文が発表され話題になった。赤ワインに含まれているポリフェノールは「レスベラトロール」と呼ばれるもので抗酸化力、抗炎症作用にすぐれている。さらに長寿遺伝子(サーチュイン遺伝子)を活性化させ寿命を延ばすという結果も出ている。その他、タンニン、アントシアニン、フラボノイドなどのポリフェノールも含まれている。どのポリフェノールが働いているかは定かでないがアルツハイマー病を予防する働きに注目が集まっている。赤ワインはブドウの皮ごと発酵させるので各種のポリフェノールが複合的に働いている。2012年にはレスベラトロールは「食品アレルギーを予防する」という効果が発表され、さらなる研究に期待が高まっている。
鰹節:鰹節は製造過程で「カビ付け」という発酵工程を持つ発酵食品でもある。うまみの成分イノシン酸はカツオが高速で泳ぎ続けるエネルギー源のATPという物質の分解物である。これが基礎代謝の向上や疲労回復に効果を発揮する。これらは人体でも作れるが20歳をピークに減少しており、そのことが老化を促進させていく。ペプチドが疲労物質の乳酸を分解し、アンセリンが活性酸素を除去する。カリウムは余分な塩分を除去し、高血圧の予防となる。トリプトファンは神経伝達物質(セロトニン)の原材料であり、うつの予防に効果がある。鰹節には塩分が少ないので「うまみ」を活かした味付けは減塩(高血圧予防)にもなる。
海藻:フコイダン(水溶性食物繊維)には便秘解消、胃の粘膜修復、ピロリ菌の除去、インスリンの急速な上昇抑制、ナチュラルキラー細胞の活性化、胃の粘膜を修復する作用などがある。フコキサンチン(褐色色素)にはヨウ素との相乗作用で乳がんの予防に効果的。さらにグルタミン酸はエネルギー代謝を活性化し、脳の活性化、筋肉強化、肥満のブロックなどとして働く。ヨウ素は基礎代謝を活性化し、肥満予防、放射性有害物質の除去に働く。メカブはワカメの根元の「胞子嚢」の部分を指し、フコイダンを多く含み栄養価が高い。
ゴマ:肝臓の活性酸素を除去する効果があると言われている。また、悪玉コレステロールを抑制し、血圧の調整、貧血、めまい、皮膚病の予防などの効果が期待されている。セサミンは抗酸化力に富み、老化予防の働きに注目が集まっている。 ビタミンB,E、鉄分、銅、マグネシウムが豊富。 焙煎ゴマ油は抗酸化性が非常に強く、活性酸素をブロックするゴマの健康効果が凝縮している。「白ゴマ」と「黒ゴマ」の成分の差はないが、白ごまの方が抗酸化力強く、黒ごまにはポリフェノールが多い。「黒ゴマ」にも血圧を調整する働きが認められており、心臓病を予防する働きや活性酸素による酸化ストレスをブロックする働きもある。
ショウガ: ショウガの辛み成分である「ジンゲロール」は体を温ためたり、血行を良くする働きがある。また、味覚を刺激して自律神経を活性化し、脂肪を燃焼させる。さらに、ジンゲロールは脂肪細胞を小さく保つ効果があり、これによって善玉ホルモン「アディポネクチン」が動脈に働きかけて心筋梗塞や脳卒中を防ぎ、筋肉や肝臓に働きかけて糖尿病を防いでくれる。ジンゲロールは強力な殺菌力、抗酸化作用、抗アレルギー、抗炎症(痛風)作用などを持っている。さらに、我々の体には「褐色脂肪細胞」という体脂肪を燃やす組織があるが、ショウガの成分「パラドール」にはこの褐色脂肪細胞の働きを活性化する効果がある。
唐辛子: 唐辛子に含まれている「カプサイシン」が体に入ると血液を介して脳に運ばれ交感神経を刺激するためにアドレナリンの分泌が促されて汗が出てくる。交感神経は脂肪細胞を支配しており、中性脂肪を燃焼させエネルギーとして消費してくれる。このことにより肥満防止や冷え性に効果がある。肥満は老化を促進するのでアンチエイジングにも効果がある。また、胃液や唾液などの消化液の分泌を高める効果もある。ただし、激辛は胃に負担となり胃がんの原因になることもありピリ辛程度にとどめておくことが大切。カプサイシンをマウスの筋肉に注射すると弱った筋肉が回復したという研究成果もある。さらに、2012年にはカプサイシンが褐色脂肪細胞を活性化し、運動をしなくても脂肪を燃やしてくれるとの発表もあった。
キムチ:発酵食品、ヨーグルト並の乳酸菌を含んでおり、腸内細菌のバランス調整、免疫力上昇、便秘改善効果を持つ。唐辛子に含まれるカプサイシンにはアドレナリンの分泌促進、発汗作用、体内の脂肪燃焼などの働きがある。なお、キムチの真っ赤な汁には栄養素が浸みだしているので上手に使い切るようにするとよい。
つぎに健康維持に働くミネラル類を見てみよう。
セレン:体内で抗酸化作用をする酵素グルタチオンペルオキシダーゼに含まれるミネラル。虚血性心疾患や癌の予防に働いている。欠乏すると老人性シミや動脈硬化など老化現象を促進させる。セレンの安全幅は狭く、セレン中毒は目の粘膜障害、脱毛などに現れるので食物からの摂取が安全。吸収・排泄のサイクルが短く毎日の摂取が必要である。特にニラ、ニンニク、ネギ、玉ねぎなどに多く含まれている。
クロム:インスリンの働きを助け血糖値を正常に保つことに貢献している。欠乏すると糖尿病、高コレステロール血症、動脈硬化などを誘発する。一方、毒性も強く発癌性が指摘されている。
野菜、肉、魚、野菜など幅広く含まれているのでバランスの良い食事をしていることでOK.
マグネシウム:マグネシウムを含む化合物の一つに葉緑素がある。過剰なマグネシウムを摂取しても体外に排泄されるだけ。種々の新陳代謝に関与しており、虚血性心疾患など循環器疾患を予防し、骨や歯の形成にも働いている。野菜・豆類・海藻などに多く含まれており、特に昆布、ヒジキ、わかめ、アーモンド、大豆、玄米に多い。水溶性であり、にがり使用の豆腐の水にも若干溶け込んでいるので私はこれらを捨てずに味噌汁に利用している。
亜鉛:酵素活性の中心として働き、インスリン合成にも関与している。欠乏すると味覚異常を起こす。カキ、レバー、牛肉、卵黄などに多く含まれている。神経伝達物質形成にも関連しており「うつ」の改善にも貢献している。
今回取り上げたものは食卓の主役にはならないが大切な脇役食品である。特にミネラル類は欠乏すると病気になるので絶えず注意しておくことが大切である。私たちの体は食物を通じて地球の大地とつながっている。体を構成している成分は土に含まれている元素からなっており、もっと大きく目を開いてみれば、それらの成分はさらに宇宙へとつながっていることに気付くであろう。だから土や水が汚染されると我々の健康を損なうことにつながっていく。私たちが健康な体を維持しようとすれば汚染されていない土から生まれた作物を取り入れるのが基本となるが、極度に精製された穀物や無機の化学肥料を中心に栽培された野菜だけを食べているとだんだんと本来の成分から離れていくことが起こる。太陽の光をたっぷりと受け各種抗酸化物質やビタミン、ミネラルを蓄積している野菜こそ健康を支えてくれる土台となる。有機栽培の必要性もここにある。
最後に各種食材とその健康機能を一覧表にしたものを示して終わりにしたいと思う。今まで取り上げてきた食べ物と健康の関係についてその一部を纏めてみた。この表(「食材の持つ健康機能」)から自分の健康に必要な食材を探してみるのも一つの方法である。もちろんこの表に拾いきれていないものも多いし、限られた健康機能に限定したので、その働きを十分に説明しきれていないきらいはあるが大体のアウトラインは表現できたのではないかと思っている。
健康長寿を支えるために果たしている食の役割は大きいがそれだけがすべてではない。運動や心の在りよう、さらには各種環境要因も健康に大きく関わっている。だからここで取り上げた食から見た健康効果は一側面について述べたに過ぎない。あとは各自で埋めていってほしい。
(平成26年10月 記)