亭主の寸話64『平成の養生訓』 その1

  

 「健康長寿を伸ばす食事」 

  高齢化社会がすぐ目の前に近づく中、マスコミでも盛んに健康長寿を取り上げている。誰もが健康に老後を過ごしたいと願っているがそのためにはどのような行動をとればいいのか、今一つ曖昧である。そこで今回は「平成の養生訓」としてこのことを取り上げてみたい。

近年の研究では高齢化と老化は必ずしも一致しないとされている。高齢になっても若々しい人もいれば若年で老人になる病気もある。さらに体の老化は外見以上に体内ではより大きな個人差が生じているとも言われている。この老化スピードが健康寿命と連動しており、長生きするかどうかは「遺伝子」でなく食べ物を含む「ライフスタイル」で決まってくるとされている。

さらに、人の体の老化は一様ではない。脳や心臓は高齢になってもその大きさはあまり変わらない。これらは血管が閉塞さえしなければいいのだ。これに対して老化は沈黙の臓器と言われる肝臓や腎臓、そして血管の動脈硬化から始まっていく。これらは老化に伴って急速に衰えていく。50歳を過ぎてからどんな食事をしたかによって老化スピードは大きく影響される。

 健康長寿を延ばす食事の3大ポイントは

1 体内のインスリンを大事に使う

2 カロリーの過剰摂取をしない

3 体の錆びつきを防ぐ

に集約される。ではこれらについて一つひとつ見てみよう。

1 体内のインスリンを大事に使う食事

糖尿病を患っている長寿者はいないと言われている。インスリンは膵臓から分泌され、栄養を保管・加工するという大切な働きをしている。インスリンの働きが弱ってくると糖尿病になる。糖尿病はいろいろな病気を併発する最も注意すべき病気である。インスリンの過激な分泌を促すような食生活を繰り返していると、その分泌能力が老化と共に衰えてくる。だからインスリンを効率的に使うことが健康長寿の第一歩といえる。そのための食事のポイントは「朝食を抜かないこと」「インスリンに負担をかけない食べ方」をすることだ。朝の空腹状態の体に食べ物が入ると血液中の糖が急増しインスリンが一気に分泌される。朝食を抜くと空腹時間がさらに長引き、インスリンに急激な負担をかける。これを繰り返すとインスリンの働きが弱ってくる。朝食時のインスリン負担を軽くするには「ゆっくりと血糖値を上げていく朝食の摂り方」がポイント。納豆などのネバネバ食品や味噌汁などはインスリンの緩やかな分泌を促し浪費を抑えることが出来る。

一般的に言って血糖値の上がりやすい食品として、白いごはん、もち、うどん、食パン、煎餅、クロワッサン、白砂糖、さらには、みりん、人参、ぶどう、じゃがいも、トウモロコシ、かぼちゃ、パイナップル、バナナ、スイカ、果物ジュース、ホワイトチョコレートなどがあげられる。

これに対して血糖値が上がりにくい食品として、玄米ごはん、全粒粉のパン、ライ麦パン、そば、サツマイモ、リンゴ、トマト、イチゴ、ごぼう、ほうれん草、レタス、キノコ類、アボガド、牛乳、ヨーグルト、ココア、ゼリー、オリーブオイル、酢、ブラックチョコレートなどが挙げられる。

このようにインスリンの分泌に食べ物が影響を与えることを念頭に入れて常に食事に気を配っていることが大切である。

次に食事の摂取量と老化について見てみよう。

2 腹七分目の食事

2003年に米国マサチューセッツ工科大学で「長寿遺伝子」が発見された。この遺伝子は寿命だけでなく老化の進行にも関与していることがわかっている。この遺伝子は普段は眠った状態になっているがカロリーを制限すれば遺伝子がスイッチオンされる。腹7分目の食事でこの遺伝子は活性化され、寿命を決めるとされる染色体末端のテロメアの分解を遅らせて老化を遅らせる。そのためには食事量を現在の自分の代謝能力(運動量と消化力)に合わせてコントロールすることが大切である。体重を維持することによって「若返りホルモン」が副腎皮質で作られ、若々しい体が作られる。カロリーの過剰摂取かどうかの判断は、20歳の頃の体重プラス5sまでを目安としている。また高脂肪の食事を続けると脳に「老人班(β-アミロイドタンパク)」が蓄積しアルツハイマー病の危険性が高まる。ただし反面、栄養不足状態にならないように気を付けることも大切なことである。 さらに、自分の歯でよく噛んで食べることが健康長寿に大きく影響する。噛むことによって脳の血流が増え、脳の神経細胞が活性化される。また、たくさん噛むことによって消化器系の負担を軽減し、食事量も少なくすることが出来る。つまり、噛むことにもアルツハイマー病や肥満を防止する効果がある。

次に活性酸素の影響について見てみよう。

 3、体の錆びつきを防ぐ食事

人の寿命はどのように決められているか、今までいろいろな仮説が取り上げられてきたが、どれも老化をすべて説明することが出来ていない。最新の仮説で現在最も支持されているのが「活性酸素による酸化ストレス説」である。活性酸素によって体にサビを作り細胞機能の低下や遺伝子の修復不良が起こり、それが病気の原因を作り、老化を早めることにつながる、という考えである。

 最近、体内の老化を進めるものとして終末糖化産物(AGE)の蓄積が指摘されている。これらが体内に溜まることによって内臓脂肪や高血圧へと進み、やがては心筋梗塞や脳卒中を引き起こす危険性が高まる。また、AGEが蓄積するとタンパク質の一種類であるコラーゲンの働きが阻害されて肌のしみやしわの原因ともなる。AGEはタンパク質と糖が加熱によって結びついて生産されるものであり、油で揚げた食品に多く含まれている。ファーストフード店などにはこのような食品が多く、安易な食事に警鐘をならしている。また、褐色に焼き目のついたものは控えるほか、普段から血糖値の上昇を穏やかにする食べ方を心がけることが大切である。

ところで活性酸素とは一体なにか? 少し科学的に説明するとこんなことになる。人間は酸素を吸い込み、細胞の中のミトコンドリアでエネルギーを作っている。このとき酸素は体内でいろんなものと結合しながら働いており、この酸化反応の副産物として生産される炭酸ガスを吐き出している。体内で酸化反応が進むときに、ごく微量の非常に反応性の高い酸素が発生する。これを活性酸素ともフリーラジカルとも呼ぶ。この活性酸素は普通の酸素以上に周りの物質を酸化させ易く、相手を酸化させながら自分を安定させようとしているのだ。このやんちゃで危険極まりない活性酸素に電子を与えて周囲の物質に被害が広がらないようにしてくれるのが抗酸化物質である。一般的に穀物、豆、野菜などでは新しい芽が発芽すると同時に外界からの強い酸化作用に対して防御しなければならない。強い太陽光線や高温の中で生育する植物の体内に蓄積された油脂を酸化から守るためにいろいろな抗酸化物質を備えているのもそのためである。我々の体内にも活性酸素を除去する物質(スカベンジャー)が用意されているが、高齢化と共にその働きが十分機能しなくなる。そこで植物などから抗酸化物質を我々の体内に取り込んでおくことが必要になる。この様な抗酸化物質を野菜などから十分に摂っておかないと私たちの体の細胞は活性酸素によって直接傷つけられて老化、癌化、アルツハイマー病などへとつながっていっていくことになる。

老化とは体の組織の修理不良個所の増加を意味し、癌や痴呆を招き、死を呼び寄せる。では体を鍛えれば老化を防ぐことが出来るか? いえいえ、頑強なスポーツマンが若か死することもすでによく知られている。さらに有名な実験で、二つのイエバエのグループを作り、一方は自由に飛び廻れるようにしておき、他方は飛べなくして歩くだけにしておくと飛び回るグループの平均生存日数は21日であるのに対し、歩くだけのグループの平均は58日であった。これら二つのことからもわかるように、今では老化の引き金を引いているのは呼吸時に発生する活性酸素による酸化であり、激しい運動は活性酸素も多く作って体を痛めていることがわかっている。しかし、活性酸素の発生が怖いからと言って体を動かさなければ、今度は過剰栄養と運動不足で生活習慣病を引き起こすことになるから両者のバランスが重要になる。

つまり、体のさびを防ぐには抗酸化物質を体内に蓄積しておくことが重要である。すでに述べてきたようにその対策としては、野菜などに含まれる抗酸化物質を体内に取り入れておくことであり、このことが野菜を食べることの本来の目的ということになる。 ここで簡単に抗酸化効果が期待できる主な化学物質を挙げると次のようのものである。まず赤ワインなどに含まれるアントシアニン。大豆などのイソフラボン。緑茶などのカテキン。ブロッコリーなどのイソチオシアネート。かいわれ大根などのスルフォラファン。海藻などのフコイダン。リンゴなどのペクチン。トマトなどのリコペン。魚介類のタウリン。鮭のアスタキサンチン。レバーなどのグルタチオン。バナナなどのオイゲノール。柑橘類のリモネン、などが代表的抗酸化物質である。

以上、見てきた通り、体の酸化を防ぐ食べ物をしっかりと取り入れ、インスリンを浪費しない食べ方をしながら、食べ過ぎないことである。このような食べ方をすることによって老化の進み具合を遅らせることが可能になることがわかってきている。

               (平成263月 記)

 

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