亭主の寸話46『続、牛乳は骨を強くするの?』

  

 以前にもこのコラムで牛乳だけを飲み続けていても骨は強くならないことを話してきた。詳しくはもう一度、亭主の寸話20「牛乳は骨をつよくするの?」を読み返してください。ここでは話の重複を避けて先に進みます。

まず、私たちの骨はカルシウムを摂ると強くなるという誤った思い込みをなくすために、昔学校の黒板で使っていたチョークを思い出してください。これは炭酸カルシウムを固めて作ってあります。まさにカルシウムが一杯詰まった棒ですが、横からの力が加わると簡単に折れてしまったでしょう。骨の強さはカルシウムの量だけでは決まらないのです。牛乳を毎日飲んでいれば骨が丈夫になるとの思いはちょうどチョークを一生懸命に作っているようなものなのです。では、何が足りないのでしょうか。

それには、私たちの骨は鉄筋コンクリートと同じだと想像してみてください。鉄筋コンクリートは鉄筋といわれる鉄の棒とセメントで出来ています。もし、鉄の棒を入れないでセメントだけを固めたコンクリートを作ったとすると、それは横からの力で簡単に崩れてしまうことでしょう。しかし、このセメントに鉄の棒である鉄筋を何本も埋め込んでおくと多少の地震でもびくともしない耐震構造が出来上がります。ここでもうお分かりでしょう。骨粗鬆症を防ぐにはカルシウムのほかに何が必要なのかが、、、。そう、家でいう梁(はり)なのです。

骨の丈夫さを構成しているのは骨密度と骨梁構造から成り立っているのです。先ほどのチョークの話は梁のない骨密度だけを高めた姿だったのです。正確に言うと、鉄筋に相当するコラーゲンとコンクリートに相当するカルシウムと、さらに隣り合うコラーゲン同士をつなぎとめている梁からなっているのです。では、骨密度は高いほうがいいのではないか?と思いたくなるのですが、やはり適当な硬さというものがあるようで、“過ぎたるは及ばざるが如し”であり、牛乳をがぶ飲みしたからといって決して骨が強くなることにはつながらないのです。でもこの骨密度を高める方法はある程度納得できていますね。あと、問題は骨梁構造、つまり鉄筋や梁をどうやって作るかということにつきます。もちろん骨粗鬆症の治療に使われる、薬による鉄筋作りもありますが、いろいろな研究からこの骨梁構造を形作るのに役立つ食べ物も見つかってきています。私がここで取り上げるのは日常生活の中で徐々に作り上げられる、この骨梁形成食品の紹介なのです。

 まず最初に取り上げるのが『納豆』です。私の話だから大豆製品にこだわっているのだろう、と疑わないでください。多くの研究で証明されている納豆の隠れた効果なのです。納豆菌にはビタミンK2が含まれています。このビタミンK2にはいくつもの仲間がいますが、納豆菌に含まれているのはその中のひとつであるメナキノン7(MK7)というものです。現在、骨梁構造に役立つと見られているビタミンK2は納豆菌に含まれているMK7MK42種類です。しかし日常の食生活で取り入れようとすれば圧倒的に納豆からのビタミンK2が妥当でしょう。もちろんこれらビタミンK2は納豆菌意外でも含まれているものもありますが、その含有量は圧倒的に納豆菌が高いのです。このビタミンK2は骨細胞からコラーゲンを作る働きに関わり骨に弾力性を与える働きをしたり、骨の新陳代謝を調整してくれています。また、MK7は骨強度以外にもいくつかの効果があます。そのひとつに血管に付着しているコレステロールを取り除いて、動脈硬化をやわらげてくれるという働きに注目が集まっています。このほかにも私たちの体によい働きをしてくれることがわかっています。私は現役で仕事をしていた頃に、納豆菌MK7の骨梁構造形成にかかわる仕事に携わった経験があるので、その中身についてもよく分かっています。

さらに大豆に含まれているイソフラボンは女性ホルモンのエストロゲンに似た構造をしており、体内で女性ホルモンに似た挙動をするのです。女性ホルモンが欠乏すると女性の閉経後に骨粗鬆症が引き起こされるように症状を悪化させます。大豆イソフラボンにはちょうど女性ホルモンが果たしていた役割をして骨粗鬆症を防ぐ働きもしてくれます。この大豆イソフラボンと併せて納豆菌による骨の強度を高める働きは大きいと考えられます。

また、みかんに含まれているβ‐クリプトキサンチンにも骨の強度に役立っているとの研究もあります。この物質はパパイヤや柿などにも含まれていますが温州みかんに含まれる濃度が圧倒的に高いのでみかんから取り入れるのが効果的です。β‐クリプトキサンチンには骨の中の梁を増加させる効果が確認されています。

その他、いくつかのビタミン類、たとえばビタミンB群や葉酸も効果が証明されている栄養素です。ビタミンB6が不足すると骨のコラーゲンにある架橋構造が弱まって骨強度が衰えてくるともいわれています。

 いずれにしても骨の強度はいろいろな要因が絡み合って作られており、牛乳さえ飲んでいれば予防できるというような単純なものではないが、最近の疫学研究から普段の食べ物や運動から骨粗鬆症がある程度予防できることも分かってきています。これからの高齢化社会に向かってさらに骨強度強化についての研究は進んでいくと思われますが、今の我々にとってはまず分かっているところから手がけておくことが大切でしょう。  

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