亭主の寸話45『水の話』

  

  このコラムでは以前に一度、地球上で起こっている砂漠化は増え続ける地球の人口増加によってもたらされていると話したことがある。今日はさらに掘り下げて現在地球上で起こっている水問題の実態について見ていきたいと思っている。

日本では昔から『水は天からもらい水』と言われて、水が身の回りにあることが自然なことだと思われてきた。確かに温帯モンスーン地帯に属するわが国は今まで比較的水に恵まれてきており『豊葦原の瑞穂の国』と自ら称してきた。しかし、現在の地球上で起こっている水事情はわが国からは想像できないほどの危機的状況になっている。そしてそのことが私たちの食卓に暗い影を落としているだけに見過ごすことの出来ない重大事でもあるのです。それはグローバル化の時代になって私たちの食べ物の6割が外国からの輸入作物で賄われている現在、世界の食糧生産に必要な水の枯渇は輸入作物の危機となって私たちに直接影響してくることなのです。さらにわが国は膨大な食糧の輸入を通じて外国から大量の農業用水を輸入していることにもなっており、それらは水の量に換算して年間640億トンに達しているとされています。この量は国内の農業に用いられている農業用水560億トンを遥かにしのいでおり、水危機が叫ばれている今、世界からの非難の対象になってくることでしょう。

以前にも話したように地球は豊かな水で覆われ、生命を育んでいる緑の惑星であるとされています。しかし、地球上にある水の97.5%は塩水であり、多くの動植物が利用できる淡水は全体のほんの2.5%にすぎないのです。しかも2.5%と言われるその淡水も、そのほとんどは氷河など直接利用できない水であり、河川や湖沼にある動植物が利用できる水はほんの0.3%に過ぎないのです。この0.3%の水で植物が育ち、動物や人が地球上で生活をしているのです。地球上の人が利用している水の使い道を見ると、農業用水として全体の7割を利用しており、工業用水として2割、生活用水として1割を利用しているとされています。

では、わが国はどうか、日本の水の使い方を国土交通省の資料から見ると(日経新聞2006年)、わが国の年平均降水量は6,500億トンで、そこから35%に相当する水は空気中に蒸発してしまい、51.7%の水はそのまま海に流れ込んでしまう。結局我々が利用できる水の量は降ってきた雪や雨の12.9%に当たる839億トンということになる。これらの水を農業用水に66%に相当する557億トン使い、生活用水に19%に相当する161億トン使い、工業用水として15%121億トン使っている。ここで言う生活用水とは、食事への利用、風呂などの家事全般への用途、公園・学校など周辺地域への用途などを指しています。ちなみに老人家庭である我が家の夏の水道メーターを見ると、1日一人当たり200リットル水道水を利用していることになっている。わが国の統計によると、日本人は一人1350リットルの生活用水を使っているとされています。しかし、世界の生活用水の使用量は、アフリカなど水資源が乏しい地域も多く、平均して174リットルとわが国の半分に過ぎません。

2005年に南米のアマゾン川で渇水現象が起こり世界を驚かしました。あの世界最大の河川での数ヶ月に及ぶ渇水の原因は気温の上昇によるものと考えられています。地球の温暖化現象が叫ばれている今、近未来の不吉な予告を見せ付けられた思いがしました。黄河に起こった断流現象、アメリカなど各地で起こっている地下水の低下など地球は今や水不足の時代を迎えているのです。国連のIPCCによると2050年までに水に苦しむ人は世界で30億人に達すると予測している。これらも増え続ける地球上の人口爆発による水の使いすぎと地球の温暖化に原因があると考えられるのです。急増する世界の人口は、現在(2010年)の69億人から今世紀半ばには90億人に達すると予測されている。この拡大する人口を賄うために限られた水を利用して農産物の増産を図らなければならないのです。世界は今、生活用水も、農業用水も、工業用水も全て水の消費量が拡大し続けているます。一方で供給される雨の量はほとんど変わっていません。いや、地球温暖化によって利用できる水の量は減少していくのかも知れません。農業用水も人口増加に対応できるだけの水が確保できるかどうか、悲観的な予測しか見当たらない状況です。それは、農業には多量の水を必要とするからです。牛肉1kg作るのに必要な水は17トンといわれています。豚肉でも6トン、大豆で2.3トン、水田で作る米は25トンほどの水を利用していることになります。つまり、水不足の地球上で食料を増産することは困難なことなのです。

人間はほとんどが水で出来ていると言っても言い過ぎではありません。生まれたばかりの赤ちゃんは97%が水分だとされています。高齢者でも70%の水分で出来ていると言われています。体重70kgに近い私は50kg近い水を抱えていることになります。そして毎日3~5リットルの水を食事などで補給し、同じ量の水を汗、尿、糞などで排泄しています。もし体の5%の水分を失うようなことが起きると幻覚が起こり、12%失うと死に至るとされています。水は人間の生命にとってまさに命の源なのです。地球上での水不足は人類の水を巡る争いに発展し、人口淘汰へとつながることを示しているのです。わが国が海外から多量の農産物を輸入し続けることが出来るかどうか、難しい時代が目の前に差し迫ってきているのです。

 これからは淡水化技術の時代だといわれています。わが国はこの分野では世界の先頭を走っている技術大国ですが、はたして世界の水飢饉を救うことができるのでしょうか。この淡水化技術で世界が直面している危機を救うことが出来なければ、世界は近いうちに水を巡る世界紛争に巻き込まれることでしょう。

茶話会の目次に戻る