亭主の寸話43『豆乳ヨーグルトの働き』

  

地球に一番多く住み着いている生物は、実は目に見えない微生物なのです。地球は動物と植物の世界で、人間がその一番上に君臨している、というのは全く独りよがりな見方なのです。微生物の体の大きさは大体1/10ミリメートルから1/100ミリメートル、ウイルスになると1/10,000ミリメートルですから我々が見えていないだけのことなのです。彼らは地球上のあらゆるところに住んでいる。火山の噴火口の熱湯の中にも、南極の氷の中にも棲みついている。水深1万メートルの海底の高圧中にも棲息しているのです。なかでも彼らが一番多く住んでいるところは海水の中で、ここには多くのプランクトンが住み着いておりまさに命のルツボの様相を呈している。

微生物が行う営みの中から人間の生活に役に立つものが生まれることを発酵といい、悪いものが生成してくるときには腐敗と呼んでいる。微生物にとってはただ自分の生活を守っているに過ぎないのですが、微生物の暮らしの中で出来たものを見て人間が発酵と呼んだり腐敗と呼んでいるに過ぎないのです。発酵によって糖類から多量の乳酸を作り、しかも腐敗物質を作らないものを一般的に乳酸菌と呼んでいる。彼らにとっては乳酸を作り出すことによって自分の住む環境を酸性にしておき、他の微生物が繁殖できないようにして、自分の増殖に有利になるようにしているに過ぎないのです。そして人間は昔からこれらの菌の働きを利用してヨーグルトの生産などに利用してきたのです。乳酸菌はなにもヨーグルトに限ったことではありません。漬物などの発酵食品や醸造食品の製造には乳酸菌は大活躍をしているのです。

地球上で東アジアと東南アジアが地球上で最も発酵菌の生育に適した気候です。温暖で湿度があり、落葉樹に恵まれているからです。だからこの地域には発酵食品が多いのです。ヨーロッパは地中海気候で乾燥しているのでカビがいないし、菌も少ない。だからヨーロッパでカビの食べ物はチーズとヨーグルトくらいのものです。わが国には古くから沢山の発酵食品がありました。麹菌、納豆菌、乳酸菌などが多くの発酵食品で活躍していることはご存知の通りです。

これら乳酸菌食品を食べてもほとんどの菌は胃の中の酸で死んでしまいます。最近は乳酸菌が生きて腸にたどり着くことを謳ったヨーグルトも増えてきている。しかし、たとえ生きて腸まで届いても新参者の乳酸菌がそこで住み着き増殖することはほとんどない。腸内には60兆個とも100兆個とも言われる先住民の菌が住み着いており新参者はなかなか住み家を得ることができないのです。だから結局そのまま排泄されるのがオチである。しかし、これも毎日繰り返していると少しずつ顔馴染みとなって定住できるようになるので食べ続けることが肝心なことである。

腸内の菌類は大きく分けて善玉菌、悪玉菌、日和見菌であることは以前に話した通りです。発酵食品を食べる意味はもちろん美味しさを求めてのことではあるが、もうひとつは腸内の善玉菌を増やして体調を改善することにもあります。善玉菌を増やすには乳酸菌などの善玉菌を送り込んでやるのが最も効果的だが、たとえ胃酸で死んでしまってもその死骸が腸に棲む善玉菌の餌となって善玉菌を増やす働きをしてくれるので乳酸菌を送り続けることは大切なことといえる。

では乳酸菌を腸に送り込んでやるとどんな働きをしてくれるのか、それはまず第1に腸内の毒素生成を防いでくれます。腸内に悪玉菌が増えるとアンモニアや硫化水素を作りこれが便秘、下痢、高血圧、老化促進などの引き金になります。これらを防いでくれるのです。第2に発癌物質を追い出してくれます。食の欧米化に伴って大腸癌が増加しています。これは蛋白質が腸で消化されるときに悪玉菌が働いて発がん物質を作り出すからとされています。さらに善玉菌を増殖させることによって腸内が酸性になり病原菌の増殖を抑え、感染症も防いでくれます。第3に乳酸菌はビタミンB1B6B12Kなどを作り出して体調を整えてくれます。第4に、免疫力を高めてくれます。人間の免疫システムは腸の周辺に集まっています。これらが乳酸菌の刺激によって活性化されるとされているのです。また、アレルギーの改善にも効果が認められています。第5に便秘を防いでくれます。腸内の善玉菌によって作り出される有機酸により腸の蠕動運動が促され便秘を予防してくれるのです。

このように乳酸菌食品は私たちの健康維持にとって大切な食べ物ですが、どのような食べ方をするかも重要です。漬物で毎日摂り続けると塩分が気になります。牛乳ヨーグルトで摂り続けると動物油脂によるコレステロールが気になります。阿波晩茶のような乳酸菌による発酵茶もありますが愛用者が限られています。そこで体にいい豆乳に乳酸菌を植えつけて作ったヨーグルトが注目されるのです。ベースとなる牛乳と豆乳を比較すると、豆乳ベースのヨーグルトには動脈硬化の心配となるコレステロールがなく飽和脂肪酸も少ないので安心できます。豆乳には牛乳のようなカルシウムがない代わりに生活習慣病を予防してくれるイソフラボンなどが含まれている。さらに豆乳に含まれている食物繊維も有益な腸内細菌を増殖させてくれます。豆乳ヨーグルトを摂りつづけることによって肝臓脂肪を防ぐ働きがあることも報告されています。

私たちは年齢が進むに従って善玉菌が減ってくるといわれています。だから毎日の食生活の中で上手に取り入れていくことが大切です。さらに有難いことに発酵菌は一般に発酵中に多量の栄養成分を生産して食品中に蓄積してくれる。たとえば煮大豆よりも納豆のほうが栄養分が豊かであり、さらに納豆菌には血栓を溶かしてくれるナットーキナーゼやビタミンK2などを貯めてくれている。同じように蒸した米よりも甘酒のほうがブドー糖が多くビタミン類も豊富である。さらに発酵食品は腐敗菌の繁殖を防ぐので食品の保存期間も長くすることが出来る。

所詮たかが70億人足らずの人間にとっては地球上に満ち溢れている微生物の力を借りなければこの世では生きられないように出来ているのではないでしょうか。

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