亭主の寸話36 『病気に強くなる食べ物』
私たちは食べ物が自分の体に影響をしている、ということをなんとなく意識している。あるいはそのことを強く意識しながら食べている人もいるかもしれない。子供のうちは「沢山食べて大きくなりたい」「強くなりたい」という気持ちがあったように思う。女の子ならある時期から「スリムになりたい」「美しくなりたい」との気持ちも湧いてこよう。いずれにしてもこのようなことは食べ物を通して実現できることと知るようになる。私たちの体は食べた食品を材料にして毎日作り変えられており数ヶ月のうちに体のほとんどの部分は入れ替わってしまう。だから上に書いたような気持ちで食事を続けておればその希望がかなえられるかもしれない。なにしろ私たちは平均して1年間に1トンの食べ物を口の中に放り込んでいるのである。その中身によって身体が影響を受けるのは当然であろう。そして、ある年齢以上になると「病気に強い体になりたい」「生活習慣病を治して長生きしたい」という願望が誰にでも芽生えてくる。体が食べ物によって作られていることを考えればこれらの願いも食べ物に向いてくることは当然のことだ。では、病気に強い食べ物ってどんなものなのだろうか、今日はこんな話をしてみたい。
私たちの体は絶えず体の外からの病原菌や自分の体にとって異物とされるものからの危険にさらされている。また、自分の体の中からも「癌」などのように病気の原因が発生している。そしてある人は病気となり、ある人は病気を免れている。この違いはどこから来るのだろうか。ひとつはその人の持っている遺伝的体質によるところがあるだろう。しかし、多くの部分は毎日の食事などの積み重ねによることのほうが多いように思っている。病原菌に犯されやすい体質や病気に打ち勝つ強い体質にはどんな食事が影響しているのか、それらにも現代の科学が少しずつ明かにしつつあります。
私たちの体を病気から守っている最前線の現場が体の中で繰り広げられている免疫という防御システムである。つまり、病気に強い体となっているかどうかは、この免疫システムが十分機能しているかどうかにかかっている。その免疫機能にも毎日の食事内容が影響を与えていることが分かってきている。我々が毎日の食事を通じて少し意識して応援してあげれば体の免疫システムは私たちの体を病気から守ってくれることでしょう。しかし、世間にはいろいろな健康にまつわる話が飛び交っている。すべてがでたらめとは言わないにしても、しっかりとした化学的裏付けなしに効果を言い立てるのは多くの人たちを惑わせるだけだ。最前線の研究の中から多くの賛同を得て、ある程度定着している考え方を中心に紹介したい。
免疫力を弱める大きな要因は悪い食生活によるもののほかに、加齢、ストレス、エイズのようなウイルス、その他種々の環境物質が認められている。しかし、我々にとって加齢はもちろんのこと、現代の社会の中に生活していてストレスなどさまざまな周辺からの影響から逃れることは出来ない。唯一自分で管理できる免疫力保持の手段は、エイズの危険から自分の身を守ることと、自分の食べ物を管理して体の免疫機能を弱めないことであろう。
まず、免疫とはなにかということだが、免疫とは体に備わっている自分の体を守る働きのことを指している。しかし、そのメカニズムの中身は非常に複雑であるのでここではその細かな説明は省略することにして概略だけを示しておきたい。免疫系は2つの部隊から出来ている。1つは毎日町の中を見回っている警察署のようなもので大抵の悪者はパトロールしながら防ぐことが出来ている。しかし、外国から軍隊が攻めてきたり大地震で街が破壊されたときには警察の力だけでは対応が出来なく、自衛隊の出動ということになる。免疫のシステムではこれを自然免疫系と適応免疫系と呼んでいる。自衛隊に当たる適応免疫系には陸軍と空軍があり相手によって出動する部隊が違う。相手がバクテリアの時には液性免疫が出動し、ウイルスの時には細胞性免疫が出動する。彼らはリンパ管や血管を巡りながら体に悪影響を与える侵入者に目を光らせているのである。この血液の中には食事から取り込んだ栄養素が各組織に向かって輸送されており、それらの栄養素が血管の中を巡っている免疫組織に影響を与えていると考えられている。また、これら免疫系は一度体に入ってきた病原体を記憶しておいて次に再び進入してきたときにはすばやく撲滅できる体制を準備していたり、同じ蛋白質でも自分のものと他のものを区別して守ってくれているのである。ところが体が衰弱したり偏った食事を続けていると、この免疫力が充分に働かず病気になり易くなる。だから免疫力が強くなる食べ物とは体力を高める食事ということにもなる。
免疫力を高める食べ物として最も基本になるのが蛋白質である。良質の蛋白質は免疫力を高める最も重要な食べ物である。我々が子供の頃に風邪を引いて寝込むと母親がおかゆに卵を入れた食事を用意してくれたり、牛乳を飲ましてくれていたことを覚えているだろう。良質の蛋白質が風邪に打ち勝つ免疫力を回復してくれることを経験的に知っていたのである。良質の蛋白質とは人の体が必要としているアミノ酸組成が備わっていることであり、動物性蛋白質のほかに大豆製品なども肉に負けない優れたアミノ酸組成を持っている。豆腐、豆乳、納豆などの大豆製品が免疫力を支える蛋白質を強化してくれるが、さらに大豆には肉以上に免疫力の強力な材料を供えている。それは大豆が豊富なビタミンEを持っていることである。
免疫細胞は体の中で出来る活性酸素によるダメージで働きが弱まることが知られている。この悪影響を与える過剰な活性酸素の働きを抑えることが出来るのが抗酸化作用のあるビタミンEである。ビタミンEは油に溶けやすい性質を持っている抗酸化ビタミンであるが、逆にビタミンCは水溶性の抗酸化ビタミンとして知られている。私たちの体の中には水系の組織と油系の組織があるので、からだの免疫機能を守るためにはこの両方の抗酸化ビタミンが必要になってくる。また、これらのビタミンは免疫細胞の中で中心的働きをするT細胞を活性化するという積極的な働きも知られている。
また、ビタミンAは体の中で作られる抗体の量を増やす働きが知られており、これら3者のビタミンがお互いの働きを補完しながら免疫機能の充実を図っているのである。
もうひとつ免疫力を高めるのに必要な食べ物としてラクトバチルス菌やビフィズス菌を食べ物として取り入れることである。これらの腸内細菌には免疫細胞を活性化させてがん細胞の増殖を抑える働きなどがあるといわれている。さらに別の免疫細胞が体の中に入ってきた病原性の微生物を自分の細胞の中に取り込んで分解してしまう働きも活性化させる。このような体にいい働きをしてくれる微生物のことを今ではプロバイオティクスと呼び、積極的に体に取り込むようにすることが必要であるとされている。私たちの身の回りでもっともポピュラーなプロバイオティクス食品は納豆とヨーグルトであろう。また、これら有用な腸内細菌が私たちの腸の中で増殖できるように栄養を与えてやる必要があるが、それらのエサとなるものをプレバオイティクスと呼び、最も代表的なものがオリゴ糖である。オリゴ糖は黄な粉などの大豆製品に多く、その他ごぼうなど幅広く食材に含まれている。このように見ると納豆は有用微生物を体内に取り入れるプロバイオティクスの働きと、それらを増殖させるプレバイオティクスの働きの両方をしてくれるありがたい食べ物である。
もう一つ付け加えるならば、亜鉛やセレンといったミネラルも欠かせない微量栄養素である。これらのミネラルは抗体を作るのに必要であったり、抗体の働きを高めたりする。
これら免疫力を高める栄養素を何から採ればいいか、については個人の好みもあるので、細かく述べることは止めにしておくが、効率的に必要な栄養素を取り入れることが出来る食品は次のようなものだろう。
納豆:良質の蛋白質+ビタミンE+亜鉛+セレン+納豆菌+オリゴ糖
豚肉:良質の蛋白質+亜鉛
卵 :良質の蛋白質+セレン
うなぎ:良質の蛋白質+ビタミンE+ビタミンA
ヨーグルト:良質の蛋白質+乳酸菌
ブロッコリー、レモンなど:ビタミンC
といった食べ物を取り上げてみたがどうだろうか。自信のない方は適度な栄養補助食品でバランスをとるのも一つの方法でしょう。私自身はビタミンEのカプセルを毎日1個ずつ採り続けて35年ほどになる。
こうして免疫力を高める食事を心がけながら、たばこなど健康に悪いものは避ける、適度な運動と睡眠、ストレスの解消と定期的な健康診断、これらの組み合わせが健康な体を守る防衛ペンタゴンと言える。健康で長生きを意識しているなら日々の食生活にもある程度の心がけが大切であろう。