亭主の寸話28 『環境問題は人口問題』

                                     

いまや環境問題は新しい時代を迎えようとしています。アメリカの民衆に支えられて登場したオバマ大統領はグリーンニューディールを旗印に化石燃料に代わる環境にやさしいエネルギーを産業として育成すべく新エネルギー政策を前面に押し出してきています。そして、そこに新しい技術が生まれ新しい産業が立ち上がるパワーが生まれようとしているのです。原子力エネルギーや太陽光発電、地熱発電、風力発電など石炭・石油に代わるクリーンエネルギーを求める動きが活発に動き始めています。わが国では世界に先駆けて宇宙に巨大なパネルを建設して太陽光発電を起こし、それをマイクロ波に変換して地球に送り届け、再び電気に換えるという21世紀型新エネルギープロジェクトを立ち上げようとしています。既に電気自動車の話題が株式市場をにぎわしていたり、太陽光発電のパネルが各家庭の屋根に取り付けられようとしていることも私たちの身近な話題になっています。今や環境問題は新しい時代の切り札になろうとしています。このような動きは大いに歓迎するところですが、しかしこれら代替エネルギーだけで現在の環境問題が解決するとは考えられません。

地球温暖化をもたらしている炭酸ガスの排出に対しては、その一部について解決の糸口を見出せたかもしれませんが食糧増産を求めての森林破壊や過剰な放牧や灌漑などによって引き起こされる生態系破壊や砂漠化の問題、河川や地下水の水質汚染による公害問題や水資源枯渇など我々の地球は奥深い課題を重く抱えています。これら環境問題のそれぞれにはいくつかの原因が横たわっていますが、さらにこれらに共通する背景として地球の人口増加という大きなマグマが強く影響していると思っています。この爆発的な人口増加を止めない限りいかなる対処療法もどこかで行き詰まり、その効果も崩れ去ってしまうのではないでしょうか。しかし、これだけ環境問題が華やかに議論されても、不思議に地球の人口増加を止める議論は出てきません。すべての根源は増大する人口問題にありという私の考えは間違っているのでしょうか。

国連の予測では2050年には現在の地球人口68億人が90億人に膨れ上がるとされています。そしてそれだけ増大した地球人口がよりよい生活を求めて地球資源を消費し、さらには肉などの良質食糧を求めて動きだしたら地球上の森林をすべて切り倒して畑にしても賄いきれません。最近のシミュレーションによれば、この欲求を満たすためには地球が5つあっても足りないという計算になっています。つまり、人口が増えれば食糧だけでなくエネルギーをはじめとするあらゆる資源が枯渇し、水を巡る争いはそれぞれの民族の生死をかけた戦いに発展していくことは明らかです。私は現在の環境問題とは、そこまでに至る過程で起こる一時的なアンバランスの状態を示しているに過ぎないのではないかと思っています。

国連の推計によれば、地球の人口が1億人に達したのが紀元前2,500年であり、それからさらに1億人増えるには2,500年を要し、紀元元年にやっと2億人の人口に達したとしています。その後は徐々に人口増加のスピードが加速し、1900年頃には人口が10億人増えるのに要する時間は100年であったのが、1970年ころからさらに急角度で人口増加が進み、今では10億人増えるのに12年しか掛からないところまできています。まさに人口爆発の様相を呈しているのです。そしてその延長線上の2050年には地球人口が90億人になるというのです。

わが国はご存知の通り既に人口減少の道をたどっています。わが国のように人口増加が既に停滞、もしくは減少に転じている国はいくつか見られますが、その一方でアジア、アフリカの一部で急速な人口爆発が続いており全体として毎年8千万人ずつ増加していることになります。これら増加し続ける地球人口を賄う食料のために熱帯森林を切り開いて畑を作り、荒地に灌漑施設を張り巡らせて水の枯渇や砂漠化、塩害の広がりによる耕作不能地を広げているのが現状なのです。

90億人の人たち全員が電化された豊かな生活を送り食糧と水を充分に得るだけの容量は地球にはないのです。そのことは既にシミュレーションで明らかなのです。それなのになぜ地球環境の問題に爆発する地球人口の問題を前面に取り上げないのでしょうか。この問題が発展途上国を相手に取り上げにくい問題であることは充分承知しています。しかし、この問題を避けて地球環境は解決の方向を見出せないことは分かりきったことではないでしょうか。この根本的な課題を先送りして表面を上塗りし続けていてもいつかはこの問題に再び突き当たらざるを得ません。

先日、あるパーティーで政府の要職を務めておられた方とお会いしました。そのときに私のこの考えを聞いてもらいましたが、その方も私の考えに同感だといっておられましたが、それ以上については口を濁してしまわれました。おそらく世界の為政者の共通した姿勢ではないかと思っています。

テレビでは毎日のように地球環境への取り組みについて「明日のエコでは間に合わない」と繰り返して呼びかけています。私はこの人口問題こそ今すぐ取り掛かるべき課題であり、明日では遅いのではないかと思っています。すでに地球上の穀物生産量は現状の人口に対してさえも限界に達しています。森林破壊も炭酸ガスの吸収に備えるにはすでに限界を越えています。水問題、砂漠化問題、汚染問題など、どれをとっても人口増加によって引き起こされている問題であり待ったなしです。

私は地球上の皆が豊かな生活を目指して努力し、実現して喜びを得るのには、現在の人口の半分の3040億人程度が妥当な人口ではないかと思っています。今後、急速に教育と技術が普及し、現在のわが国程度の生活レベルに将来到達することを考えれば、たとえ新エネルギー実現の下にあっても地球はこのくらいの人口しか収容することが出来ないと思っています。すでに現在の人口はその倍に達しているのです。それは現在地球上に貧富の格差があることによってかろうじてバランスを保っていますが、今後発展途上国の力が無視できない時代になり、急速に格差が縮小していくとすれば、恐らく30億人ほどの人が利用する資源しか地球は供給できなくなるでしょう。

つまり、地球とは30億人の人間と豊かな森と水と動物たちで共存しながら末永く生き続ける星ではないかと思っています。それがこの地球という星の容量なのです。この地球全体の調和を求めて調整をしていくためには、国家のエゴや個人の際限ない欲望をひかえ、地球全体の調和を優先するという譲り合いの精神が大切になってくると思います。このことがなければ、私は地球が破滅の方向に突き進んで行ってしまうのではないかと心配しています。今後このような基本を踏まえた視点に立ち、環境議論が展開していくことを私はひたすらに期待しています。そしてそのことによってきれいな環境を保った美しい地球を我々の次世代に手渡していきたいと願っています。

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