亭主の寸話25 『自給率40%の食事3』


前回のお話にも出てきたように今のわが国の農産物だけで生活しようとすれば非常に貧しい食事になってしまうことは明らかです。出来るだけそのような状況が発生しないように今から努力をしておきたいものです。しかし、どんな努力が私たちの自給率を高める取り組みになるのかが分かりにくいものです。また、私たち個人で出来る改善と国や企業が取り組むべき対応は違ってくるはずです。今回はそのあたりのことについて話をしたいと思います。

まず昨年話題となった企業の取り組みを取り上げたいと思います。2008年に大手商社の三井物産がブラジルの大豆生産に100億円に近い大型投資をしたことが新聞でも大きく取り上げられました。今までの商社の穀物関連の投資はそのほとんどが集荷設備への投資であり、それよりも川上、つまり生産現場に近づくことはありませんでした。ところが三井物産が行ったこの事業投資はブラジルに10haの農場を持つ会社を含む、大豆を中心とする農産物の生産・集荷・輸出の一環事業の展開でした。この事業展開の背景にあったのは、やはり世界的な遺伝子組み換え穀物の拡大にあったと思われます。特に大豆の生産は、世界的にも遺伝子組み換え大豆への流れは強く、日本の消費者が求める非遺伝子組み換え大豆を入手することが難しくなっていることに対する危惧が大型投資につながったのではないかと思われます。これら海外生産の取り組みは今まで前例がなかったことではありません。いくつかの穀物取り扱い業者が意を決して海外に乗り出して穀物生産に参加していった事業もありましたが、大手商社が大型投資を踏まえて乗り出したのはこれが初めてだったのです。

外国で日本人が穀物を作って日本に持ち込むと、その作物は国産作物か輸入作物かは世界で見方が異なっています。日本では、外国の土地で日本人が栽培して日本に持ち込んだ作物は輸入作物と見なされることになっています。だから、これら一連の企業努力も日本の自給率向上には結びついてはいませんが、これからの穀物の安定供給という観点からは大いに期待したいところです。また、非遺伝子組み換え穀物を安定的に集荷するためにも必要な手段だったのではないかと想像します。

わが国と同じように食糧自給率が低い韓国では、やはり穀物商社が開発途上国などで大規模に農地を契約し穀物の栽培に乗り出しています。その面積は230haになろうとしているといわれています。そしてそこで収穫した作物を韓国に持って帰ろうというのです。韓国の国内事情からは望ましい取り組みとして歓迎されていますが、ヨーロッパのほうでは、新たな植民地政策ではないかとの批判も出ています。中国もすでに200haの農地を海外に求めているといわれています。サウジアラビアなど湾岸各国もすでに海外に農耕地を契約しています。企業が行うこれらの取り組みが、はたして植民地政策と非難されるべきものかどうかは難しいところですが、外国から売ってくれるのを待つ従来の穀物輸入から、自分が出向いて行って栽培し、持ち帰るという新たな時代に入ったのかな、と大きな流れを感じる企業の新たな動きです。

しかし、わが国には耕作を放棄された39haという広大な農地を国内に抱えています。国内に耕作放棄地を持ちながら海外の農地に手を伸ばす矛盾をどう考えるか、難しいところでしょう。企業が海外の広大な面積で、安い労働力を使って国際価格並みの穀物を生産して商品競争力をつけようとの発想は当然理解できます。しかし海外から眺めたときに、これら一連の企業行動がどう映るかは充分に気を配っておく必要があることでしょう。

次に私たち消費者が食糧自給率向上に向けてどう行動すべきか、という所に話を進めましょう。まず、私たちが自給率を改善するために始めなければならないのが無駄の排除です。私たちは食べ残しなど安易に食べ物を捨てるということを何気なしに行っており、しかもその量が見過ごすことの出来ない大量になっていることに気がつかなければなりません。農水省が行った「食品ロス統計調査」によると、2005年度では一般世帯での食品ロスは4.1%ですが、二人世帯、単身世帯や高齢者のいない3人世帯ではさらに大きなロスが発生しています。また、外食や宴会でのロスはさらに高く、結婚披露宴での食べ残しは22.5%で、その内訳は野菜25.1%、飲料類24.7%、果実類24.4%となっています。結婚式だけは豪華に、というのは日本の昔からの風習の一つかもしれませんが食糧の無駄という面では大きなロスになっています。一般の宴会でも15.2%の、宿泊施設でも13%の無駄が発生しています。これらのロスを少なくすることも輸入食糧を低減する大きな力となります。日本人が実際に食べた摂取カロリーと購入した供給カロリーの差を食品のロスと見れば、わが国の食料品の無駄は年を追って大きくなっています。

  供給カロリーと摂取カロリーの差をロスと見なしたロス率は、

1960年                                8.5%

1970年                                           12.5%

1980年                                           17.3%

1990年                                            23.1%

2000年                                            26.3%

この推移を見てもいかに無駄なロスが増えているかがわかることと思います。直近のデーターの2005年では、供給カロリー2,564キロカロリーに対して摂取カロリーは1,902キロカロリーであり、仮にその差の無駄をなくせたとしたら、それだけでわが国の食糧自給率は3%上がることになります。

家庭内で発生する食品のロスの最も多い原因はスーパーなどでのまとめ買いです。お店は大量に仕入れた食品を売り切りたい、との思惑で特売セールを打ち出しますが、安さにつられて買った食品は使いきれなくて捨てられるか、時間がたって風味を落とすことになってしまいます。食品は新鮮さが最も重要です。余分なものは買わない、買ったら使い切る、がモットーであり、そのことが食糧自給率の向上にもつながります。

 もう一つの方法は、私たちが自給率の高い食品を選んで食べることです。具体的には、自給率100%の米を多く食べて海外からの輸入に頼っているパンなどの小麦製品、肉・乳製品の摂取を減らすことです。小麦はそのほとんどを輸入に頼っているし、牛肉も国内で43%生産されていますが飼料となる配合飼料が輸入に頼っているので自給率では11%にしか過ぎません。豚肉は国内生産が52%ですが、同じく自給率ではたったの5%です。鶏肉も国内産69%に対して自給率は7%。鶏卵は95%が国内産ですが配合飼料を含む全体で見ると自給率は10%にすぎないのです。このようにパン食を中心とした食卓は国内自給率の低い食材で占められていることになります。

また、産地直送野菜など地元の食材を意識して購入することによって輸入野菜を減らすことも出来ます。このようなことを私たち消費者が意識するかどうかで大きく食糧自給率は変わってくるでしょう。

同じことが学校給食にも当てはまります。子供の頃にどんな食事をしてきたかによってその人の一生の嗜好が決まってきます。学校給食でパン食を続けて育った子供はパン食に馴染み、副食に肉や乳製品を選ぶようになってきます。そして国全体の食糧自給率を引き下げてゆくことにつながります。わが国の現状はまさにこの姿です。現在、子供たちの肥満やコレステロールが問題になっています。行過ぎた洋食指向は子供の健康を害するのと同時に子供の成長に伴っての長期にわたる食糧不安を招くことになります。

現在、日本型食事の大切さが唱えられています。これは昔の和食に戻ろうというのではありません。昔から受け継いできた日本の食文化を基本にしながらも肉食の大切さ、乳製品の大切さも踏まえて、それらを適度に摂取していこうという食事のあり方が最も望ましい食べ方だとされているのです。この日本型食事は長寿国日本を支える食べ方だとして海外からも高く評価されています。この理想とする日本型食事から見ると、現在の、特に子供たちの食事が肉・乳製品に偏りすぎていると考えられています。これらを学校給食や家庭から修正していくことによっても食糧自給率の改善に結びついていくことでしょう。

わが国の食糧自給率の改善は私たち消費者が意識することによって5%程度の改善は可能であろうと考えています。私たちが祖先から受け継いできた「もったいない」の気持ちをよみがえらせるだけでも事態は好転していきます。100年に一度といわれるこの大不況の時期にもう一度「もったいない」の気持を復活させてみてはいかがでしょうか。


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