加藤昇の(新)大豆の話

99. 遺伝子組み換え大豆

 世界の大豆生産の主体は遺伝子組み換え大豆となっています。2017年現在、遺伝子組み換え作物は大豆、菜種、トーモロコシ、綿の4種類であり、世界24か国で栽培されています。遺伝子組み換え大豆を栽培している国は9か国(アメリカ、ブラジル、アルゼンチン、カナダ、パラグアイ、南アフリカ、ボリビア、ウルグアイ、チリ)であり、世界の大豆栽培面積の77%が遺伝子組み換え大豆になっています。

 

 我が国は年間の大豆の使用量330万トンに対して国産大豆は23万トン程度であり、不足分の300万トン以上を海外からの輸入に頼っています(2016年実績)。これら海外から輸入している大豆の73%は搾油用の遺伝子組み換え大豆となっています(2017年実績)。我が国はこれら大豆の他にトーモロコシを1,500万トン以上、菜種を240万トン以上毎年輸入していますが、これらは全て遺伝子組み換え作物です。つまり、私たちが日常食べている菜種油、大豆油、コーン油、綿実油はすべて遺伝子組み換え作物から抽出している油なのです。そしてそれらの油脂を摂取することにより現在、私たちの健康が保たれているのです。トーモロコシからはコーン油の他に澱粉を分解した異性化糖は甘味料として炭酸飲料や各種酒類にも利用され広く食品素材として使われています。

遺伝子組み換え作物を食べると毒が入っているように騒ぐ人もいますが、私たちはこれらの油脂や食品原料をすでに20年以上食べ続けているのです。そして私達は世界でもトップクラスの健康長寿の国になっているのです。私たちはこの現実を直視しておかなければなりません。

 

私たちは作物としての遺伝子組み換え大豆とそこで使われる除草剤や殺虫剤を一緒に考えることには矛盾があります。除草剤や殺虫剤は生物の生命メカニズムを破壊して効果を発揮している農薬であり、人の健康に役立っているとは到底考えられません。だから私も農薬は人の健康には害を与えるものとしか考えられません。現在、アメリカのモンサント社(バイエル社が買収した)が作っている遺伝子組み換え大豆である除草剤耐性大豆ラウンドアップ・レディーに使用されている除草剤の主成分はグリフォサートの発癌性について大きな論争が起こっています。サンフランシスコの地裁はグリフォサートに発癌性が認められるとの判断を下しており、多くの裁判が後に続いています。グリフォサートには発癌性の他にも妊娠期間の短縮や精子の減少なども指摘されています。しかし現在まだ企業との裁判での係争が続いており世界の注目が集まっています。しかし自然界の中で作物を無事に育てるためには除草作業と虫よけ作業は必須の農作業です。これらを農薬を使わずに行うことになれば農家の労力は大変であり、現在の耕作面積を維持することは困難でしょう。あるいはその労働コストは価格として跳ね返ってくることは必定です。このことをどうとらえるかは各個人の判断ですが、私は農薬と殺虫剤は作業者や周辺の住民、さらには河川の汚染による環境汚染によって人の健康にはマイナスの影響を及ぼすと思っています。私たちは、生物界の生命メカニズムを破壊することを目的とする農薬と、従来の大豆品質と同等とみなされている遺伝子組み換え大豆は区別して考えておく必要があるでしょう。

 

一方、輸入大豆に農薬の危険性が高くて国内産大豆には心配がない、とは一概にも言いきれないのです。前の項目、「日本の大豆栽培」の項目でも触れましたが、大豆栽培に使われている農薬代金を比較すると、アメリカ大豆では10a当たり70円に対して日本の農家は1,219円と17.41倍の代金を支払っているのです。もし農薬の価格が日米同じであれば、日本の農家はアメリカの農家に比べて17倍量の農薬を使用していることになります。農薬の種類が違うこともあるでしょうが、除草剤、殺虫剤が効果を発揮するのが生物の生命メカニズムを狂わしていることについては同じことです。農薬散布には細心の注意が必要であることには間違いありません。

 

豆腐や納豆の製造業者の間で繰り広げられる過当競争が消費者を巻き込んだ戦いになることは他の商品でもよく見られることであり、消費者を怖がらせて自分の商品へと向かせるマーケティング商法にも理性を持って対応していく知恵が必要になってきます。「国産大豆だから美味い」、「遺伝子組み換え大豆でないから健康だ」とのキャッチコピーを具体的に証明できますか? これらは所詮、食品メーカーの単純な営業戦略に過ぎないのです。

 

遺伝子組み換え大豆に神経質になっている人たちは、どんな健康被害を恐れているのでしょうか。遺伝子組み換え大豆の成分は従来の大豆と全く差がないことを政府が保証しているのです。しかし「遺伝子組み換えでない」と詠っている納豆や豆腐にしても、遺伝子組み換え大豆はゼロです、とは言っていないのです。5%まで遺伝子組み換え大豆が含まれていても「遺伝子組み換えでない」と言ってもいいことになっています。つまり納豆20粒を口に入れたら、その中の1粒は遺伝子組み換え大豆かもしれません。私たちはそれを毎日食べているのです。 

 この現実は、米以外の主要穀物をすべて海外に依存している日本においては避けて通れない道であることを認識しておく必要があります。アメリカ、ブラジルの農家で生産された大豆が農村のカントリーエレベーターに運ばれ、輸出港に近いターミナルエレベーターに届くまでには多くの輸送設備を経由しています。また、日本の港に穀物船が接岸した後も多くの搬送設備を通り抜けます。これら雑多な行程を潜り抜けながら混入率を5%以内の収めることは大変な苦労であるし、それらをさらに厳格にすればそれらはすべてコストに跳ね返って価格に反映されることになります。安価な食品を要求するのであれば、どこかでコストとの妥協をしていかなければならないでしょう。

 

 掲載日 2019.7

 

 

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