加藤昇の(新)大豆の話

9. 主な国産大豆

  現在農林水産省が公表している大豆の品種は125種あり、このほかに農家が自家生として自分の畑で栽培している品種がいくつかあるとされています。大豆の種まきは北半球では5月頃に行われ、収穫は10月頃が標準的です。発芽から50日ほどで開花しますが、大豆の花は「蝶のような花」と呼ばれるように小さくて可愛い花です。そしてこの花はめしべと雄蕊の両方を持つ両性花であり虫や風に媒介されなくても受粉出来る自家受粉の性質を備えています。だからほとんどすべての花が受粉して実になる効率の良い作物です。花が咲いてから10日すると花の付け根にある莢が膨らみ始め中の種子に栄養が貯まるようになります。この頃の大豆の莢を開くと莢の内側で種子に管がつながっており、根や葉から送られてくる栄養分を種子に貯めていく、人間で言えば「へその緒」の働きをしているものが見られます。この大豆のへその緒は大豆が完熟すると離れてしまい、鞘を振ると中で種子が中でカラカラと動いています。大豆の枝や種子が茶色くなり乾燥してきたら収穫時期になります。なお、枝豆としてみずみずしい種子を食べるときには、まだ葉が青いが莢が充分に膨らんでいれば収穫することが出来ます。しかし日本も北海道から九州まで栽培地が広く気温の差が大きいためにその土地の気候に合った大豆の品種を選んで育てる必要があります。それぞれの地域の気候に合っていて人気のある主な品種を取り上げると、北海道の「ユキホマレ」、秋田県の「リュウホウ」、神奈川県の「津久井在来」、新潟県の「エンレイ」、兵庫県・岡山県の「丹波黒」などが有名です(農水省資料による)。

 

我が国は北海道から九州まで縦に長い地形をしているので気候の差も大きく、それぞれの地域にあった大豆の品種も多くなっています。各地の代表的な大豆品種は次の通りです。

 

地域

主な品種

北海道

ユキホマレ

秋田

リュウホウ

宮城

ミヤギシロ

茨城

タチナガハ

長野

ナカセンナリ

新潟・富山・石川

エンレイ

岐阜・愛知・三重・滋賀

フクユタカ

兵庫・岡山

丹波黒

四国・九州

フクユタカ

 

これらの大豆は、それぞれの地域の気候に適した品種改良がされており、ある程度の広がりの中で栽培がおこなわれています。もちろんこれらの用途は食品用に限定されて使われていますが和菓子や地域特産の総菜などにも幅広く利用されています。

 

しかし、我が国では2017年に国会で「主要農作物種子法」の廃止が決定されており、これからの大豆の品種改良の取り組みに対する都道府県の取り組みが終了する可能性が起こっています。ただ、この廃案となった「主要農産物種子法」を復活しようとする動きも起こっており、今後の成り行きに注目が集まっています。この「主要農作物種子法」は戦後の食糧難が起こっていた1952年に制定され、それに基づいて米、麦、大豆などの主要穀物の品種改良に対する都道府県の財政的サポートのもとで、それぞれの地域の農事試験場を中心に種子開発が展開されてきました。その結果現在に見られるように、それぞれの地域に対応した品種が生み出されてきました。しかし、都道府県がこれら穀物の種子を開発していると民間の育種事業を圧迫するのではないか、というのが今回の廃案に至った趣旨のようです。

 しかし、花や野菜は比較的種子開発には時間とコストが少なくて済みますが、民間企業が遺伝子組み換え技術を使わない従来の方法で米や大豆のような穀物の品種開発をするのは非常に難しく、結果的にこれらの事業が欧米の巨大種子企業に吸収されていく危険性も見えてきます。現在は、世界の大豆種子の70%をアメリカのモンサント、デュポンなど大手4社で占めています。なんとか我が国の大豆種子は自給できる体制を保ちたいと願っています。

 

 掲載日 2019.7

 

 

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