加藤昇の(新)大豆の話

90. 大豆の品質を決める栽培条件

大豆の収穫が始まる頃になると関係者の間で注目されるのが、収穫されたその年の大豆の品質です。大豆はすでに書いてきたように、含まれている油脂や蛋白質を利用する目的で栽培しているのであり、それらの成分含量が高いかどうかが大豆の価値を決める大きな要素になります。当然栽培している農家も種子会社も高含量を目指して日夜努力をしています。アメリカにおいても穀物会社では高品質の大豆には高い価格で買い取る方針を出しているようです。しかしままならないのが天候です。では、大豆の収穫量や油脂・たんぱく質含量はどんな気象条件に影響を受けているのだろうか。このことを正確に答えるだけの十分な分析が現段階ではされていませんが、その指標はいろいろなデーターから垣間見えてきています。そこで、どんな要因が大豆の栽培に影響をしているのかを紹介したいと思います。

 

 まず、大豆の収穫量に影響を与える要因から見てみると、当然のこととして太陽から受ける光の量が挙げられます。大豆の種子に貯蔵される栄養分は光合成で作られるものであり、光の量が影響していることは常識でも考えられますが、この光を受ける葉の量が最初のポイントになります。太陽からの光の量と共に、夏の最も繁茂したときの葉の量が大豆の収穫量に比例しています。次にこの収穫量を最大にするために、大豆の植物体が吸収しておかなければならない窒素分は農地10a当り30kgとされています。ところが、このうち根瘤菌で固定され、供給してくれる窒素分が18-20kg/10aもあるのです。残りは肥料と土壌微生物が分解して土壌中に含まれている窒素分です。 このときに肥料として与える窒素分は1.5kg/10a以下であることが大切なのです。大豆の根に寄生している根瘤菌は、窒素肥料を余分に与えられるとその分働かなくなるという不思議な性質を持っています。だから、肥料を与えすぎることは根瘤菌を弱らせることにつながるのです。根瘤菌の不思議な働きについてはすでに触れておいた通りです。肥料と含油量の関係では、リン酸とカリ肥料が含油量を増加させ、石灰の施肥量が多いほど含油量が少なくなる関係が明らかになっています。

 

気温による影響

 大豆の品質に与える気温の影響について、アイオワ州立大学での研究があります。それによると、まだ大豆が花をつけている時期や莢が出来た時期では気温の影響は大きくないが、種子が形成され登熟していく過程では気温の影響を大きく受けるとされています。この時期に日中の気温が高くなると油分が減少し、蛋白分が増加します。しかし、この関係も直線的なものでなく、気温が21-27℃では蛋白質は減少し、35℃では増加します。一方、含油分については、種子が登熟期を迎えているときの日中の気温が大きく影響し、21-29℃で油分は増加し、35℃で減少するのです。つまり、登熟期に35℃を超える高温になると蛋白質が多く油脂の少ない大豆ができることになります。

また、標高と含油量の間にもかなりの関係があるとしており、南アフリカで調査したデーターによると標高の項い所ほど含油量が低下する傾向が示されています。この傾向は大豆に限らず一般的な傾向として広く適応できそうに思われます。

 

脂肪酸組成、ビタミンへの影響

 脂肪酸組成も登熟期の気温に影響を受け、より暖かい気温ではオレイン酸含量が増え、リノール酸、リノレン酸が減少するのです。この傾向は、同じ品種の大豆を栽培しても、アメリカ南部で栽培された大豆は、北部のものに比べて含油量が高く、その脂肪酸組成はリノレン酸が少なく、オレイン酸が多くなる現象として表れています。しかし、この期間に夜の温度が30℃になるとオレイン酸が減少しリノール酸が増加します。

 種子に含まれるビタミンE量も日照量と関係しているのではないかと考えられています。ビタミンEは強い抗酸化力を持っており、熱や光に弱い油脂が酸化されるのを防いでいるのではないかとみられています。ビタミンEがあまり多くない油糧植物もポリフェノール類のような酸化防止機能のある物質を持ちながら強い太陽の光に対応しているのです。

 

 アメリカ大豆輸出協会は毎年収穫されるアメリカ大豆の品質について分析評価を続けています。その大豆品質の分析値を、過去20年間に亘って並べてみると、単位面積あたりの収量は毎年高くなってきていますが、油分と蛋白質の含量は横這いとなっています。収量の向上は種子、農薬、天候などの総合的な結果であり、しかも広域では各地の変化が相殺されてしまって見えてきません。おそらく狭い地域に限ってみれば上に述べたような関係は示されていると思われます。しかし、油分が高い年は蛋白質が低いという傾向ははっきりと認められ、種子中の蛋白質と油分は、蛋白質が1%増加したら油分が0.43%減少するという関係が見えてきております。

 

 アメリカの大豆産地の中心が少しずつ北へずれていっていることは地球温暖化の影響を受けているのではないかと考えられています。このような現象は日本をはじめ世界の各地で起こっていることと思われます。そしてこのことは、少しずつ油分の少ない、タンパクの多い大豆に傾いていくことを暗示しているのではないでしょうか。

 

 掲載日 2019.7

 

 

大豆の話の目次に戻る