加藤昇の(新)大豆の話

89. 食糧問題の背景には水問題が

 現在、地球規模で穀物生産に必要な水の不足も叫ばれています。地球は水の惑星といわれていますが、地球表面に存在する全水量の97.5%は海洋の塩水であり、淡水は僅かに2.5%に過ぎません。しかもその淡水も大部分は南北極の氷雪であり、私たちが直接利用できません。一般に利用可能な淡水は湖沼水、河川水、地下水、土壌水でその量は全水量の0.01%程度であると言われています。その利用可能なわずかな淡水資源の54%を活用しながら、現在の地上の生活は営まれているのです。しかし、水の枯渇によって、2025年には私たちが使う水は少なくとも淡水の70%までに達すると予想されます。しかし、このような高い効率の水利用は物理的にも不可能であると考えられています。つまり食糧生産に利用できる水資源の不足は目前であり、かつ確実でもあるのです。

20033月、関西で世界水フォーラムが開かれました。そこではわが国の輸入農産物にまつわる水問題が議論されたのです。食糧生産に使われる水を考えるとき、日本は農産物の輸入を通して膨大な水の輸入国と見なされます。輸入穀物、野菜、畜肉など、どれも数倍の水を使って生産しており、日本は輸出国の農業用水を毎年600億トン輸入している計算になる、というのです。牛肉1sを生産するのに、20トンの水が必要であり、食糧の問題は実は水の問題であるとも言えるのです。いま、トーモロコシと大豆を原料にして石油に代わるバイオ燃料を作ろうという動きが活発です。大豆1kg生産するために1トンの水が必要ですし、トーモロコシは大豆よりもはるかに多くの水と肥料を必要とします。今後、世界は食糧問題、そしてその背景にある水問題を巡って深刻な対立の場面を迎えることになるでしょう。

 

 人類を含めて動物はエネルギーの元となる有機物を自分で作ることが出来ません。植物が光合成で作った有機物をもらって食糧とし、消化吸収して体内で組替えているに過ぎないのです。我々人類は植物の光合成活動を通じて太陽エネルギーを間接的に利用して生きているのであり、与えられる太陽エネルギー量が地球上での生物の生存可能量と見ることも出来ます。いくつかの前提条件を踏まえながら、このエネルギーの利用可能量から推定して、地球の穀物生産可能量は限界に近づいているという大胆な仮説が出ています。

 それによると人類が穀物だけを食べる生活をした場合の地球の人口収容能力は157億人となる。逆に極端な話として、人類が牛肉だけを食べて生活をしたら地球は4億人分の食糧しか供給できないことになります。太陽の光を最も効率よく利用してもこの程度であるというのです。しかし、ご存知の通り現在地球上では乾燥による耕地の急速な砂漠化や塩害が進んでいます。砂漠化のスピードは毎年6万平方キロメートルといわれています。現在の作物の生産性が格段に向上しなければ地球は65億人の人口を養うことすら難しくなるでしょう。つまり地球の穀物生産能力は限界に近いところにきているのです。

中国の経済発展に伴う食糧需要の急速な拡大は、それらをまかなう供給力が果たして伴っていくのだろうか、という不安として世界に広がっています。さらに最近になって、急に横から顔を出してきたバイオ燃料の生産に、多量の穀物を原料として供給していかなければならないという状況に不安は深まるばかりです。

 現在、各国の研究機関などから、地球温暖化が進む中での穀物生産力について、次々とシミュレーションが発表されています。それらに共通している未来像は、地球温暖化の進行に伴って穀物の栽培適地の移動や乾燥、砂漠化、塩害化に伴う耕作地域の減少という姿が描き出されています。2006年に東大生産技術研究所が発表した予測では、2075年には地球上で40億人以上の人たちが水不足に悩ませられることになるというものです。さらに2007年には国連の「気候変動に関する政府間パネル」の作業部会から、現在水不足で悩んでいる人は地球上に11億人いるが、2050年にはさらに10億人以上増えると共に、全生物種の2030%が絶滅の危機にさらされる、という衝撃的な報告が発表されました。この報告はさらに、アジア地域では穀物の収穫量が3割程度減少することによって、食糧価格が高騰し、13千万人が新たな飢餓状態に陥る、というものでした。このような温暖化による地球の生産力の低下については、すでに新聞やテレビで多くの人の知るところとなっています。

 

 掲載日 2019.7

 

 

大豆の話の目次に戻る