加藤昇の(新)大豆の話

87. 地球の生産能力

 2025年には、中国だけでも17,500万トンの穀物が不足するとの予測もあります。この数字は世界の穀物貿易量に匹敵する膨大な量です。中国だけでなく、将来インドなど経済発展を背景とした食糧消費の急速な拡大がいくつかの国々で予想されています。国連の調査によると2025年になると世界人口は80億人に達すると見込まれ、十分な食糧を確保するには世界の食糧生産を倍増する必要があるといわれています。はたして我々の地球にそんな余力が残っているのだろうかと不安がよぎります。過去100年間で世界の人口は15億人から60億人へと4倍にも急増しました。しかしこれを補う科学技術も進み、人類の歴史の中で食糧生産が最も伸びた世紀といわれています。近年50年間で食糧を約3倍も増産することに成功したのです。しかし最近になって、この豊かな生産体制にも赤信号が垣間見えるようになってきています。地球各地に起こっている耕地の砂漠化、塩害、農業用水の不足、地下水の減少、森林伐採による環境破壊などなど、これから先は課題山積です。

 私たちが使用している大豆の7割を輸入している米国も例外ではありません。米国の大豆生産地の中には地下水を汲み上げるセンターピポット方式で灌漑をするという栽培方法をとっている所もあります。半世紀にわたる地下水利用栽培の結果、地下水量は減少しており、あと25年で枯渇するとさえ言われています。さらに地下水位も、1年間で3m低下しているとも、80年間で100フィート低下しているとも言われています。アメリカはこの状況を改善するべき2013年から「サスティナビリティ認証プロトコル」を作成して土壌の喪失や水資源の保護に取り組んでいます。このような取り組みがなければ米国大豆の将来像は現在の延長線上にないことだけは明らかです。もう一方の大豆供給国であるブラジルも、アマゾンの熱帯森林の伐採による耕地の拡大に批判の声が大きくなっています。

 現在、地球の耕地面積は約16億ヘクタール、そこで栽培される穀物全体の生産量は20億トンといわれています。そのうち大豆は3億トン生産されているのです。今後、さらなる増産を期待するには、限られた耕地での単位収量をあげることが先決ですが、それらも限界に近いと思われます。

 穀物で飼育している畜肉の摂取を控えて、直接人が穀物を食べることにすれば地球の人口増を補うことは出来るでしょう。先進国では肉食が多いので、結果として消費する穀物の量は畜産飼料を含めて一人で約900s/年となるのです。穀物を主体としている開発途上国の食事では、穀物の摂取量は250s/年程度と推定されています。それは牛肉を1kg作るのに飼料穀物が、少なくとも12kg必要とされるからなのです。もし地球上の人達が現在の先進国と同じ肉食中心の食生活を求めれば、現在の食糧生産量で生きられる地球の人口は約22億人といわれ、開発途上国の食生活のレベルで約80億人とされています。

 現在の動物性たんぱく質の生産は多くの穀物飼料を与えることによって成り立っているのです。このように人が動物性タンパク質を摂取するために穀物や大豆などの植物を飼料として動物に与え、動物性タンパク質に変えて摂取するためにタンパク質としては70〜80%がロスとなっているのです。私たちが直接植物性タンパクを利用することは食料資源の有効活用になるのです。さらに動物性タンパク質の摂取を控えて大豆などの植物性タンパク質を摂取することは同時に摂取される動物性脂肪を控えて、植物性脂肪に切り替えることによる健康面での改善にも貢献することになるのです。

世界の人口が80億人になると予想されている2025年は目の前に迫っています。20年後に地球は人間で満杯となり、肉を求めて食べ物の取り合いとなり、そして穀物の価格は大幅に高騰することになるでしょう。歴史的に見ても食糧不足が暴動や革命につながり、そのことにより社会体制がひっくり返った、という事例は枚挙に暇がない。我が国における農民一揆、18世紀のフランス革命やロマノフ王朝を倒したロシア革命などが思い浮かびます。しかし、同じことが地球規模で起こったら、それは穀物をめぐる南北闘争であり、世界大戦に発展してしまいます。これらの課題を克服する道が求められているのです。

 

 掲載日 2023.8

 

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