加藤昇の(新)大豆の話

66. 大豆レクチンについて

 大豆には本当に色々なものが含まれているものだ、と今更ながら感心させれられます。レクチンは特殊な機能を持ったタンパク質であり、いくつかの動植物に含まれています。レクチンが最初に注目を集めたのは、赤血球を固まらせる働きを持っていることでした。大豆に含まれるレクチンもやはり赤血球を凝固させるために、大豆の有害物質の1つとされていたのです。しかし口から摂取した場合、腸管から吸収されることはないことから今では問題にされていません。では、大豆はどうしてこのようなタンパク質を持っているのだろうか。いくつかの推測があり、植物体内での糖分の輸送や貯蔵への関与、抗体に似た働き、昆虫からの防御、根粒菌との相互作用などが想像されていますが結論は出ていないのです。

ではなぜマメ科植物にレクチンが含まれているのか。いや本当はマメ科に限らず敵から逃げることが出来ない植物に広く備わっている菌類や昆虫に対する防御システムの一つではないかと思っています。大豆にはトリプシンインヒビターとリポキシゲナーゼという二つの、自分の身を守る酵素を身に着けていることが分かっていましたが、レクチンは第3の防御システムである可能性があるのです。そしてマメ科植物の持つレクチンが認識した細菌にたまたま窒素固定能があったという偶然性によるものではないかと思っています。これらの真相は早晩解明されるものと期待しています。

 

レクチンの利用

 大豆レクチンが注目を集めているのは、むしろ医療・生化学分野での特異的な働きにあります。現在大豆レクチンは人のA型の血液にたいして強く反応することから血液型判定試薬として利用されています。また、体内の各組織に結合している糖鎖に対し、非常に特異的に結合するという、貴重な働きをすることから医薬品開発や生化学試薬としても利用されているのです。

 さらにレクチンには魅力的な可能性が広がっているのです。それはレクチンが私たちの消化吸収のメカニズムに関係している可能性があるからです。口に中の粘膜にはレクチンと結合する微小組織があることが知られており、このようなことから将来、味覚に対する影響、あるいは唾液への関与へと発展していくことが考えられています。また、動物試験で大豆レクチンを投与したところ血液中に満腹感を脳に伝えるホルモンが高まってくることが確認されています。このことは、大豆レクチンが肥満対策にもつながっていく可能性も想像させてくれるのです。

 

レクチンの可能性

 レクチンは消化管の表面上皮細胞と反応するので、多量に摂取すると消化吸収を抑制することが考えられたり、逆に少量のレクチンを摂取したときは、腸の消化吸収の効率や免疫系、細菌の環境にさまざまなプラスの影響を与える可能性があるのです。レクチンは、小腸や腸内細菌などに影響を与えながら、私たちの消化吸収に深く関わっている様子が見え隠れしています。植物レクチンが消化吸収を抑える行為は、消化管内膜にある糖鎖に親和性の高いレクチンが先に結びついてしまうことによって起こるものと考えられています。また、ある種のレクチンが、脂肪分解を促す因子であることなども知られていたり、インスリンに似た働きをすることも確認されています。これらのレクチンは食物の中に加えて摂取することが出来るために、毒性を持たないレクチンは、抗生物質にとって代わる優れた候補でもあるのです。

 

 それは、病原体の感染を自然にコントロール出来る姿につながっているのかも知れません。例えば、腸の中にあって、細菌の接着を阻害するレクチンが確認できれば、腸の疾病予防や食物の安全性の向上になるからです。ウシの膵臓にある酵素が糖鎖と相互作用をしていたり、ブタの膵臓にある消化酵素はレクチンと結合したりと、これらの酵素が糖鎖を認識する能力を持っていることなどが確認されています。これらの現象は、糖鎖が消化吸収という場面で役割を担っていることを示しており、糖鎖を介してレクチンが影響している図式が考えられます。また、レクチンは虫の消化管の細胞表面糖鎖と結びつくことによって、ある種の植物が害虫に対して抵抗性を示し、天然の殺虫剤として働くことも考えられます。つまり、植物にレクチンを遺伝子導入し、害虫を防ぐことが出来る可能性が浮かんでくるのです。

 

 レクチンにはまだまだ未知な部分が多く、私たちの体の中でどのような役割を演じてくれるのか、これからの研究に待たなければならない部分が多く残されています。しかし少しずつその入り口が見えてきているようにも思っています。これからどのような世界が現れるのか楽しみです。

 

 掲載日 2019.7

 

 

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